アパレル業界はコロナ禍で店舗の臨時休業が相次ぎ、販売スタッフが自宅待機や一時帰休に追い込まれた。長期休暇なら仕事から解放され心身ともにリフレッシュできるが、コロナ休暇は状況がだいぶ違う。知り合いのアパレル関係者からは「自分の雇用は大丈夫か」「ポストやキャリアを考え直した」「UIターン事業をチェックした」などの話が聞かれた。これまでにない災禍ではあるが、仕事に追われていた自分を見つめ直す機会になったのも確かだ。
業界はデフレが長期化し、高価な商品が売れない課題を持つ。ただ、販売側が「コレください」への対応しかしていないのなら、生産性が上がらず給与アップにはつながらない。経営側としても、高級品を売る力があるならまだしも、チープな商品しか売れないのだから、高い給料は出せないと言い訳できる。
なおさら新卒の入社組が1〜2年で辞めていくのは織り込み済みだろう。代わりはいくらもいるから、また募集すればいいというわけだ。つまり、販売スタッフが所詮ローコストの使い捨てなら、見た目を飾り立てた店で搾取しているに過ぎない。デフレ禍が続く中、多くの経営者がいつの間にかそんな感覚に堕してしまったように見える。
だが、コロナ禍から2年が過ぎ、昨秋くらいからは潮目が変わっている。サービス業をはじめ、アパレル業界でも人手不足が深刻になっているのだ。行動制限が緩和されて、人々の外出機会が増加。それに伴い、都市型SCや駅ビルではアパレル消費が回復し始めた。ところが、今度は販売スタッフが足りず、みすみす売り逃しているわけだ。
お客が来店するのに店舗を最低人数で回しているため、十分な接客対応ができない。買う気満々のお客を見逃せば、機会ロスを生む。だから、経営側は販売スタッフを充足させたいのだろう。全く現金なものだ。先日、ファーストリテイリングは、グローバル戦略に向け人材を確保するために給与アップを打ち出したが、あくまで成果主義のもとでだ。業績を伸ばせないなら、賞与が下がることもありうる。本質を見失ってはいけない。
では、本当に販売スタッフが足りていないのか。むしろ、商業開発の乱発に原因があるのではないか。昨年の福岡もそうだったが、都市部、郊外を問わずSC開発は衰えを知らず、そこには多くの小売店が出店している。明らかにオーバーストアにも関わらずにだ。特に地方は市場が拡大していないのに新店が出店し、店番のスタッフが膨れ上がったに過ぎない。
高額なアパレルは売れないから、どこを見てもチープな商品や雑貨ばかり。販売スタッフと言っても、仕事は品出しや商品整理、ピッキング。あとはレジ打ちや包装、売場づくりが大半を占める。接客する時間はせいぜい1~2時間だ。スタッフ募集には「未経験でも丁寧に指導いたします」の但し書きがある。そのため、パートアルバイト感覚の人間が応募し、とりあえず頭数を揃えるために採用されている。
売場に商品を陳列してストックに在庫を抱えると、品出しや商品整理、ピッキングなど利益にならない「マテハン業務」が生じる。店舗は生産性が上がらないのに家賃と労働のコストに追われ、販売スタッフの給与はバイト料のまま据え置かれる。地方では時給1000円の線で労使攻防が続くが、その前提となる生産性が欠くのだから、これほど不毛な闘争はない。販売スタッフの不足を憂う前に、まずは売場環境の改善や在庫負担を減らすのが先なのではないか。
ECで商品を確認し、店舗で現物を試着してから購入したい。ECが浸透したからこそ、お客の側も学習している。衝動でポチってしまいたくないのだ。だから、数を売りたいところは店舗に試着&確認用のサンプルだけ置いて、後はネット在庫に誘導すればいい。そうすれば、大量の商品を店まで輸送する必要もなく、マテハン業務も減らせて店舗コストが削減できる。SCのアパレル店を覗くたびにいつもそう思う。
まずは店舗をショールーム化してタブレットの操作で在庫確認、販売が可能なオムニチャンネルを加速させ、スタッフが接客に専念できるようにすべきではないだろうか。
「作業」を減らせば、「仕事」を増やせる
すでにデジタルを活用して顧客との接点を増やし、販売に結びつけているところが出てきている。セレクトショップのユナイテッドアローズは、ファッションの知識が豊富な販売スタッフがSNSやECサイトへのコーディネート画像を投稿。それらは月間で約5000件にも及び、売れた商品が自社EC売上高の50%超を占めるという。10月にはSNSマーケティングの専門組織を設け、効果的な投稿や販促に結びつけていくとした。
