HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

都市に近くて遠い島。

2020-12-16 07:01:40 | Weblog
 ウィズコロナによるリモートワークにも飽きが来て、そろそろロケでもやりたいなと思っていたら、久々に全国誌からグラビアページの仕事が入ってきた。博多湾に浮かぶ「能古島」でドローンを使った配送実験を撮影し、全貌をまとめるというもの。同島に渡るのは、カイワレ大根の先駆者で島民の前田滝郎さんが栽培する「ピーナッツもやし」の仕事以来、十数年ぶりとなった。



 能古島は博多湾の中央に位置し、対岸の西区愛宕浜まで渡船でわずか3km、10分程度だが、船便は朝5時から夜11時まで1時間に1本しかない。昨年1月には島で唯一の小売店が店を閉じ、日々の買い物では島外に出かけるか、週に1度の移動販売や宅配に頼らざるを得なくなった。大東建託が実施する「住みたい街ランキング」で、昨年に次いで今年も全国第1位に輝いた福岡市にありながら、島民は非常に不便な生活を強いられている。

 もっとも、こうした状況は全国の離島で起きており、買い物難民、物流課題の解決には官民挙げての取り組みがある。今回の実験もANAホールディングスが中心となって、コンビニのセブンイレブンや調剤薬局のアインホールディングスが商品を、NTTドコモがドローン飛行用にLTEのモバイル通信ネットワークを提供。福岡市も住民への事前説明、実験への参加呼びかけなどで協力している。実験は島民が予め服薬指導を受けていた処方箋薬品やネットで注文したコンビニの商品をドローンで島まで運んでもらうものだ。



 ドローンは、福岡市西区の小戸ヨットハーバーに開設されたオペレーション・マネジメント・センター(OMC)を離陸し、博多湾の上空約3km飛行、能古島の公民館グランドに着陸する。1回目の飛行では、島民がかかりつけ医から処方され、薬局が調剤した医薬品を積んでセンターのポートからグランドのポートまで配送した。

 2回目は、島民がセブンイレブンの「ネットコンビニ」を利用し、商品をスマートフォンで注文。小戸地区にあるお店が商品を宅配専用車でセンターまで運んで引き渡し、ドローンに搭載して離陸。ポートに着陸後、島民はグランド上で商品を受け取った。商品を注文して届くまで20分もかからない。両ドローンとも飛行時間はわずか3分程度で、あっという間だった。



 能古島から見ると、対岸のヨットハーバーは南向きだ。実験の時刻はちょうど昼頃で、ピーカンだと逆光になる。上空を飛ぶドローンを撮ると被写体が暗くなり、機体の詳細がわかりづらくなる。また、ドローンは高速で飛んでくるため、シャッタースピードを調整しなければならない。遠景や機体のアップなどのカット割りもあるので、ズームレンズをうまく使うことも必要になる。物撮りやモデル撮影のようにはいかないことが予測された。



 そこで、事前に知り合いのカメラマンからレクチャーを受け、撮り方のテクニックや露出調整を教わってロケに臨んだ。まあ、当方が所有するSONYの一眼レフα7。日本で初めてAFを採用したミノルタの系譜だから何とかなるだろうと思っていたら、実験の時刻にはちょうど上空に雲が張り詰め、運よく逆光は抑えられた。あとはシャッタースピードとズームだが、これは1回目の飛行では苦労したが、2回目では何とか使うことができた。曇りで青空バックにはならなかったが、飛行する機体の外観や参加企業のロゴマークははっきり押さえられた。

 実験も撮影も無事に終わり、あとは原稿をまとめるだけ。ただ、個人的に気になるのは実用化の見通しが立つのかである。ANAホールディングスは2016年に低高度で人やモノを運ぶドローン、高高度の宇宙輸送、超高速の地点間輸送といった将来の自社事業を創出する「デジタル・デザイン・ラボ/DD-Lab」を発足。今回の実験もこの部署が主導し、ドローン・プロジェクトの保理江裕己氏が中心に実施していた。

