HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

キレがいい、服。

2023-01-04 06:57:21 | Weblog
 2023年はあるショップの回顧から始めよう。かつてあった「Marcell(マルセル)」というメンズ専門店のことだ。F Co.,LTDという会社の運営で、多分西武セゾングループ系ではなかったかと記憶している。1980年代後半、翳りが見え始めたDCブランドに代わって台頭したイタリアンモード。マルセルはそれを全面に押し出した品揃えだった。新宿に旗艦店があり、渋谷、池袋の他、吉祥寺や町田などの郊外SCにも出店していた。
 
 ワイズファンだった筆者はシーズン初めに一応ショップを覗くが、カラーやデザインで気に入ったものがない時は、帰りにマルセルに寄るのがお決まりのコースだった。イタリアンモードでありながら、時にはスタイリッシュでモダン、時にはシャープでスパイシーなものも差し込まれていた。




 購入したジャケットやパンツ、セーターにはイタリア製の素材を使ったものが多く、上質なのに価格は値頃だったことも気に入った理由だった。インナーやボトムでは、ワイズのジャケットと色のトーンを合わせながら、自分流の着こなしを楽しんだ。ちょうど1986年〜90年頃だったと思う。

 バブル景気が崩壊し、マルセルは親会社という屋台骨が傾くと、メーカーや商社との信用取引も厳しくなったのか。商品は従来のテイストからは大きく外れ、低価格にシフトしていった。すると、MDもブレてしまい、素材はもちろん、色やデザインでもかつての面影を潜めた。懇意にしていたスタッフが配置換えや転勤で店を去ると、訪れる回数も減っていき、気づくと撤退したショップもあった。



 1990年代半ば、ファッションはカジュアルスタイル一辺倒になり、マルセルで最後に購入したのはニューヨークから福岡に戻った後、イタリア製のレザーブルゾン(5万円程度、写真無し、タグのみ保存)と同製のニット(1万円強、写真)だった。1996年の秋冬シーズンだっただろうか。ブルゾンは冬場のアウターとして7年ほど着た。ニットもブルゾンと色を合わせたので、インナーではローテーションの一つとして活躍した。

 ブルゾンは表面がオイルコーティングしてあり、ややざらっとした質感だった。シャツカラーで太め、背面両腰に身頃を絞るベルトがついていた。ポケットの企画が秀逸で、引き手がボールチェーンのファスナーのものと、物がそのまま入れられる脇ポケットのダブル仕様だった。見返し部分には深目の縦ポケットも付いていた。ショップマネージャーによると、「ユーロ版のトラッカーズジャケットじゃないかな」だった。確かにボルボやベンツの大型トラックに乗っているドライバーが着ていそうな感じもした。




 ニットはざっくりした透かし編みで、胸元からジップ仕様のタートルネック。ローゲージの糸はアルパカ毛が混紡されたベージュと茶色のマダラ模様で、霜降り風に見える。写真ではグレーっぽいが、何とも言えないアースカラーで、風合いがすごく気に入っていた。ところが、2000年代に入ると暖冬が続いたため、着る機会がなくなっていった。

 2003年ごろ、知り合いの若者がフリマを開催するので、「何か、掘り出し物になるアイテムを出してほしい」と言ってきた。知り合いたっての頼みだから、「イタリア製のレザーがあるよ」と、多少の躊躇いはあったがブルゾンを提供した。値付けをいくらにしたのかは聞かなかったが、フリマだから多分数千円だったのではないか。売れたかどうかを確認すると、若い男の子が購入していったという。

 一方、マルセルのニットは取扱表示はドライクリーニングだったが、ニット専用の洗剤で丁寧に手洗いした後、しっかり乾燥させ防虫剤を欠かさず衣裳ケースに保存していた。先日、衣替えをしている時、ケースから取り出して着てみたが、質感もよく本当にいいニットだ。購入から26年を経過したにも関わらず、劣化も縮みもほとんどない。ウール55%(うちアルパカ10%)、アクリル35%、ナイロン10%と絶妙の混紡比率も影響していると思う。

