例年ならゴールデンウィークが終わると、店頭でどんな夏物アイテムが動いているのか、チェックして回る。だが、福岡市は5月7日に新型コロナ感染の1日あたりの陽性者数が1100人を超えた。11日時点でも5日連続で前週同曜日を上回るなど感染が増加傾向にあるため、人混みの中に長時間いることには二の足を踏んでしまう。
そんな中でも、無印良品の天神大名店だけはお客も少ないことから訪れている。最近必ずチェックするのが「ReMUJI」だ。これは顧客の着古した無印の服を回収して染め直しなどを施したもので、2015年に開業した同店から販売がスタート。自分にとっては1980年代に着ていたインディゴを彷彿させ、服のリメイクでも参考にしている。
ReMUJIのカテゴリーは以下の3つだ。まず「染めなおした服」。前出の通り、顧客から回収した無印の服を「藍」などの染料で染め直したもので、無印の原点回帰を感じさせる。当時の企画スタッフが今も在籍しているかはわからないが、筆者と同世代で無印の服が好きだった人ならインディゴのアイテムを憶えているのではないか。
筆者にはこんな記憶がある。当時、着ていたインディゴについて上司から、「そのシャツ、どこで買ったの?」と聞かれ、「青山の無印良品ですよ」と答えた。洗濯するたびにいい感じで色落ちし、粗野な感じになっていくのが目を引いたのだろう。上司は無印のトータルデザインを手掛けた故・田中一光と同じアートディレクター。商品に対する感覚でも共通項があったのだろうか。
二つ目は「洗いなおした服」。こちらは回収した無印の服の中で、比較的状態がいいものを洗いにかけて軽くプレスした後に販売する。古着を再販する以上、「衛生」や「防疫」の面で洗浄するのは当然だが、いくらエコやSDGsが叫ばれる今だからと、この手法が新たな商品価値になりうるかには疑問を感じる。
元々、西友のPBからスタートした無印良品は、包装などのコスト削減を商品戦略の柱にしていた。ブランドとして独立し店舗を拡大してからも、布帛のシャツなどはビニール袋に入れずにハンギング展開した。商品タグには「洗いざらし」といった形容詞が並んでいた。究極の普段着であることが無印のコンセプトであり、価値だったわけだ。
ただ、90年代以降はデフレ禍で価格を抑えたため、商品の質も下がっていったと感じる。それを回収して再販するために洗いをかけただけで、顧客が買い求めるのだろうか。また、もともと売れ残る商品があるはずだから、元となる商品が顧客から回収したものか、余剰在庫に洗いをかけたものか、見ただけではわからないという疑念も湧く。
ReMUJIはあくまで顧客が持ち込んだ服を再生するから、アイテムや在庫量は限られているという理屈も、取扱店全店の品揃えをチェックしなければわからない。古着の大手チェーンは古着っぽく加工した新品を投入し、在庫を充実させて販売ロスを避けている。どうしてもこうした手法と比べてしまう。ReMUJIの洗いなおした服が本当に限定品なら、その辺のエビデンスも欲しいところだ。
そして3つ目が「つながる服」。これは主に異なる2枚のシャツをカットして1枚に仕立て直したもの。シャツは着る人の体型や着方によって劣化する部分が微妙に違うから、状態のいい部分同士を繋げて縫い直すことで、デザイン的な価値と再生・再販を両立させる意図だろうか。この企画には納得がいく。
まあ、元の柄が無印良品だから、COMME des GARCONS SHIRTのようにはならないだろうが、接ぎ方によってはユニークなものに仕上がる可能性もある。ReMUJIは顧客から回収したものを利用するというのはわかる。無印にも余剰在庫が豊富にあるだろうし、ReMUJIがエコやSDGsを意識するのなら、そちらを活用しても別のカテゴリーを加えてもいいのではないかと思う。
無印良品によると、MUJI新宿を環境やガバナンスを重視した経営の旗艦店に位置付けており、染めなおした服に加え、同店の開店に合わせてつながる服を企画。洗いなおした服やつながる服の限定商品の販売を開始したという。天神大名店では染めなおした服しかお目にかかれないので、東京出張の時に時間があれば店頭で確かめてみたいと思う。
85%が再販できない現実にどう対処するか
一方、無印良品は、このところ低価格を前面に打ち出しており、製造コストをかなり抑えていると思われる。そのため、素材にしても縫製にしても、それほど高い品質は追求できない。生産管理の段階で、どうしても店頭に出せない規格外品が出る率が高い。新宿店ではそうした製品を販売する「もったいない市」も実施している。
もっとも、プロパー販売への影響があるから常設ではなく、不定期のアウトレットイベントで環境を意識した経営をアピールする狙いもあるだろう。ReMUJIを扱う店舗では、無印の不用品を受け付ける専用カウンターを置いているが、回収した古着の15%しかReMUJIとして再デビューできず、85%は再販には向かないという。
現在、無印良品のメーンターゲットは収入が伸び悩む中間層で、商品は価格を抑えることで品質を削ぎ落としたトレードオフの性格を持つ。つまり、そうしたものを回収して選別し、再加工してアップサイクルな商品として販売することが収益の面で釣り合うとは思えない。無印側もそれを十分に承知の上で、ReMUJIをエコやSDGsに取り組むキャンペーン的な商材として位置付けていると思う。
