7月8日付けの繊研新聞に「地方百貨店の嘆き節」とも言える、「良い商品がなかなか地方まで回ってこない」とのコメントが載っていた。
人口減少やSCの台頭で、地方百貨店は厳しい経営環境にある。加えて売れ筋のフォロー、売りたい商品がメーカーから回ってこなければ、死活問題なのはわからないでもない。
反面、アパレルからすれば、「何を虫がいいこと言っているんだ」である。売れ筋を供給しても数を売り切らない、店頭在庫を増やせば返品のリスクが増える。量産しないと利益が出ない側として、数が売れる都心店に重点的に配分するのは当然だろう。
業界紙だから、両社の立場を考慮し「互いにメリットを享受できる取引先政策の変更や構造改革が避けられない」とやんわり結論付けていた。その手段も「商品、顧客の情報共有をはじめ、仕入れや人件費などリスク分担の見直し、新たな商品、売り場開発などの協業モデルの再構築が必要だ」という懐柔策だ。
しかし、商品や顧客情報の共有化は、通販企業でははるか昔から実施されているし、今さら地方百貨店が導入したところで、どれほど精度の高いものを構築できて、実効力があるのか。また、委託取引、派遣販売員制度を続ける限り、アパレルとのリスク分担になるかは疑わしい。
共存、共栄というのは容易いが、百貨店側の「買い取り」無しで、仕入れに対する精度が上がるとは思えない。協業モデルなんぞ生温いものではなく、ドラスティックな自主販売だからこそ、顧客に提案するMDが築けるし、 買い取ったからこそ、自店で最後まで売り切らなければならない。販売ロスや機会ロスへの心構えもできるのだ。
百貨店として荒利益が確保できれば、アパレルとの歩率や人件費負担でも折り合いがつけられる。1型くらいと言わず、思いきって1コーナーすべてを自主編集・買い取り商品にして、地力で販売してみることが必要ではないか。そこから、バイヤーも販売スタッフも育つのである。
話はズレるが、だいぶ前、正月明けに熊本市に泊まりがけの出張をした。朝、ホテルで地元紙の正月版を見ていると、地元経営者が多数登場する広告の「企画枠」が目についた。
Q&A形式の年頭所感、所信表明で、その年の経営戦略や事業展開を語るものだ。その中で、老舗百貨店のトップのコメントが気になった。すべての答えで、ことさらに「GAPを誘致したから」が強調されていたからだ。
正直、「えっ、今頃、GAPごときで、どれほどの競争力がつくのか」と思った。反面、「ああ、地方百貨店ではGAPのリーシングでさえ、たいへんなんだろうな」という気持ちになった。
もっとも、これは熊本市が置かれている立場を抜きには語れない。ご多分の漏れず、中心商業地の地盤沈下は激しい。通町筋から南北に伸びる商店街の不振、バスターミナルやJR熊本駅との回遊性の悪さ、イオンモールやゆめタウンなど含めた郊外型業態の進出と隆盛etc.
いくら若者が路地裏のストリートに出店したところで、中心商業を活性化するまでの起爆剤にはなり得ない。さらに熊本市がもつ特殊事情もある。九州の玄関口で、ブランドや商品が集中する福岡まで、高速バスで約2時間、新幹線で約35分の距離という点だ。
こうした商圏事情が影響して、福岡への持ち出しは年間100億円以上と言われている。そこで、中心商店街の核店舗とも言うべき老舗百貨店がどういう行動にでるのか。それはお客を福岡に行かせないことであり、郊外SCに進出しないブランドや業態の誘致なのである。
それが先の「GAP」であり、最近では「東急ハンズ」の期間限定ショップになる。しかし、それらはテナントの域を出ないし、東急ハンズといっても話題性優先で、スケールメリットはない。あくまで対福岡の対処療法でしかないのだ。
まして、マスマーケットや売上げ効率を追求する海外ブランドが、地方百貨店の売場に期待しているとは思えない。H&MやForever21、アメリカンイーグルは進出しないだろうし、お客側からすれば、来てほしいのは「MANGO」や「cos」かもしれない。
だから、いくら経営者が「地方百貨店に商品が回ってこない」と嘆いたところで、何の解決にもならない。抜本的には地方百貨店に必要なのは戦略の変更であり、委託取引や派遣販売の見直しである。
MDの再構築といっても、地方百貨店1社ではなかなか踏み出せないから、連携をするという手はどうだろうか。いつまでも伊勢丹系だの、高島屋系だのと、アライアンスにこだわる時代ではないだろう。百貨店経営の軸足は、都心対地方の構造に移っているのだ。
地方百貨店がリスクをもって、買い取り、自主販売という構造改革に打って出ることができれば、新たなビジネス機会が生まれるかもしれないということである。
熊本出張の帰り、バスターミナルに併設される別の百貨店を訪れた。地域2番店ながら、ここでNBでも見たことない秀逸なパターンのミセス服を見つけた。サイズにブレルことなく、自社企画を追求。「へえ~、熊本にこんなお洒落なデザインがあるんだ」と感心したものだ。
疲弊しているとは言え、日本には高い能力をもつアパレルはある。それらと協業すれば、まだまだ活路は見いだせるはずだ。もう百貨店系だの、専門店系だのとこだわっている時代ではない。地方百貨店の改革において、経営者に求められる覚悟以上の決断はないのである。
