HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

店に代わるもの。

2017-12-13 05:24:21 | Weblog
 店舗でのショッピングに関心がなくなったわけではないが、身近に買いたくなるような商品が並んでいないこともあり、どうしてもネット通販の話題には敏感にならずにはいられない。だから、ヤマト運輸が「通販の試着ができるサービスを始める」との話題にも即目が止まった。

 来年1月から東京JR大森駅ビルのアトレで実証実験を始めるというから、「いよいよ来たな」という印象である。このサービスはヤマトが売場の一部を借りて、無料の試着室を設けるもので、すでに三陽商会や靴専門店のかねまつなど数社が参加することが決まっている。18年度中にアパレルなど約40社に増やし、複数の駅ビルで展開する考えもあるという。

 ネット通販で衣料品や靴を購入する場合、試着できないというネックがある。これは当初からずっと指摘されてきたことだし、筆者も商品によっては試着は購入条件として決して譲れない点であった。

 ただ、通販事業者の多くは、それよりもブランドの拡販や市場拡大の方を優先し、根本的なテーマに対する解決策は後回しにしてきたのである。具体的なデータは分らないが、通販を利用するお客の大半が試着よりも「購入」を優先することから、事業者は「返品」を受ければ問題ないというスタンスでいたのだと思う。

 ところが、返品自由は逆に配送業者を疲弊させ、配送料値上げに追い込ませるという皮肉な結果を生んだ。通販事業者の中には、「届いた日から30日間返品OK」などサービスをエスカレートさせたため、返品された時点で再販できなくなっている商品も増えている。返品自由はかえって商品ロスを増やすという負のサービスでもあるのだ。

 どこもかしこもネット通販に参入すれば、サービス競争が加熱するのは言うまでもない。それが配送料の値上げや返品ロスに発展したのであれば、それを解決する新たな施策が生まれるのは当然のことだ。ビジネスモデルに完璧なものなどあり得ないわけで、効率を追う限り競争は止めどなく起こり、新たな施策を打たなければ勝ち目はないのである。

 では、試着サービスをいったいどこがやるべきなのか。これについては、 小島健輔氏がだいぶ前から提唱していらっしゃった。「返品率はどこまで上がるの?」http://www.apalog.com/kojima/archive/1934「コンビニからTBPPへ」http://www.apalog.com/kojima/archive/1935 

 同氏曰く、「『オムニチャネル化が進めば、店舗にEC同様な利便、ECに店舗同様なサービスが求められるようになる』と幾度も指摘して来たが、『試着して選ぶ』という店舗同様なサービスがECに求められるのは必然かも知れない。「ロコンド」は『買ってから選ぶ』と謳うが、『買ってから選んで返品』すれば‘返品’だが、『選んで買って残りは返す』なら‘返品’ではなく店舗販売同様な選択に過ぎないのではないか。
 この話がピンと来ないのは、『試してから買う』という‘通販商品お試し受け取り所’(Try Buy Pickup Point)が我が国にはまだ存在しないからだろう。返品が‘常識’になる近い将来、この「TBPP」が普及していないとEC事業者は再販不能な返品商品で経営が圧迫されてしまう
」と、警鐘を鳴らしておられた。

 さらにこのTBPPについては、「「TBPP」専門店には幾つかのアプローチが考えられる。最もストレートなのはアマゾンやスタートトゥデイがショールーム兼「TBPP」として直営するもの、あるいはコンビニのパンクで困る宅配会社が自ら設けるもので、ヤマト運輸はSCなど商業施設内に多店化している「宅急便サービスカウンター」を機能拡張すればよい。家電の設置・設定・修理まで代行する部隊を抱えているのだから、衣料品や靴のフィッティングや修理加工まで手掛けてもまったく不思議は無い。スペースに余裕があるロードサイドでは紳士服店やジーンズカジュアル店はもちろん、ブックストアやCDレンタル店なども挙って進出するだろう」とも、語っていらっしゃる。

 結局、ヤマト運輸は宅急便サービスカウンターではなく、駅ビルに独立した「試着室」をつくり、通販事業者からは商品代金の一部まで手数料として受け取るスタイルに落ち着きそうだ。消費者とっても駅ビルなら仕事帰りに気軽に寄れるし、店舗のように接客を受ける煩わしさもない。

 もちろん、「試着」できることで、 ネット通販の商品でも素材感や色、サイズをはっきり確かめられるのだからこの上ない。気に入らなければ買わずに返せばいいわけだから、販売スタッフに接客を受けた時のような後ろめたさも感じないはずである。

 ネット通販がここまで浸透し、サービス競争が激化すれば、店舗に代わるこの手の業態が求められるのは当然だろう。差別化のために参加するネット通販事業者は、相当増えていくのではないかと思う。ブランディングだの、WEBデザインやコンテンツ作りだのばかりを強調されていたEC礼賛の諸兄は、店舗と同様の「試着」サービスが求められてきたことについては、どうお考えなのだろうか。

 まあ、この手の実店舗ライクなサービスが返品自由による商品の劣化、再販不能もなくして経営圧迫を解消していくのは間違いないから、もう少し早くからネット通販、ECビジネスの俎上で議論されるべきではなかったかと思うのだが。
 おそらくネット通販で遅れを取る企業が先にこのサービスに乗っかるだろうから、Amazonはもちろん、ヤフー、楽天はいったいどうするのか。最終的に当たり前のサービスになっていくとするなら、出店場所はどこがいいのだろうか。都市部なら駅ビルでいいが、地方ならショッピングセンターになるかもしれない。スポット的に商店街の一角やスーパーの一部でも展開が可能かもしれない。