知識もセンスもあるスタッフがSNS投稿に時間を割けるのは、店舗におけるマテハン業務を減らしたからだ。品出しはバイヤーやMDが棚割を店舗ごとに写真やビジュアルなどで示し、商品投入日の開店前に集中して行えば短時間で終えることが可能だ。これらはかつてチェーン店が取っていた手法で、何も新しいものではない。時間がかかる商品のたたみ直しや棚への戻しも、オープン陳列にすることで削減できる。
生産性がない「作業」を減らせばその分、売上げに結びつく「仕事」を増やせる。販売に注力するためにも、その前提としてSNSで自分のレコメンドな着こなしなどを提案すればいい。小売業界がデジタル化している中で、顧客へのアプローチとしてSNS投稿は不可欠だ。松崎善則社長が接客に注力すると大号令をかけられるのも、それなりの売場改善、環境整備があるからではないか。
「販売は人」。確かに販売は属人的なものには違いないが、経営側があまりにそうした考えを押し付け過ぎたことで、若者が販売員離れを起こしたのは否めない。ならば、どうするか。まずは生産性のない作業をできる限り削減し、スタッフが自分の感性でプレゼン能力を発揮できるようにすることではないか。それが結果的に売上げをアップさせ、スタッフの報酬にも還元されるのだ。
数年前、雑誌の企画であるアパレル企業のバイヤーに話を聞いた。同社が展開するセレクトショップは、20万円以上の海外ブランドのコートから数万円のシューズやバッグ、ロンドンやパリのトレードショーで買い付けた小物類、国産ブランドの別注アイテムまで、インポートカジュアルを中心に、どれも高感度で値の張る物ばかりを揃える。にも関わらず、売上げは順調に推移。その背景を探るためだった。
売場で接客を見せてもらったが、高感度で高級なアイテムの販売スタイルは、意外にもチームプレーだった。お客は顧客が中心だが、ディスプレイに釣られて入店する一見客もいる。基本は販売スタッフが応対し、マネージャーがさりげなくフォローに入る。スタッフがフィッティングで的確なアドバイスを繰り出す中、百戦錬磨のマネージャーが「手持ちのアイテムとのコーディネート術」「外し崩しでのおしゃれな着こなし方」などをプラスするだけで、一気にクロージングに向かう。その連携プレイは流石の一言に尽きた。
もちろん、こうした接客を実売に結びつけるには、売場づくりが肝心だ。フィッティングルームの周りには余裕をもったスペースが取られ、お客とスタッフの2人が入る大型の姿見で試着姿をクローズアップさせ、鏡越しにトークする。さらに昼間と夜間で明るさを調整できる調光照明を設置。じっくり時間をかけた接客には欠かせない装置となっている。
一方、バイヤーも社長も売場づくりでは容赦ない。繁忙期になると、ショップ側は売上げを取りたいがため、売場に多くの商品を置きたがるが、逆に接客空間が圧迫されてしまう。「あんなに商品を詰め込んで」「売上げや利益を得るのは目的なのか、手段なのか」「12月はお客さまの気持ちが一番華やぐ時だから、ウィンドウから人を楽しませてあげないと」。社長からこの話を聞いたときは正直ピンと来なかったが、後々考えるとその意図がわかってきた。
つまり、セレクトショップの商品は世界中から選りすぐった逸品で、数を売りたいものではない。だから、売場づくりの要諦は、陳列より接客にスペースを割けということだ。そのためには、AIDMAから販売に進む過程を考えた在庫配置とヴィジュアルマーチャンダイジング(VMD)がカギになる。世界中から仕入れた商品をカテゴリー別に編集し、特徴ある商品はフェイスアウトや打ち出しで展開。お客の購買心理の変化を想定しながら、自然に商品に誘って接客に努める。こうした環境で接するから、販売力も磨かれていくのである。
話を聞いたバイヤーさんは現在、同社の社長に昇格している。おそらく、販売スタッフもタブレットやスマートフォンを駆使し、デジタル面でも情報発信、顧客接点を増やしているだろう。高額な商品が売れないのではない。それを売る仕組みと環境の整備ができていないのだ。
