HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

事業シフトへの試金石。

2018-09-19 05:43:38 | Weblog
 先日、フジテレビが放送した「FNS27時間テレビ にほん人は何を食べてきたのか?」は、番組全体の平均視聴率が7.3%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)で、番組がスタートした1997年以来、最低の視聴率だった。

 筆者は番組開始直後のコーナーをチラッと見たが、お笑い芸人バカリズムのフリップ芸は、鉄拳がかつてやっていたのをパクったものと感じた。もともと番組をぶっ通しで見たことはないが、冒頭からこの程度の企画を見せられては、一気に見る気が失せてしまった。同じように思った視聴者は多いと思う。それが視聴率に表れているのだ。

 ところで、テレビ局の商品と言えば、「時間」である。番組表を「タイムテーブル」と呼ぶのは、ここから来ている。ただ、同じ時間帯でもローカル局の料金は異なる。筆者が住む福岡の局の1時間枠は、大阪の局の同枠より安いと言われる。熊本や鹿児島の局なら、さらに安くなる。その時間を一括して売るのが番組を制作したキー局で、それで得た料金をそれぞれのローカル局に配分する仕組みがネットワークと呼ばれる。だから、ローカル放送局は、ネット局になるのだ。

 キー局は商品やサービス、ブランドを拡販したい大手スポンサーのマーケティングや営業戦略に対応する。そのため、日本全国をカバーできるように、一局でも多くのネット局を確保したい。ネット局はキー局から少しでも多くの「電波料/タイム(提供)CM料」を配分してもらい、キー局から「高視聴率の番組」を受け取ることで、営業成績の向上を狙うのである。

 一方、ローカル局最大の収入源は、番組と番組の間に流す「スポットCM」だ。大手スポンサーのタイムCMのように制作費がかからないので、販売効率はいい。だから、どの局もスポットCMを優先した営業に邁進する。ただ、それはキー局が制作した番組が高視聴率を取ってこそ、スポンサーに買ってもらえ、スポット枠が埋まりやすいとも言える。

 27時間テレビをはじめとするフジテレビ(CX)の番組視聴率が低迷すれば、キー局である同局からネット局に配分される電波料/タイムCM料は減額される。CX系列のネット局がスポットCMの営業を地場スポンサーにかけたところで、「おたくの局の視聴率じゃねえ〜」と、拒否されないとも限らない。ならば自社で番組を制作して、スポンサーに買ってもらえばいいのだが、莫大な制作費がかかるし、それでペイできるだけの広告収入が確保できる保証はない。

 そこで、ローカル放送局が活路を見出そうとしているのが広告収入以外、テレビ受像機の外での営業活動である。ひと言で言えば、「イベント事業」だ。ローカルとは言え、地元での知名度、ブランド力、信頼性を活用し、イベントをプロデュースして集客する。地場企業に対してマーケティング機会を提供し、協賛スポンサー収入を確保するのだ。制作から携われば番組と同じように、イベントは時間消費の「タイムデザイン」とも呼べる。



 実は27時間テレビの詳細が発表される少し前、CX系列テレビ西日本の関係者から、来年4月20日に開催される「『東京ガールズコレクション 熊本』のスポンサー営業を同系列のテレビ熊本(TKU)が行っている」との話が漏れ伝わって来た。同イベントは熊本地震の復旧・復興と地域の活性化につなげるために行われるもので、すでにTGC熊本推進委員会が発足し、熊本市や熊本県が支援することで動き出していた。

 ただ、このガールズコレクションを制作するのは、東京の「W TOKYO」である。熊本のローカル放送局にタレントのキャスティングから、ブランド衣装の確保、ヘアメイクやフィッターの手配、舞台装置の設置、音響照明等々までを仕切るノウハウはないからだ。

 一方で、興業チケットの収入だけでは、とてもイベントの制作費は賄えない。今回は熊本地震からの復旧・復興、地域の活性化という「大義」があり、イベントには熊本県や熊本市がおそらく数千万円の税金を拠出するはずだ。それでも東京からやってくる三文タレントのギャラ他を払うには足りないし、関係各社が収益を上げるためにも、スポンサー確保は不可欠になるのである。

 一応、TGC熊本推進委員会は立ち上がっているが、これは自治体や商工会議所の担当者、地場企業の役付が名前を並べているだけで、ビジネスとして活動するには事業会社でないと無理だ。そこで、地元テレビ局に白羽の矢がたったわけである。

 まあ、スポンサー営業は広告代理店の十八番だが、TGC熊本の制作はW TOKYOに握られており、グロスで受注できないのではピンハネ業の代理店にうま味はない。そこで、スポットCMなどで地元企業に対し営業実績がある地元テレビにお鉢が回ったのだ。地元ではスポンサー営業を行うテレビ熊本を「サポートカンパニー」と呼んでいるらしい。

 公式ホームページ(http://girlswalker.com/tgc/kumamoto/2019/)では、「メディアパートナー」となっているので、テレビ熊本はスポンサー営業を行いながら、自らもスポンサーたるということか。当然、イベントの模様は映像を収録し、他社へのニュース素材の提供、アーカイブにもするはずだ。ただ、三文タレントが所属する芸能プロダクションやモデル事務所は、肖像権管理にきわめて五月蝿い。テレビ局が映像を記録した方がSNSなどでも無断転用を避けられるのである。

