HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

リメイクで在庫削減。

2020-02-19 06:46:18 | Weblog
 昨年末から冷え込むこともなく、一気に春到来かと思いきや、一昨日の福岡市は111年ぶりという過去最も遅い初雪が降った。自分には寒さより花粉やPM2.5の方が厄介な季節なのだが、今年は状況が全く違う。何せ新型コロナウィルスが心配されるため、観光客が多い天神界隈では人ごみを避けざるを得ない。いつもなら暇な時間を利用して、市場調査や商品チェックを行うのだが、感染のピークが去るまでは、打ち合わせを除き、不必要な外出は止めるしかないだろう。もちろん、マスク着用や手洗いなどの自己防衛は大前提だが。

 一方、アパレル業界としていちばん懸念されるのは、サプライチェーンが破綻するのではないかということだ。大手、中堅を問わず量産メーカーは、素資材から製造まで多かれ少なかれ、中国に頼りきっている。今シーズンの企画分はすでに調達や発注を完了していると思うが、工場の操業停止やスタッフの自宅待機が長引けば、メーカーによっては夏場以降の商品の納期遅れが発生することも考えられる。

 だからと言って、資材の調達や縫製が日本に戻ってくるとは考えにくい。SPAなど低価格の商品は製造コストの関係から国内製造は無理だし、中国レベルの量産に対応できる工場が国内にはないからだ。となると、メーカーや小売りに商品が供給されず、ショップでは展開できなくなる可能性もある。お客が来店しても、買いたい商品が見つからなければ、販売ロスや機会ロスが起きて、売上げが立たないことも予測される。すでにそうした心配が経営者の頭をもたげていてもおかしくない。

 グローバルSPAは中国生産の他国移管を検討し始めているだろう。製造だけでなく消費地になっているユニクロなどは、外出自粛による店売りの減少はもちろん、物流機能まで停滞すれば、ネット通販でカバーすることすら難しくなる。だが、感染が中国国内のみならずアジア全域に広がっていけば、中国以外に生産を振り分けるにしても支障が出る。10年ほど前に叫ばれていたチャイナリスクが現実のものとなるわけで、これを機会に中国やそれ以外の国とどう向き合い、どうリスクヘッジするか。真剣に考えていかなければならない。

 もっとも、個人的にはこんな極論から本質を見直してみてはどうかと思う。売る商品がなければ、売上げが立たないわけだが、一方で売れ残る商品もなくなるという論法だ。エコやサスティナブルに取り組むには、以下の3つが不可欠になる。①アパレルが無駄な在庫を出さない適量生産、②小売りが店頭在庫の最適化する、③お客の適量消費を心がけることである。そのためには、まず川上の商品作りからムリ、ムダを省くこと。大手アパレルや商社がいきなり適量受注やD2Cとはいかないから、前年で消化できなかった在庫分を当年の生産量から差し引くくらいの大胆な対策も必要ではないか。

 ただ、エコやサスティナブルがいくら声高に叫ばれようと、ビジネスとは相容れない部分があるのは十分承知の上でだ。経営者にはどうしても「コストを下げてモノを作り、在庫を持たなければ商売にならない」という意識が働く。結果的にそうした考え方が大量の売れ残りを生んでいるとも言える。だが、これを変えるのは相当に難しい。

 残ったブランド在庫を処分する方法として、俄に「オフプライスストア」が脚光を浴びている。この業態はアウトレットとは違い、「仕入れ」が伴う。一般にリサイクルに回る売れ残り在庫は、色やサイズが偏り、シーズンもごちゃ混ぜになってパッキン(段ボール箱)単位でバッタ屋ルートで取引される。輸送すればCO2を発生するし、さらに完全消化できなければ結局、焼却処分か、再生繊維へのリサイクルに向かわざるを得ない。廃棄も同然の余剰在庫を仕入れに足る商品にするには、手間やコストがかかるわけだ。

 最近では国内を避けて、海外に輸出して分別されるケースが増えている。そこでも、あくまでファッションアイテムとして売り物にするには、ブランドタグを切ってからテイスト別、アイテムやシーズン別、メンズ、レディス、キッズに、販売できないものは再生繊維やウエスにと分けていかなければならない。これについてもファッションの知識や情報が必要だから、単に賃金コストが安い外国人労働者を使えばいいと言う問題でもない。

 海外で分別してリセールする仕組みができたにしても、それを再度日本に持ち込むのは効率的とは言い難いし、CO2の削減には逆行する。エコやサスティナブルにどこまで貢献できているかの疑問もわく。日本→海外→第三国となると、日本で売れなかった余剰在庫のツケを海外に回すのか。今度は倫理的な問題が浮上する。リサイクルやリセールするにしても、また新たな課題と向き合わないといけない。

 食品のように消費期限があるものは、ロスやもったいないについて切実に考えがちだ。メディアが飢餓に苦しむ国々の子どもたちを盛んに報道しているし、自治体やNPOの活動、フードロスの対象にもなり易い。しかし、ファッションは鮮度はあっても、消費期限はない。在庫を抱えれば倉庫費用がかかるし、品物を動かせば物流費や人件費がかかる。実に取り扱いが難しい。前出のように収益を上げるには二次流通やリサイクルを考えつつ、なおかつ一歩踏み出す施策も必要なのである。