 そうなると、閉店の影が押し寄せている地方百貨店が参入できるかもしれない。ここ1年で大手百貨店の地方店は次々と閉店している。ざっと見ても、今年だけで西武八尾店、西武筑波店、三越千葉店、三越多摩センター店、堺北花田阪急と、5つの地方百貨店が閉店した。そごう神戸店、西武高槻店については、今年10月にエイチ・ツー・オーリテイリングに譲渡されたし、来年の春に向けても西武船橋店、西武小田原店、伊勢丹松戸店の閉店が決定している。

 閉店した三越千葉店の昨期の年商を見ると、地方百貨店のペイラインは150億円くらいではないだろうか。三越伊勢丹の大西洋元社長と言えど、売上げ回復の手段としては旅行やブライダルとの提携くらいしか打ち出せなかったのである。後任の杉江社長とて、リストラ策以外では、日常性を前面に出したMDや上質な商品やサービスといった漠然とした政策しか語れていない。 既存店と言えども相当に厳しいと思われる。

 そう考えると、ネット通販がこれだけ浸透したのだから、 閉店した百貨店跡地の利用では試着サービスの業態を出店させて、百貨店が運営してもいいのではないかと思う。できるできないは別にしても、一考の価値は十分ありそうだ。ただ、個人的にはネット通販市場をもう少し細かく分析し、アドバンスドの層を開拓するサービスもあり得ると思う。

 インターネットは世界中を情報網で繋ぎ、そのコンテンツとして商品が流通することで、通販市場が拡大していくというのが表向きのメソッドだ。しかし、そうは言っても、サイトに掲載されているすべての商品が世界中で購入できるわけではない。クレジットカード指定、国家、エリア、配送先限定等々、まだまだ制約は少なくないのである。

 ネットユーザーだって購入時には為替の変動を頭に入れているから、.jpを含めてどこが得になるかは考える。だが、欧米のサイトにあるような高感度な商品になると、諸外国では購入できないものが少なくない。例えば、Amazonでも.comではOKだが、.frや.ukでは無理という商品もあるし、端から.frや.ukでは購入できる国、配送のエリアを限定しているのもある。

 ブランドのサイトに直接アクセスしたにしても、クレジットカード指定、購入・配送先が限定されたりと、日本では購入できないものも多い。そんな商品に限って魅力があるものは少なくないから、消費者のストレスは計り知れないと思う。

 まあ、中小の購入代行業者も少しずつ増えてきているが、まだまだ法外な手数料を取られるし、企業数が少ないことで競争原理が働かず、フィーへの値下げ圧力もかからない。現地在住の日本人などにアルバイト程度でバイイングやオーダーを依頼しているようで、中には商品・サイズの違いや破損などのトラブルが発生するため、新規客を受け付けないところもある。

 お客は店舗に並ぶ商品に満足できないとか、地方百貨店が次々に閉店して高級、高感度なブランドが地方では購入できなくなっているとかの理由から、ネットで商品を探さざるを得ないのである。今後もそうしたアドバンスドな市場が拡大していくことを考えると、大手百貨店が地方店舗を閉店した後の受け皿としてこうしたサービスに参入してはどうかと思う。

 大手百貨店は世界中に駐在員を派遣しているし、現地の店舗に並んでいる商品ならその目で確認できる。同じ商品がサイトに掲載されているのならもちろん、ネット限定の商品も小売りを担うものとしては、お客ニーズに添う上では徹底してチェックしておくのは当然のことである。

 結局、百貨店のスタッフがビジネスとして購入すること自体は難しくないと思う。通関や配送の問題もあるだろうが、慣れればそれほど障害にはならないはずだ。後は購入した商品を受け取り、保管し、日本へ配送するスポットを確保すればいいだけである。まあ、さすがに試着、返品まで受け付けるかどうかはケースバイケースと思うが、注文代行、購入代行なら直ぐにでも参入できるのではないだろうか。

 EC、ネット通販がここまで身近になったわけだから、ビジネスの方向も進化していくのは自然な流れだ。それさえ煩わしいと考えるのなら、百貨店はEC、ネット通販から完全に置き去りにされるであろうし、高齢化した顧客とともに座して死を待つしかない。

 今でも百貨店の価値は「暖簾」であり、「信用」である。外商の力も十分にある。どこの馬の骨ともわからない事業者に購入代行を頼むくらいなら、百貨店の方が安心できるおいうお客は少なくないはずだ。中小零細の事業者しか参入していないのだから、十分に競争力を発揮できると思うし、参入することでネット通販市場を活性化できるかもしれない。お客が「欲しい商品、好きなブランドなら、高くても手に入れたい」ことを何より理解しているのは百貨店だろう。

 とても試着サービスや注文・購入代行で収益が拡大できるとは思えないが、既存のインフラを有効に活用できる点では十分に検討の余地はあると思う。百貨店は口先やコピーだけで世界中からブランドを集めたなんて語るのでなく、お客が本当に欲しい商品の購入を手伝う方が理にかなっているのではないか。

 日常の買い物、生活に必要な生鮮食品や食材、日用品は既存のスーパーはもちろん、ドラッグストア、ディスカウントストア、そして専門店で十分購入できるし、それにさえネット通販事業者が参入しようとしている。ならば、逆にそうしたカテゴリーを超えたアドバンスドな市場を狙わないと、ネット通販でも全くもって百貨店の存在価値はなくなる。もうブランドを争奪する時代ではないのだから。

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