 ビームスやユナイテッドアローズ、シップスといったセレクトショップは、アメカジ好きなVAN世代が創業し、団塊ジュニアやその下世代のスタッフにも遺伝子が継承されている。一方、DCやイタカジを経験したオヤジたちは、雑誌LEONが取り上げるようなユーロモードに惹かれる。それらの層は50代以上の一部に限られるので、消費の中心にならないのは承知の上だ。ただ、バーニーズクラスまで上げるのではなく、往年のマルセル級の店舗なら1、2チェーンあってもいいのではないかと思う。


処分しなければと思うアイテムは多い

 今更ながら、1980年代から90年代前半までは服のクオリティというか、原価コストをかけても、価格は値頃でパフォーマンスは非常に高いものが多かった。識者が言うところの「お値打ち感」があったのだ。当然、上質なのでトレンドを気にしなければ、今でも着られるものばかりだ。振り返ると、処分したアイテムはかなりあるが、ルーズによる戻した今のトレンドを見ると、ボクシー調のジャケットといい、ツープリーツのパンツといい、街中では溶け込むものも多いと思う。もちろん、着る人間次第という前提はあるのだが。

 よく服がなかなか捨てられないという話を聞く。特に高齢者になると、そのような傾向が強い。戦中戦後と物のない時代に生きていれば、必然的に大事にしようという気持ちが強いのはわかる。ただ、劣化が激しいものまで持っていても仕方ない。残りの人生を考えても、後々に負担をかけることを想定すれば、思い切った断捨離も必要になる。





 一方で、上質なものを選ぶ、着用年数を長くすることも必要だ。筆者が特別なのかもしれないが、20代から自分が気に入ったものしか購入しないことがほとんどだった。だから、次々と着古して新しいものに買い替えるというより、ローテーションを組んで10年、20年と着続けるか、最低でも7〜8年は着て着れなくなれば処分するかだ。また、パンツでは「これを買い逃すと次に欲しいものが見つからないだろう」と、同時に2点買いすることもあった。現状の手持ち在庫で上げると、保有年数のトップ10は以下になる。

 1.マルセルのニット 26年
 2.アルマーニAXのニット 25年
 3.ヨウジヤマモトのニット(3点購入) 20年
 4.U.A.GLRの綿パンツ(2点購入) 18年
 5.ヨウジヤマモトのジャケット 17年
 6.無印良品の綿ニット 17年  
 7.GAPの綿パンツ(2点購入/1点のみリメイク) 16年
 8.無印良品の麻パンツ 16年
 9.コムデギャルソンの綿麻ジャケット 16年
 10.ワイズのジャケット 13年


 これらを見ると必ずしも日本製だから良い、アジア製が劣るとは言えない。U.A.GLRの綿パンツはベトナム製だし、無印良品の綿ニットは中国製だ。過去10数年はネット通販が浸透したため、欧州メーカーの商品も購入するようになった。そちらもニットはローからミドルゲージのものばかりで、保有年数は2桁を超えたものも出始めている。

 手持ちの服がどれくらいの耐用年数かは一概に言えない。また、ブランド品だから長持ちするというより、端から生地のクオリティが高いもの好んで選んできたこと。シーズンオフにはしっかりケア(手洗いや毛玉取りを含む)してきたこと。そして、2点買いをはじめとしたローテーション着用がここまで長く着られている理由だと思う。

 今から7〜8年前に「フランス人は10着しか服を持たない」という本が話題になり、タイトルだけ見て、「日本もそんな風になれば、ますます服が売れなくなる」と嘆く人がいた。流石に10着とは言わないが、タンス在庫はインナーのTシャツ類を除いて秋冬物が25〜26着程度。夏物が25着程度。これらで十分回していけるので、新規購入は消耗品のTシャツやジャージで十分だ。

 こちらは劣化するとウエスにするから、タンス在庫の総数は増えない。むしろ、数シーズンごとに衣装ケースから引っ張り出し、「これもあったな」「今季はこう着こなそう」と考えるのも、また楽しい。年末年始にはヨウジヤマモトのニットを着て、1月半ばから梅春にかけてはマルセルが活躍しそうだ。

 特にSDGsを意識するわけではないし、高価な服を礼賛するつもりもない。ネット通販で急拡大する「SHEIN」が色々と物議を醸しているが、最後は購入する人間の判断になる。ただ、筆者は上質な素材の服が好きだから、それを着続ければ十分。スタイリッシュで魅力ある服、シャープでキレがいい服は、飽きのこない服でもある。年の初めにそんなことを考えてしまった。
コメント
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