作り直す楽しさを知る

 個人的にはもう10年、15年と既成服で欲しい服が見つからない状態が続き、購入することが極端に減っている。替わって自らデザインし、オリジナルを作ることはある。それも素材次第で毎シーズンというわけにはいかず、タンス在庫は増えてはいない。それと並行して行っているのが、大枚をはたいて購入した商品の「お直し」である。

 ここ2シーズンはヤングを中心に太めのシルエットに回帰している。筆者はもともとタイトなシルエットが好みじゃないので、ゆったりめを購入することが多かった。ただ、手持ちのアイテムは微妙にトレンドから外れているので、そのままでは着にくい。ウエスト出しとは違い、縫い代だけではサイズ調整は不可能なので、布を接いで太めにしたアイテムもある。

 それにしても、もとのパターンがあるため、ただサイズを大きくすればいいというものではない。微妙な塩梅で生地を継ぎ足し、きちんと仮縫いを行って、全体のフォルムが崩れないように調整する。もちろん、生地屋で共地が見つかるはずもないから、敢て違う色(素材感は似たもの)を接ぐことで、それをデザインのように見せている。一昨年の冬には、その要領でメルトンのジャケットの袖と脇に生地を足してゆったり目にしてみた。

 インナーに厚手のニットを着ても着心地が良く、寒い日には非常に重宝している。接いではいるが、デザインと思えるので他人の視線もそれほど気にならない。コムデ・ギャルソンなら作りそうだし。



 自分仕様にカスタマイズしたものもある。20年〜15年前に購入したアイテムの中でも、素材や色が気に入っていたものは捨てずにストックしていた。最近はそれを引っ張り出して、お直ししている。例えば、20年ほど前に購入した春物のコットンブルゾンは、2シーズンほど着てファスナーが壊れタンス在庫のままだったが、YKKの「シンメトリックファスナー」に付け替え、ダブルジップ仕様にしてみた。自宅のミシンを使って自分で縫ったので、実費はニッケル素材、定番の引き手仕様のファスナー代372円のみで済んだ。



 また、90年代はじめにイタリアのミラノで購入したMA-1タイプのスエードジャケットは、その後に暖冬が続いたことであまり着る機会がなかった。数年前にトレンド復活したが、袖口のリブが劣化していたため、その時は着るのに二の足を踏んだ。昨秋、思いきって袖のみを鞣しの革に付け替え、袖先をジップ仕様にリメイクした。こちらは相応のコストはかかったが、セレクト系SPAにはない上質のライダースジャケット風に一新され、この冬はアウターのローテーションに入れることができた。



 新しいアイテムを購入しない反面、手持ちの服を自分好みにカスタマイズする。売り物ではないから、自分のセンスでいくらでもアレンジできる。それがクリエイティビティの妙だ。しかも、1点ものだから、かえってお洒落に感じられる。環境を意識することでは、プロのデザイナーも変わってきている。2020年春夏東京コレクションでは、植木沙織氏デザインの「SREU」がデニムやオーガンジーといった異素材を接ぎ合わせたクリエーションを発表した。古着の素材を利用してもので、作品1点1点が微妙に異なるが、シーズンコレクションとしては統一されている。

 アマチュア、プロを問わず、カスタマイズする服にはクリエーションが凝縮できる。そして、環境への負荷を考えると古着の再利用は理にかなうし、それで活性化が図られると少しは廃棄されるアイテムが減っていくと思う。こうした個人的、趣味的な活動が少しずつ浸透していけば、むしろ若者の方がアパレルが企画する新品やニュートレンドだけではつまらないと感じるのではないか。

 フランスのパリでは2月15日、古着を交換できるイベント「Bourse aux vêtements (tout à 1€!) 」が開催された。1回につき、1ユーロの募金をすることが条件。「ワードローブが安価でリニューアルできる。エコに責任をもって支援を」というスローガンも、いかにも倹約家が多いフランスらしい。安く手に入れた古着なら、お直しやカスタマイズにコストをかけてもいい理屈にもなる。手持ちの服や古着をリメイクして楽しもうというムーブメントが広がれば、ビジネスチャンスとまではいかなくても、エコやサスティナブルには貢献するはずだ。

 アパレル業界では、余剰在庫を減らすためにAIを駆使して需要予測や販売計画を立てる動きがある。だが、前出のように思いきって生産量をカットして在庫を減らす一方、タンス在庫を新しいアイテムに生まれ変わらせるサービスを考えてもいいのではないか。筆者のように素材で商品を選ぶお客はトレンドに合わせて着つづけたい意識が強い。カスタマイズにも対応してくれれば、違ったマーケットが掘り起こせるのではと思う。余剰在庫を生まないためには、お客の中に新品では味わえない価値観を醸成していくことも重要なのだ。

 果たして、こうしたサービスをAmazonや楽天が行えるだろうか。東京ファッションウィークの冠スポンサーになった一方、加盟店への送料無料の無理強いをお上に咎められて楯突く程度の経営者には考えもつかないのではないか。逆に考えると、その辺が小規模零細事業者にとってのビジネスチャンスなのかもしれない。
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