さる8月27日、かねてから子会社化に動いていたJ・フロントリテイリングがファッションビルのパルコを手中に収めた。株式の65%を取得し、これも買収を目論んでいた森トラストとイオンを排除するかたちとなった。
では、なぜこうまでして各社がパルコを手に入れたいのだろうか。デベロッパーの森トラストは、オフィスビルや高級マンション、ホテル&リゾートの開発がメーンのため、新たにファッションビルが加れば、営業メニューが格段に広がると考えたのだろう。
東京ではまだまだ都市再開発が発生する可能性があり、知名度の高いパルコを持っていれば案件を手にできる公算は高くなる。1999年、実際に西武百貨店からパルコ株の譲渡を打診された時は、不良資産の多さに戸惑っている。それを徐々に整理しながら財務改善を進め、ファッションビルとして再生。実績は十分ある。
一方、イオンはスーパーのジャスコを中心に“狸や狐が出るエリアに店を出す”政策で、ローカルマーケットを攻略してきた。その路線はイオンモールの開発でも変わらず、ジャスコを各店舗にそれを補完する形でローカル向けの専門店をリーシングしてSCを展開した。地方の都市部ではフォーラスも展開していたが、単なる商業ビルの域を出ず、パルコほどのネームバリューを得ることはできなかった。
さらに中国への進出を目論む上では、郊外はイオンが押さえるとしても、都市部展開の器を持たないため、パルコはぜひとも提携を進めたい相手先に他ならなかったのである。
しかし、筆者は今のパルコに買収するほどの意味があるとは思わない。なぜなら、パルコのブランド価値は、80年代、DCブランドを軸とした先端ファッションをリーシングした商業ビルとしての先駆者、そして劇場運営や出版物刊行など、堤清二&西武セゾングループのクリエイティブ戦略の栄光と遺物でもっているに過ぎないからだ。
確かに田中一光や石岡瑛子、浅葉克己、山口はるみや糸井重里など、希代のクリエーターを起用して渋谷の若者文化を発信、牽引し、単なる商業施設では味わうことのできない付加価値を創造した功績は大きい。でも、それはあくまで文化的価値の域を出ず、未来永劫と活用できるビジネスモデルとは言い難い。ましてクリエーターたちに支払った莫大なギャラが残したものは、クリエイティブクロニクルと有利子負債の一部であるわけで、それが成熟した21世紀のビジネスで多額なリターンをもたらすとは考えにくいのである。
当のJ・フロントリテイリングは、傘下の百貨店である松坂屋や大丸がじり貧状態であるため、若者に強いパルコを買収することでヤングテナントのリーシングで優位に立ちたいと、買収の狙いを語る。しかし、都市部の商業ビル開発におけるテナント争奪戦は熾烈を極めており、必ずしもパルコが優位に立てる状況ではない。
すでに往年のクリエイティブ&カルチャーパワーを持ち合わせていないパルコに諸手を上げて出店するテナントがどれほどあるかってことだ。テナント側にとっても、出店するなら保証金や歩率家賃、内装費のピンハネの有無、指定レジ、クレジット手数料などの条件でいちばん有利なところにするはずである。
デベロッパーのうま味に目をつけたとしても、思惑通りに行く保証はないのである。
現にこの秋に改装する各種商業施設を見ても、コンテンツの不足は否めない。ファッションビルにとっては新規テナントとしてリーシングしたブランドかもしれないが、大半はすでにあるものばかりだ。
ここ数年、大手セレクトショップが力を入れている駅、空港、PAの業態やファミリー向けの値ごろなライフスタイルショップにしても、別に珍しくも何ともなくインパクトを欠いている。テナントの多くはターゲットを広げた雑貨業態ばかりで、アパレル主体の目玉ショップがほとんど無いから、ファッションビルの顔が保てるはずはない。
残るは外資系SPAだろうが、米系ブランドはすでに出揃ってしまい、日本市場でこれ以上求められるとは思えない。あとはアジア系のチャールズ&キースやシャンハイ・タンに活路を見い出すしかないだろう。ただ、これらもLVMHやリシュモンといったファッションコングロマリットに買収されているから、おいそれとビルインに出店してくれる保証はない。
つまり、J・フロントリテイリングがパルコを傘下に収めたことが百貨店グループの戦略を優位にさせるとはとても考えにくいのである。仏作って魂入れずではないが、器買って、中身あらずにもなりかねないのが今のファッション業界なのだ。 いくらファッションビルを持っていてもテナントが無ければ、デベロッパーのうま味も享受できないということである。