人口減少やSCの台頭で、地方百貨店は厳しい経営環境にある。加えて売れ筋のフォロー、売りたい商品がメーカーから回ってこなければ、死活問題なのはわからないでもない。
反面、アパレルからすれば、「何を虫がいいこと言っているんだ」である。売れ筋を供給しても数を売り切らない、店頭在庫を増やせば返品のリスクが増える。量産しないと利益が出ない側として、数が売れる都心店に重点的に配分するのは当然だろう。
業界紙だから、両社の立場を考慮し「互いにメリットを享受できる取引先政策の変更や構造改革が避けられない」とやんわり結論付けていた。その手段も「商品、顧客の情報共有をはじめ、仕入れや人件費などリスク分担の見直し、新たな商品、売り場開発などの協業モデルの再構築が必要だ」という懐柔策だ。
しかし、商品や顧客情報の共有化は、通販企業でははるか昔から実施されているし、今さら地方百貨店が導入したところで、どれほど精度の高いものを構築できて、実効力があるのか。また、委託取引、派遣販売員制度を続ける限り、アパレルとのリスク分担になるかは疑わしい。
共存、共栄というのは容易いが、百貨店側の「買い取り」無しで、仕入れに対する精度が上がるとは思えない。協業モデルなんぞ生温いものではなく、ドラスティックな自主販売だからこそ、顧客に提案するMDが築けるし、 買い取ったからこそ、自店で最後まで売り切らなければならない。販売ロスや機会ロスへの心構えもできるのだ。
百貨店として荒利益が確保できれば、アパレルとの歩率や人件費負担でも折り合いがつけられる。1型くらいと言わず、思いきって1コーナーすべてを自主編集・買い取り商品にして、地力で販売してみることが必要ではないか。そこから、バイヤーも販売スタッフも育つのである。
話はズレるが、だいぶ前、正月明けに熊本市に泊まりがけの出張をした。朝、ホテルで地元紙の正月版を見ていると、地元経営者が多数登場する広告の「企画枠」が目についた。
Q&A形式の年頭所感、所信表明で、その年の経営戦略や事業展開を語るものだ。その中で、老舗百貨店のトップのコメントが気になった。すべての答えで、ことさらに「GAPを誘致したから」が強調されていたからだ。
正直、「えっ、今頃、GAPごときで、どれほどの競争力がつくのか」と思った。反面、「ああ、地方百貨店ではGAPのリーシングでさえ、たいへんなんだろうな」という気持ちになった。
もっとも、これは熊本市が置かれている立場を抜きには語れない。ご多分の漏れず、中心商業地の地盤沈下は激しい。通町筋から南北に伸びる商店街の不振、バスターミナルやJR熊本駅との回遊性の悪さ、イオンモールやゆめタウンなど含めた郊外型業態の進出と隆盛etc.
いくら若者が路地裏のストリートに出店したところで、中心商業を活性化するまでの起爆剤にはなり得ない。さらに熊本市がもつ特殊事情もある。九州の玄関口で、ブランドや商品が集中する福岡まで、高速バスで約2時間、新幹線で約35分の距離という点だ。
こうした商圏事情が影響して、福岡への持ち出しは年間100億円以上と言われている。そこで、中心商店街の核店舗とも言うべき老舗百貨店がどういう行動にでるのか。それはお客を福岡に行かせないことであり、郊外SCに進出しないブランドや業態の誘致なのである。
それが先の「GAP」であり、最近では「東急ハンズ」の期間限定ショップになる。しかし、それらはテナントの域を出ないし、東急ハンズといっても話題性優先で、スケールメリットはない。あくまで対福岡の対処療法でしかないのだ。
まして、マスマーケットや売上げ効率を追求する海外ブランドが、地方百貨店の売場に期待しているとは思えない。H&MやForever21、アメリカンイーグルは進出しないだろうし、お客側からすれば、来てほしいのは「MANGO」や「cos」かもしれない。
だから、いくら経営者が「地方百貨店に商品が回ってこない」と嘆いたところで、何の解決にもならない。抜本的には地方百貨店に必要なのは戦略の変更であり、委託取引や派遣販売の見直しである。
MDの再構築といっても、地方百貨店1社ではなかなか踏み出せないから、連携をするという手はどうだろうか。いつまでも伊勢丹系だの、高島屋系だのと、アライアンスにこだわる時代ではないだろう。百貨店経営の軸足は、都心対地方の構造に移っているのだ。
地方百貨店がリスクをもって、買い取り、自主販売という構造改革に打って出ることができれば、新たなビジネス機会が生まれるかもしれないということである。
熊本出張の帰り、バスターミナルに併設される別の百貨店を訪れた。地域2番店ながら、ここでNBでも見たことない秀逸なパターンのミセス服を見つけた。サイズにブレルことなく、自社企画を追求。「へえ~、熊本にこんなお洒落なデザインがあるんだ」と感心したものだ。
疲弊しているとは言え、日本には高い能力をもつアパレルはある。それらと協業すれば、まだまだ活路は見いだせるはずだ。もう百貨店系だの、専門店系だのとこだわっている時代ではない。地方百貨店の改革において、経営者に求められる覚悟以上の決断はないのである。