 奇しくもANAホールディングスはコロナ禍の影響で経営環境が悪化。10月27日には、グループ社員を出向させてコールセンターやホテルのコンシェルジェ、企業の受付・事務などに従事させると発表した。これを受けて家電量販店のノジマが出向者100名程度を11月16日から順次受け入れると表明したが、出向は広報部などのスタッフも例外ではないという。


無人、省力化の実現で、陸送と同等の料金に

 海外ではコロナワクチンの摂取が始まったが、感染が終息する保証はなく、旅客輸送が回復する見通しは立たない。デジタル・デザイン・ラボは、2022年に緩和される飛行規制(レベル4/目視外飛行)に合わせてドローンの実用化に取り組んでいるが、ウィズコロナではFSC(フルサービスキャリア)やLCCに次ぐ事業の柱に育てることが急務と言える。すでに機体は自律飛行が可能のレベルに達しており、部品の全てが国産で量産化も進んでいる。

 あとは航空機のパイロットにあたるフライトディレクターが遠隔で運航管理する態勢を省力化し、いかに運用コストを下げるかである。一方、セブンイレブンやアインホールディングスは、ANAホールディングスから提供される機体や管理運用の態勢とネットコンビニや調剤薬局の受注エリアをリンクさせ、お客に確実に配送する仕組みを整えなければならない。ドローンの物流サービスはANAホールディングスから有償で提供されるわけで、その費用は最終的に商品を注文したお客が負担することになる。

 現状、セブンイレブンが北海道や首都圏、広島県の一部で実験中のネットコンビニは、お客がスマートフォンでセブンイレブンが販売している商品を注文すると、在庫があれば最短30分でエリア内の自宅や職場に届けられる。注文商品の合計金額が1000円以上が宅配の条件で、配送料は1回の注文につき110円〜550円(時間帯で変動)。ドローン配送を実用化するには、この料金体系に近づけることが必須だ。

 トラック輸送でもドライバー不足で配送料は高止まりしている。無人機のドローンで輸送コストが削減できるなら、料金を陸送と同等にできるかもしれない。おそらくセブンイレブンは、実用化では店舗の駐車場から客宅の庭先まで配送することを想定していると思う。




 処方箋医薬品も島民は渡船、さらにバスに乗って医療機関に行き、医師から薬を処方された後、薬局で調剤をしてもらって島に帰るのが現状だ。ドローン配送はこうした手間を少しでも解消しようというものだ。遠隔診療の是非、対面による服薬指導などの課題はあるにしても、配送料が陸送と同程度になれば、サービスを利用する島民は増えていくと思われる。

 現状のドローンは、最新機種でも最大積載量は5kgまでだ。医薬品は重くてもせいぜい100g程度だが、コンビニなどの商品になれば5kgを超えることも考えられる。効率性を考えると、離島は一度に数名分とか、積載量を20kgくらいまで増やすとかが理想だろう。機体開発が進んで自律飛行、重心制御も可能というから、大型化して積載量がアップする日はそう遠くないはずだ。

 日本は島嶼国家で離島も多い。ネット通販が浸透しても、離島に住む方々にとっては配送料が割高であったり、配送頻度が少なかったりといった課題がある。その意味で、能古島は都市に近くて遠い島なのだ。ドローン配送はそんな物流課題を解決し、離島生活者が都市生活者と同等にネット社会の利便性を享受できるようにする。将来的にはアマゾンなどの通販商品をセブンイレブンで受け取って、商品と一緒に配送してもらうことも可能になるだろう。

 突風を受けて途中で落ちるのではないか。天候不順で飛べないのではないか。利用者にはそうした不安もまだまだある。ただ、陸路輸送でも台風など災害の影響を受けるのだから、条件はさほど変わらない。ドローンによる物流サービスが、さまざまな地域課題の解決する新たなインフラとして、社会実装する日は確実に近づいている。アパレル業界が物流倉庫から離島や遠隔地に配送することも、当たり前になるのではないかと思う。
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