HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

店の手も借りたい。

2023-01-11 07:27:09 | Weblog
 ついにここまで来たかである。アマゾンジャパンが新たな配送方法、「Amazon Hub デリバリーパートナープログラム」を正式に開始する。街中の「中小店舗」=配送パートナーと契約し、アマゾンで注文された商品について会員宅までのラストワンマイルを、契約店舗のスタッフに配送してもらう仕組みだ。




 協力を要請するのは住宅地や繁華街の「雑貨店」「写真館」「レストラン」「居酒屋」「ヘアサロン」「花屋」「洋服店」「カフェ」「新聞販売店」「犬のブリーダー」。アマゾンはすでに東京や大阪、福岡など9都府県の数百店舗で実験をしており、今後は対象地域を広げることになる。

 アマゾンはこれまでヤマト運輸、ヤマトから再委託された個人配送事業者、アマゾンが組織化した中堅物流会社、直接雇用のアマゾンフレックスに配送を委託していた。それに街中の中小店が加わるわけだ。それは配送手法を段階的に拡大してきたように見えるが、中小店にまで協力を促さないと配送要員不足に対応できないとも受け取れる。果たしてどこまで有効なプログラムなのか。また、新たな問題は発生しないのだろうか。



 アマゾンは実験で以下のような契約条件を導き出した。配送範囲は協力店を中心に「半径2キロ圏内」。協力店に「主業務の空き時間があり、スタッフがいる」「荷物を一時的に保管できる場所がある」。配送手法は特に規定しないが、「自転車」や「徒歩」。配送個数は「1日数時間で約30~50個」。委託料は非公開だが、お客が少ない時間帯に配送を担うことで、協力店には「副収入」が期待できるという触れ込みだ。

 アマゾンフレックスの1日あたりのノルマは90個というから、協力店の契約条件を見るとかなり効率が良いと言える。詳しい資料が請求できないので、メディア報道だけでは何とも論評はしづらい。ただ、配送パートナーを増やしただけでは、アマゾンが抱える構造的な問題が解決するとは思えない。このプログラムで考えられる問題点を整理してみよう。

 1.荷物は3辺合計が60cm程度の小さいものになるのか
   → 重く、嵩張る、一辺1m程度の荷物はり大手宅配業者や委託業者が運ぶ

 2.配送時間が限られるため、再配達なしの置き配になるのか
   → 時間指定の荷物は従来通り大手宅配業者や委託業者が運ぶ

 3.期日指定、コレクト便には対応できないのか
   → 従来通り大手宅配業者や委託業者が運ぶ

 4.アマゾンフレッシュの生鮮、冷蔵、冷凍の食品配送には対応しないのか
   → 従来通り大手宅配業者や委託業者が運ぶ
 
 5.商品保管のスペースの範囲内でしか預かれない
   → 1店舗あたりの保管数量はバラバラになる

 6.店舗スタッフが配送先の住所を把握しなければならない
   →地理を知らないパートアルバイトでは無理

 7.注文側が店舗まで受け取りに行く場合は、営業時間内になる
   → 繁忙時の対応などの煩雑さを含め、専用スタッフが不可欠

 8.翌日配送対応では、保管スペースに在庫ストックが必要
   → 協力店が対応できない場合もあり、翌日配送には馴染まない

 9.人身事故が発生した場合、加害・被害の補償が発生する
   → 協力店の副業とすれば、店舗の責任となるのか

 ざっとこんな問題点が浮かび上がる。特に期日指定や生鮮の配送は問題が生じやすい。先日も「置き配で届いたおせちが横向きではなく、縦向きに置いてあった」との投稿がネットを賑わせた。協力店にいくら配送マニュアルを周知させていても、店舗スタッフにこの辺のルールの認識、届け主への配慮が徹底されるとは限らない。クレームが来るのはもちろん、ネットに書き込まれてたら、店舗としては堪らないだろう。

 もちろん、アマゾンもそれらは十分に承知の上で、協力店にはメール便やネコポスを含めた小型荷物を限定するのではないか。ただ、この手の荷物はヤマト運輸が契約する個人運送事業者(EAZY)も運んでいるため、簡単に協力店とシェアできるのか。そもそも構造的な問題は配送要員が不足していることで、小型荷物の配送だけでは解決しないような気もする。