 では、なぜ、テレビ熊本なのか。テレビ西日本からもその理由は伝わってきていない。たぶん、同じ客寄せ興行の「関西コレクション」を大阪毎日放送(MBS)が制作しており、それをそっくりパクった「福岡アジアコレクション」は、RKB毎日放送の事業になっている。両社はTBS系列で、熊本では熊本放送(RKK)がネット局だ。系列の関係が影響し、熊本放送の芽は消えたというのが妥当だろう。

 他局は日テレ系の熊本県民テレビ(KKT)、テレ朝系の熊本朝日放送(KAB)がある。ガールズコレクションのスポンサーを集めるだけなら、スポット営業の延長線上でできるので、どこの局でもさほど難しくはない。だから、水面下でスポンサー営業権の選定が行われ、3社によるくじ引きの末に決まったのか。それとも、テレビ熊本は売上げ規模で熊本放送と県下トップを争っているからか。まあ、どこの局に決まろうと、その理由に大した意味はないが。

 逆にテレビ局側の事情が大きいのかもしれない。少し前のデータ(2015年11月14日 週刊ダイヤモンド掲載)だが、テレビ熊本の売上げ(2014年度)は、63億円。これはテレビ西日本(同142億円)の半分以下になる。その内、広告収入は59億円で、9割以上をタイムとスポットの広告収入に頼っている。因にテレビ西日本の広告収入は125億円で、17億円は広告外収入ということになる。

 ご多分にもれず、テレビ局の広告収入は減っており、テレビ熊本も2004年度に比べると、13.9%も減収になっている。2018年度の広告収入は前年比横ばいとしても、10年以上で1割以上減ったことに変わりはない。キー局であるフジテレビの視聴率低下を考えれば、今後も電波料/タイムCMの配分は減っていくだろうし、視聴率がさらに低下すればスポットCMの販売にも影響する。テレビ熊本にとっては広告外収入、事業収入に活路を見出さないと仕方ないのだ。

 では、肝心なスポンサーは、どこが担うか。ホームページを見ると、鶴屋百貨店(小売業)、エルセルモ(冠婚葬祭)、再春館製薬所(健食、製薬)、桜十字病院(医療、介護)、キューネット(警備)、シアーズホームグループ(建築、住宅販売他)、フジバンビ(菓子)、明和不動産管理(賃貸管理)と、桜十字病院を除いて地元では知名度のある企業がイベントスポンサーの不文律、一業種一社で名を連ねている。ファッション業界注目のファクトリエやシタテルは、イベントにマーケティング価値がないとみなしたのか、かける予算がないからか、スポンサーにはなっていない。

 ガールズコレクションに集まるF1層をターゲットにする業種と言えば、ブライダル、エステ、美容、旅行、カルチャースクール、転職サイトなどと相場が決まっている。だが、熊本の経済規模や産業構造を考えると、そうした企業で「パートナー」と呼ばれるビッグスポンサーになれるところはない。2017年度の県内企業の売上げベスト10(商工リサーチ調べ、銀行、農協を除外)を見ても、5社が部品や機械の製造業、3社がパチンコ企業、2社が卸売・小売業。だから、前出の企業にならざるをえなかったとも言える。



 小売業の1社が鶴屋百貨店で、社長がTGC熊本推進委員長を務めていることもあり、TGC熊本では「プラチナムパートナー」という最高位のスポンサーを占める。そのため、イベントを自社の販促にも活用できるようで、「百貨店友の会」への入会(積み立て)を条件に、興業チケットが抽選で当たる企画を実施している。百貨店としては60代以上と高齢化した顧客を何とか若返らせたい。また、イベントに登場する20代向けブランドのリーシングにも弾みを付けたい。ジリ貧になっている地方百貨店の思惑が透けて見える。これついては地元アパレル関係者のイベント参加動向とともに、後日、詳しく分析することにする。

 日本の地方都市は毎年のように台風、地震などの自然災害に襲われている。自治体はその度に復旧・復興を叫ぶ。また、大都市圏と地域との格差はどんどん広がり、人手不足であっても地方には若者が働きたくなるような仕事が少ない。だから、ガールズコレクションは瞬時で終わるタイムデザインにも関わらず、自治体としては若者を惹き付ける街づくり、人づくり、仕事づくりというスローガンの対象にしやすいのだ。

 つまり、スローガンは税金を拠出する格好の大義にもなるのである。この時期に不謹慎極まりないが、岡山での豪雨、北海道での地震でも、「災害から復旧・復興するため」「新たな街づくりへ」は大義となり、ガールズコレクションの制作者側にとって熊本のように格好の営業対象となる。

 そのため、イベント事業者が岡山でも北海道でもガールズコレクションの開催を目論んでいるのは想像に難くない。当然、ローカルテレビ局とっても、事業シフトへの試金石になるのである。すでにビジネスモデル化したと言っても、過言ではないだろう。

 ただ、日本全国どこも同じ客寄せ興行を実施したところで、現状の問題が解決しない限り、地域活性も人づくりも仕事づくりも実現するはずがないことだけは確かである。

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