しかし、染め直しと言っても相当な手間を要する。まず回収した服から汚れなどを取り除き、染めやすくするために「予備洗い」を行う。次に仕上げる色に合わせて、染め窯ごとに染料を微調整する「調合」がある。続いて染料と定着剤を何回かに分けて投入する「染色」で染めムラを無くす。そして、染め上がったものを色ごとに分けて機械にかけて「乾燥」させる。最後に商品としての体裁を整えるには「プレス」「検査」も必要になるのだ。
一方、染料が化学物質なら土壌や河川の汚染が懸念される。ReMUJIでは「藍染め」を採用しているようだから、環境への負荷は少ないと思う。だが、最初の生産時ではどうなのか気になるところだ。染色の再現性には軟水、硬水の違いが影響するし、水資源の豊富な日本と中国の内陸部とでは染色加工の前提条件が異なる。そこに切り込まずして「再加工が天然藍ですから環境に配慮しています」と言っても釈然としない。
低価格で低品質の無印良品に染めや洗い、縫い直しといった手間暇とコストをかけて再生することが、どれほどの付加価値を生みお客を惹きつけるか。もちろん、それはビジネスベースとは分けて考えなければならないのは、承知している。また、お客の側がエコやSDGsをわかっているにしても、ReMUJIの商品を手に取った時にアップサイクルな商品としての価値を認め、購入に至る人たちがどれほどいるか。いろんな問題もはらんでいる。
良い商品を作るには、コストをかけなければならない。だが、そうすれば価格も上がっていく。そうなると、それまで購入していたお客にそっぽを向かれるかもしれない。低価格の商品を販売する限り、1シーズンで着古してしまうことにつながり、着なくなった服は破棄されてしまう。それは無印良品もわかっているだろうし、一番のジレンマではないかと思う。
円安が進んでいるとは言え、原材料のウールや綿は値上がりしているし、生産する途上国の人件費も上がり縫製工賃も上昇している。無印良品はこれまで商品を値下げすることで、売上げを維持してきたが、そうした戦略も限界に来ているのではないか。衣料品の廃棄については日本よりも海外の方が深刻に受け止め始めている。海外に店舗を数多く抱える無印良品としても、いつ出店先から「廃棄ノー」を突きつけられるかもしれない。
現状、ReMUJIはエコやSDGsに取り組む企業姿勢を表すものと受け取れるが、アップサイクルを意識した商品作りを考える契機にもなれば、無印良品も真のグローバルSPAとして評価されていくのではないか。ぜひ、一皮剥けてほしいものである。
そんな中でも、無印良品の天神大名店だけはお客も少ないことから訪れている。最近必ずチェックするのが「ReMUJI」だ。これは顧客の着古した無印の服を回収して染め直しなどを施したもので、2015年に開業した同店から販売がスタート。自分にとっては1980年代に着ていたインディゴを彷彿させ、服のリメイクでも参考にしている。
ReMUJIのカテゴリーは以下の3つだ。まず「染めなおした服」。前出の通り、顧客から回収した無印の服を「藍」などの染料で染め直したもので、無印の原点回帰を感じさせる。当時の企画スタッフが今も在籍しているかはわからないが、筆者と同世代で無印の服が好きだった人ならインディゴのアイテムを憶えているのではないか。
筆者にはこんな記憶がある。当時、着ていたインディゴについて上司から、「そのシャツ、どこで買ったの?」と聞かれ、「青山の無印良品ですよ」と答えた。洗濯するたびにいい感じで色落ちし、粗野な感じになっていくのが目を引いたのだろう。上司は無印のトータルデザインを手掛けた故・田中一光と同じアートディレクター。商品に対する感覚でも共通項があったのだろうか。
二つ目は「洗いなおした服」。こちらは回収した無印の服の中で、比較的状態がいいものを洗いにかけて軽くプレスした後に販売する。古着を再販する以上、「衛生」や「防疫」の面で洗浄するのは当然だが、いくらエコやSDGsが叫ばれる今だからと、この手法が新たな商品価値になりうるかには疑問を感じる。
元々、西友のPBからスタートした無印良品は、包装などのコスト削減を商品戦略の柱にしていた。ブランドとして独立し店舗を拡大してからも、布帛のシャツなどはビニール袋に入れずにハンギング展開した。商品タグには「洗いざらし」といった形容詞が並んでいた。究極の普段着であることが無印のコンセプトであり、価値だったわけだ。
ただ、90年代以降はデフレ禍で価格を抑えたため、商品の質も下がっていったと感じる。それを回収して再販するために洗いをかけただけで、顧客が買い求めるのだろうか。また、もともと売れ残る商品があるはずだから、元となる商品が顧客から回収したものか、余剰在庫に洗いをかけたものか、見ただけではわからないという疑念も湧く。