配送の効率化に向け独自物流を確立できるか

 アマゾンは昨年、青森から沖縄までの日本全国18か所にアマゾンの配送拠点「デリバリーステーション」を開設した。「700万点以上の商品の翌日配送を可能」とするためで、商品を顧客宅の玄関先まで届けるラスト・ワンマイルの配送要員として、新たにアマゾンフレックスのドライバー数千人を雇用するとした。今回、街中の中小店舗まで配送パートナーにしたいのは、フレックスのドライバーが計画通りに確保できていないからかもしれない。

 アマゾンは全国9カ所のフルフィルメントセンター(FFC)にあらかじめ商品(マーケットプレイス含む)を在庫して受注から集荷、梱包、配送、返品、在庫管理までに対応している。デリバリーステーションではFFCから着荷した商品をベルトコンベアで配送コース別に仕分けするなど、自動化、効率化を図っている。つまり、700万点以上の商品の翌日配送を可能にすると公言したのは、アマゾンが独自物流を確立するための布石ともみえる。

 他のプラットフォーマーやメーカー、個人取引、企業の小口荷物の大半は、「ハブ&スポーク型」で動いている。これは宅配事業者のドライバーが荷物を集荷し、それをエリアセンターで分別して各地のリージョナル拠点まで輸送し、集約。そのリージョナル拠点で配送方面別に仕分けて夜間に輸送し、着荷したリージョナル拠点でエリア別に仕分け、輸送。エリアセンターに着荷した荷物を配送先別に仕分けし、同ドライバーが各戸に届けるものだ。

 集荷側で2回、着荷側でも2回、計4回の積み替えと輸送が発生する。まだまだ時間もコストもかかる非効率なシステムだ。アマゾンがデリバリーステーションを増やしているのは、余分な集荷から着荷、仕分け、輸送までを省いて物流を効率化するためだが、ラストワンマイルの配送については要員不足という課題が残ったままである。



 街の中小店舗に配送協力を願ったところで、今度はそこまで荷物を輸送する必要がある。アマゾン側は独自の配送網で届けると言っているが、アマゾンフレックスのドライバーは自分の荷物で手一杯だろうから、この業務には当たれない。とすれば、別のドライバーを確保しなければならないことになる。配送要員が不足しているのに、また配送要員が必要というパラドックス。抜本的な解決策にはならないだろう。

 協力店は商店街のように1ヶ所に集中するわけではないし、店舗が点在すればいちいち各店まで輸送することになり、非効率だ。また、荷物を保管できるスペースは店舗によって異なる。注文客が店舗まで取りにやって来ることも考えると、スタッフが荷物を管理しなければならない。さらに配送エリアが半径2キロ圏内でも地理、住所を把握しておく必要があり、地元民ではないパートアルバイトにそれが可能なのかという疑問が湧く。



 協力店で引き受ける形態がバラバラになれば、車を何度も止めて荷下ろしするなど作業が煩雑になる。商店街では車が通行できない時間帯もある。これらの課題は店舗の事情によっても違ってくる。アマゾン側の独自の配送網を持ってしても、平準化は図れないのではないか。

 ヤマト運輸は、「クロネコメイト」と呼ばれる配送パートを雇用している。彼らには最大でA4サイズまでの「DM便(通販カタログからパンフレット、レター、チラシまで)」しか任せていない。DM便は各エリアセンターでアシストスタッフがメイト別に仕分けし、メイトがセンターまで取りに行くか、別のスタッフが自宅まで届けることになっている。

 各クロネコメイトはそれぞれが地理を把握したエリアを決め、バイクまたは自転車で、各企業や家庭を廻ってDMを投函する。メイトは地域住民でラストワンマイルの地理を熟知している。仮にアマゾンがクロネコメイトの活用を考えたとしても、メイトの中にはネコポスを配送している人がいるので、アマゾンまでは手が回らないと思われる。

 アマゾンはAmazon Hub デリバリーパートナープログラムでも試行錯誤を繰り返しながら、基本的なオペレーションを組み立てていくのだろうが、果たしてうまくいくのか。最終的には無駄な積み替え、仕分けを無くし、時間もコストも圧縮できるP2P(point to point)体制が理想だろう。

 アマゾンは物流まで内製化することでそれに近づこうとしているようだが、トラックドライバーの時間外労働時間が年間960時間に制限される「2024年問題」まで1年を切った。不足する配送要員の解消にも取り組まない限り、物流の効率化は図れないと思われる。

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