では、なぜこうまでして各社がパルコを手に入れたいのだろうか。デベロッパーの森トラストは、オフィスビルや高級マンション、ホテル&リゾートの開発がメーンのため、新たにファッションビルが加れば、営業メニューが格段に広がると考えたのだろう。
東京ではまだまだ都市再開発が発生する可能性があり、知名度の高いパルコを持っていれば案件を手にできる公算は高くなる。1999年、実際に西武百貨店からパルコ株の譲渡を打診された時は、不良資産の多さに戸惑っている。それを徐々に整理しながら財務改善を進め、ファッションビルとして再生。実績は十分ある。
一方、イオンはスーパーのジャスコを中心に“狸や狐が出るエリアに店を出す”政策で、ローカルマーケットを攻略してきた。その路線はイオンモールの開発でも変わらず、ジャスコを各店舗にそれを補完する形でローカル向けの専門店をリーシングしてSCを展開した。地方の都市部ではフォーラスも展開していたが、単なる商業ビルの域を出ず、パルコほどのネームバリューを得ることはできなかった。
さらに中国への進出を目論む上では、郊外はイオンが押さえるとしても、都市部展開の器を持たないため、パルコはぜひとも提携を進めたい相手先に他ならなかったのである。
しかし、筆者は今のパルコに買収するほどの意味があるとは思わない。なぜなら、パルコのブランド価値は、80年代、DCブランドを軸とした先端ファッションをリーシングした商業ビルとしての先駆者、そして劇場運営や出版物刊行など、堤清二&西武セゾングループのクリエイティブ戦略の栄光と遺物でもっているに過ぎないからだ。
確かに田中一光や石岡瑛子、浅葉克己、山口はるみや糸井重里など、希代のクリエーターを起用して渋谷の若者文化を発信、牽引し、単なる商業施設では味わうことのできない付加価値を創造した功績は大きい。でも、それはあくまで文化的価値の域を出ず、未来永劫と活用できるビジネスモデルとは言い難い。ましてクリエーターたちに支払った莫大なギャラが残したものは、クリエイティブクロニクルと有利子負債の一部であるわけで、それが成熟した21世紀のビジネスで多額なリターンをもたらすとは考えにくいのである。
当のJ・フロントリテイリングは、傘下の百貨店である松坂屋や大丸がじり貧状態であるため、若者に強いパルコを買収することでヤングテナントのリーシングで優位に立ちたいと、買収の狙いを語る。しかし、都市部の商業ビル開発におけるテナント争奪戦は熾烈を極めており、必ずしもパルコが優位に立てる状況ではない。
すでに往年のクリエイティブ&カルチャーパワーを持ち合わせていないパルコに諸手を上げて出店するテナントがどれほどあるかってことだ。テナント側にとっても、出店するなら保証金や歩率家賃、内装費のピンハネの有無、指定レジ、クレジット手数料などの条件でいちばん有利なところにするはずである。
デベロッパーのうま味に目をつけたとしても、思惑通りに行く保証はないのである。
現にこの秋に改装する各種商業施設を見ても、コンテンツの不足は否めない。ファッションビルにとっては新規テナントとしてリーシングしたブランドかもしれないが、大半はすでにあるものばかりだ。
ここ数年、大手セレクトショップが力を入れている駅、空港、PAの業態やファミリー向けの値ごろなライフスタイルショップにしても、別に珍しくも何ともなくインパクトを欠いている。テナントの多くはターゲットを広げた雑貨業態ばかりで、アパレル主体の目玉ショップがほとんど無いから、ファッションビルの顔が保てるはずはない。
残るは外資系SPAだろうが、米系ブランドはすでに出揃ってしまい、日本市場でこれ以上求められるとは思えない。あとはアジア系のチャールズ&キースやシャンハイ・タンに活路を見い出すしかないだろう。ただ、これらもLVMHやリシュモンといったファッションコングロマリットに買収されているから、おいそれとビルインに出店してくれる保証はない。
つまり、J・フロントリテイリングがパルコを傘下に収めたことが百貨店グループの戦略を優位にさせるとはとても考えにくいのである。仏作って魂入れずではないが、器買って、中身あらずにもなりかねないのが今のファッション業界なのだ。 いくらファッションビルを持っていてもテナントが無ければ、デベロッパーのうま味も享受できないということである。