ReMUJIはあくまで顧客が持ち込んだ服を再生するから、アイテムや在庫量は限られているという理屈も、取扱店全店の品揃えをチェックしなければわからない。古着の大手チェーンは古着っぽく加工した新品を投入し、在庫を充実させて販売ロスを避けている。どうしてもこうした手法と比べてしまう。ReMUJIの洗いなおした服が本当に限定品なら、その辺のエビデンスも欲しいところだ。
そして3つ目が「つながる服」。これは主に異なる2枚のシャツをカットして1枚に仕立て直したもの。シャツは着る人の体型や着方によって劣化する部分が微妙に違うから、状態のいい部分同士を繋げて縫い直すことで、デザイン的な価値と再生・再販を両立させる意図だろうか。この企画には納得がいく。
まあ、元の柄が無印良品だから、COMME des GARCONS SHIRTのようにはならないだろうが、接ぎ方によってはユニークなものに仕上がる可能性もある。ReMUJIは顧客から回収したものを利用するというのはわかる。無印にも余剰在庫が豊富にあるだろうし、ReMUJIがエコやSDGsを意識するのなら、そちらを活用しても別のカテゴリーを加えてもいいのではないかと思う。
無印良品によると、MUJI新宿を環境やガバナンスを重視した経営の旗艦店に位置付けており、染めなおした服に加え、同店の開店に合わせてつながる服を企画。洗いなおした服やつながる服の限定商品の販売を開始したという。天神大名店では染めなおした服しかお目にかかれないので、東京出張の時に時間があれば店頭で確かめてみたいと思う。
85%が再販できない現実にどう対処するか
一方、無印良品は、このところ低価格を前面に打ち出しており、製造コストをかなり抑えていると思われる。そのため、素材にしても縫製にしても、それほど高い品質は追求できない。生産管理の段階で、どうしても店頭に出せない規格外品が出る率が高い。新宿店ではそうした製品を販売する「もったいない市」も実施している。
もっとも、プロパー販売への影響があるから常設ではなく、不定期のアウトレットイベントで環境を意識した経営をアピールする狙いもあるだろう。ReMUJIを扱う店舗では、無印の不用品を受け付ける専用カウンターを置いているが、回収した古着の15%しかReMUJIとして再デビューできず、85%は再販には向かないという。
現在、無印良品のメーンターゲットは収入が伸び悩む中間層で、商品は価格を抑えることで品質を削ぎ落としたトレードオフの性格を持つ。つまり、そうしたものを回収して選別し、再加工してアップサイクルな商品として販売することが収益の面で釣り合うとは思えない。無印側もそれを十分に承知の上で、ReMUJIをエコやSDGsに取り組むキャンペーン的な商材として位置付けていると思う。
しかし、染め直しと言っても相当な手間を要する。まず回収した服から汚れなどを取り除き、染めやすくするために「予備洗い」を行う。次に仕上げる色に合わせて、染め窯ごとに染料を微調整する「調合」がある。続いて染料と定着剤を何回かに分けて投入する「染色」で染めムラを無くす。そして、染め上がったものを色ごとに分けて機械にかけて「乾燥」させる。最後に商品としての体裁を整えるには「プレス」「検査」も必要になるのだ。
一方、染料が化学物質なら土壌や河川の汚染が懸念される。ReMUJIでは「藍染め」を採用しているようだから、環境への負荷は少ないと思う。だが、最初の生産時ではどうなのか気になるところだ。染色の再現性には軟水、硬水の違いが影響するし、水資源の豊富な日本と中国の内陸部とでは染色加工の前提条件が異なる。そこに切り込まずして「再加工が天然藍ですから環境に配慮しています」と言っても釈然としない。
低価格で低品質の無印良品に染めや洗い、縫い直しといった手間暇とコストをかけて再生することが、どれほどの付加価値を生みお客を惹きつけるか。もちろん、それはビジネスベースとは分けて考えなければならないのは、承知している。また、お客の側がエコやSDGsをわかっているにしても、ReMUJIの商品を手に取った時にアップサイクルな商品としての価値を認め、購入に至る人たちがどれほどいるか。いろんな問題もはらんでいる。
良い商品を作るには、コストをかけなければならない。だが、そうすれば価格も上がっていく。そうなると、それまで購入していたお客にそっぽを向かれるかもしれない。低価格の商品を販売する限り、1シーズンで着古してしまうことにつながり、着なくなった服は破棄されてしまう。それは無印良品もわかっているだろうし、一番のジレンマではないかと思う。
円安が進んでいるとは言え、原材料のウールや綿は値上がりしているし、生産する途上国の人件費も上がり縫製工賃も上昇している。無印良品はこれまで商品を値下げすることで、売上げを維持してきたが、そうした戦略も限界に来ているのではないか。衣料品の廃棄については日本よりも海外の方が深刻に受け止め始めている。海外に店舗を数多く抱える無印良品としても、いつ出店先から「廃棄ノー」を突きつけられるかもしれない。
現状、ReMUJIはエコやSDGsに取り組む企業姿勢を表すものと受け取れるが、アップサイクルを意識した商品作りを考える契機にもなれば、無印良品も真のグローバルSPAとして評価されていくのではないか。ぜひ、一皮剥けてほしいものである。