HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

2年前にデザインしたコート、完成。

2012-12-26 11:35:10 | Weblog
 前にこのコラムでも紹介したコートが完成した。2年前、懇意にするメーカーから「メンズのコートをデザインしませんか」とオファーを受け、サンプル制作でお蔵入りしていたものだ。
 元来、レディス畑しか歩んでこなかったので、取り立ててメンズの勉強はしていない。だから、この際、いろいろと学習するつもりで制作に臨んだが、メンズコートを仕立てるにあたって改めていろいろ習得できてよかった。
 メンズのコートは、スーツと同じように「肩の仕立て」が良し悪しを決める。肩山のできあがりが着心地はもちろん、われわれデザインにあたる人間が意図するライン、モードにおける価値観、時代性など、あらゆるものを表現するということを再認識した。
 前回も書いたが、洋服の仕立ては肩山をふっくらとさせるために2本のぐし縫いと、くせ取りを入れて肩山の丸みをつくっていく。特にメンズの場合はしっかりと芯地をはることで型崩れを防いでいる。



 かつてメンズの仕立て職人さんは、千鳥がけ、ハ刺し、くせ取りといった手仕事による、指先の微調整によって表地と芯地のバランスを針と糸でさしこんでいたし、地の目を通すことによって、狂いの少ない洋服をつくりあげていたのだ。
 しかし、それではブリティッシュスタイルのようなガチガチで、いかにも堅牢な仕立てになってしまう。伝統を重視するならそれでもいいが、モードやファッションを意識したい人間からすれば、ソフトな素材を使ってライトで遊びのあるコートに仕上げたい。
 だが、それにも相応な技術が必要なのである。ソフトな素材は肩山にぐし縫いを入れても、素材の柔らかさによって時間が経つと型崩れしやすくなる。そのため、肩山のトップ部分の縫い代を平に割り、袖部分の肩にドミットを入れ、少し丸みを持たせたソフトな肩ラインを出すようにした。




 特に今回のデザインは、身頃をウール素材に、袖はレザーにした。生地はイタリア製フラノのスーパー150’Sと袖の革には軽めのホースレザーを使っている。フラノは 気温の低い冬場においては、生地の目が詰まり、服地の下で暖まった空気を逃がさず、乾燥した空気に対応してスケールが閉じる。そして自身の水分を保ち、ウールに備わっている自然な油分と共に生地の表面をしっとりと保つのだ。
 逆にホースレザーはこしがあるがカーフほど固く無く、ラムのような脆弱でもない。質感がしっとりして適度な柔らかさをもつので、大人向けのウエアに使うと非常に着やすい。
 バイマテリアル、つまり異素材の組み合わせだ。身頃の生地はフラノ。袖の革には当初ラムを使う予定だったが、こしがないので少し厚めで接がずに二枚袖の用尺が取れるホースレザーに変更した。
 そこで肩周りの副資材がカギを握った。 柔らかな素材と薄めの肩パッド、芯地によって、従来のメンズコートにはない新しいソフトなイメージを作り出せた。



 全体のフォルムは、ドイツ軍の将校コートをデフォルメして、シンプルだが着やすさを重視した。またそれを支える素材も吟味した。デザイナーとしては、仕立てと素材の双方を大切にしながらも、決して自身のラインを崩すことなく表現した。そして、出来上がりを見て、良質な素材だからこそ際立つシンプルさと上品さは、フランスのモードにも共通するのではないかと感じる。
 
 素材と仕立ての良さに裏打ちされるシンプルさゆえに、自分の個性を表現できるのだ。かの有名SPAの総帥が宣う「個性は洋服でなく、着る人間が出すもの」も、素材が上質で、仕立てが良いからこそ、成り立つと思う。
 それゆえ、素材と仕立てが良ければ、着る人間が負けてしまうということもあるかもしれない。いい換えれば、シンプルゆえに自分の個性を表現でき、取り入れ方次第でダサくも、カッコよくもなり、着る側にとってはむずかしさもある。しかし、それがデザイナークリエーションの素晴らしさと魅力であり、作る人間の感性と技も生かせるのだ。
コメント
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