洋服が好きで業界に入った人間なら、思い思いのコーディネートを考えるのは厭わないはず。今はそれをSNSで販売に結びつければいいのだ。プレゼンターとでも言おうか。経営陣、幹部がデジタルを盛んに謳うのなら、販売にはそうした人材の発掘と登用が必要なのである。
業界はデフレが長期化し、高価な商品が売れない課題を持つ。ただ、販売側が「コレください」への対応しかしていないのなら、生産性が上がらず給与アップにはつながらない。経営側としても、高級品を売る力があるならまだしも、チープな商品しか売れないのだから、高い給料は出せないと言い訳できる。
なおさら新卒の入社組が1〜2年で辞めていくのは織り込み済みだろう。代わりはいくらもいるから、また募集すればいいというわけだ。つまり、販売スタッフが所詮ローコストの使い捨てなら、見た目を飾り立てた店で搾取しているに過ぎない。デフレ禍が続く中、多くの経営者がいつの間にかそんな感覚に堕してしまったように見える。
だが、コロナ禍から2年が過ぎ、昨秋くらいからは潮目が変わっている。サービス業をはじめ、アパレル業界でも人手不足が深刻になっているのだ。行動制限が緩和されて、人々の外出機会が増加。それに伴い、都市型SCや駅ビルではアパレル消費が回復し始めた。ところが、今度は販売スタッフが足りず、みすみす売り逃しているわけだ。
お客が来店するのに店舗を最低人数で回しているため、十分な接客対応ができない。買う気満々のお客を見逃せば、機会ロスを生む。だから、経営側は販売スタッフを充足させたいのだろう。全く現金なものだ。先日、ファーストリテイリングは、グローバル戦略に向け人材を確保するために給与アップを打ち出したが、あくまで成果主義のもとでだ。業績を伸ばせないなら、賞与が下がることもありうる。本質を見失ってはいけない。
では、本当に販売スタッフが足りていないのか。むしろ、商業開発の乱発に原因があるのではないか。昨年の福岡もそうだったが、都市部、郊外を問わずSC開発は衰えを知らず、そこには多くの小売店が出店している。明らかにオーバーストアにも関わらずにだ。特に地方は市場が拡大していないのに新店が出店し、店番のスタッフが膨れ上がったに過ぎない。
高額なアパレルは売れないから、どこを見てもチープな商品や雑貨ばかり。販売スタッフと言っても、仕事は品出しや商品整理、ピッキング。あとはレジ打ちや包装、売場づくりが大半を占める。接客する時間はせいぜい1~2時間だ。スタッフ募集には「未経験でも丁寧に指導いたします」の但し書きがある。そのため、パートアルバイト感覚の人間が応募し、とりあえず頭数を揃えるために採用されている。
売場に商品を陳列してストックに在庫を抱えると、品出しや商品整理、ピッキングなど利益にならない「マテハン業務」が生じる。店舗は生産性が上がらないのに家賃と労働のコストに追われ、販売スタッフの給与はバイト料のまま据え置かれる。地方では時給1000円の線で労使攻防が続くが、その前提となる生産性が欠くのだから、これほど不毛な闘争はない。販売スタッフの不足を憂う前に、まずは売場環境の改善や在庫負担を減らすのが先なのではないか。
ECで商品を確認し、店舗で現物を試着してから購入したい。ECが浸透したからこそ、お客の側も学習している。衝動でポチってしまいたくないのだ。だから、数を売りたいところは店舗に試着&確認用のサンプルだけ置いて、後はネット在庫に誘導すればいい。そうすれば、大量の商品を店まで輸送する必要もなく、マテハン業務も減らせて店舗コストが削減できる。SCのアパレル店を覗くたびにいつもそう思う。
まずは店舗をショールーム化してタブレットの操作で在庫確認、販売が可能なオムニチャンネルを加速させ、スタッフが接客に専念できるようにすべきではないだろうか。
「作業」を減らせば、「仕事」を増やせる
すでにデジタルを活用して顧客との接点を増やし、販売に結びつけているところが出てきている。セレクトショップのユナイテッドアローズは、ファッションの知識が豊富な販売スタッフがSNSやECサイトへのコーディネート画像を投稿。それらは月間で約5000件にも及び、売れた商品が自社EC売上高の50%超を占めるという。10月にはSNSマーケティングの専門組織を設け、効果的な投稿や販促に結びつけていくとした。
知識もセンスもあるスタッフがSNS投稿に時間を割けるのは、店舗におけるマテハン業務を減らしたからだ。品出しはバイヤーやMDが棚割を店舗ごとに写真やビジュアルなどで示し、商品投入日の開店前に集中して行えば短時間で終えることが可能だ。これらはかつてチェーン店が取っていた手法で、何も新しいものではない。時間がかかる商品のたたみ直しや棚への戻しも、オープン陳列にすることで削減できる。
生産性がない「作業」を減らせばその分、売上げに結びつく「仕事」を増やせる。販売に注力するためにも、その前提としてSNSで自分のレコメンドな着こなしなどを提案すればいい。小売業界がデジタル化している中で、顧客へのアプローチとしてSNS投稿は不可欠だ。松崎善則社長が接客に注力すると大号令をかけられるのも、それなりの売場改善、環境整備があるからではないか。
「販売は人」。確かに販売は属人的なものには違いないが、経営側があまりにそうした考えを押し付け過ぎたことで、若者が販売員離れを起こしたのは否めない。ならば、どうするか。まずは生産性のない作業をできる限り削減し、スタッフが自分の感性でプレゼン能力を発揮できるようにすることではないか。それが結果的に売上げをアップさせ、スタッフの報酬にも還元されるのだ。
数年前、雑誌の企画であるアパレル企業のバイヤーに話を聞いた。同社が展開するセレクトショップは、20万円以上の海外ブランドのコートから数万円のシューズやバッグ、ロンドンやパリのトレードショーで買い付けた小物類、国産ブランドの別注アイテムまで、インポートカジュアルを中心に、どれも高感度で値の張る物ばかりを揃える。にも関わらず、売上げは順調に推移。その背景を探るためだった。
売場で接客を見せてもらったが、高感度で高級なアイテムの販売スタイルは、意外にもチームプレーだった。お客は顧客が中心だが、ディスプレイに釣られて入店する一見客もいる。基本は販売スタッフが応対し、マネージャーがさりげなくフォローに入る。スタッフがフィッティングで的確なアドバイスを繰り出す中、百戦錬磨のマネージャーが「手持ちのアイテムとのコーディネート術」「外し崩しでのおしゃれな着こなし方」などをプラスするだけで、一気にクロージングに向かう。その連携プレイは流石の一言に尽きた。
もちろん、こうした接客を実売に結びつけるには、売場づくりが肝心だ。フィッティングルームの周りには余裕をもったスペースが取られ、お客とスタッフの2人が入る大型の姿見で試着姿をクローズアップさせ、鏡越しにトークする。さらに昼間と夜間で明るさを調整できる調光照明を設置。じっくり時間をかけた接客には欠かせない装置となっている。
一方、バイヤーも社長も売場づくりでは容赦ない。繁忙期になると、ショップ側は売上げを取りたいがため、売場に多くの商品を置きたがるが、逆に接客空間が圧迫されてしまう。「あんなに商品を詰め込んで」「売上げや利益を得るのは目的なのか、手段なのか」「12月はお客さまの気持ちが一番華やぐ時だから、ウィンドウから人を楽しませてあげないと」。社長からこの話を聞いたときは正直ピンと来なかったが、後々考えるとその意図がわかってきた。
つまり、セレクトショップの商品は世界中から選りすぐった逸品で、数を売りたいものではない。だから、売場づくりの要諦は、陳列より接客にスペースを割けということだ。そのためには、AIDMAから販売に進む過程を考えた在庫配置とヴィジュアルマーチャンダイジング(VMD)がカギになる。世界中から仕入れた商品をカテゴリー別に編集し、特徴ある商品はフェイスアウトや打ち出しで展開。お客の購買心理の変化を想定しながら、自然に商品に誘って接客に努める。こうした環境で接するから、販売力も磨かれていくのである。
話を聞いたバイヤーさんは現在、同社の社長に昇格している。おそらく、販売スタッフもタブレットやスマートフォンを駆使し、デジタル面でも情報発信、顧客接点を増やしているだろう。高額な商品が売れないのではない。それを売る仕組みと環境の整備ができていないのだ。
洋服が好きで業界に入った人間なら、思い思いのコーディネートを考えるのは厭わないはず。今はそれをSNSで販売に結びつければいいのだ。プレゼンターとでも言おうか。経営陣、幹部がデジタルを盛んに謳うのなら、販売にはそうした人材の発掘と登用が必要なのである。