HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

多寡の訳を売る。

2023-03-29 06:44:32 | Weblog
 三井不動産が4月17日に開業する「ららぽーと門真」。ここは1階と3階がSCの「ららぽーと」、2階が「三井アウトレットパーク」というハイブレッド施設(運営は三井不動産商業マネジメント)になる。同社では初めての試みだが、他社ではすでに存在する。イオンモールは2022年4月、北九州市のイオンモール八幡東の隣にジアウトレット北九州を開業。両施設はデッキでつながり往来を可能にした。こちらもハイブリッド型と言ってもいいと思う。



 こうした併設型について以前なら、デベロッパーの経営者はどう言っただろうか。「アウトレットは常時オフプライスだから、ショッピングセンターのプロパー(正価)商品が影響を受ける」。おそらく、そんなスタイルに違和感を抱き、展開に二の足を踏んだと思われる。しかし、今や郊外SCに出店するテナントは、プロパー販売と言っても商品はローコスト製造によるロープライス。アウトレットにも「アウトレット専用品」が並び、それらと比較すること自体がナンセンスだ。まして、安さ慣れした消費者が分けて見ているとは考えにくい。

 そもそもアウトレットとは、ブランドメーカーや小売店が型落ちや廃番品、生産時のキズ物、売れ残り品などを処分するために作った店舗。それらを集めた施設をアウトレットモールと呼ぶ。日本では三井不動産の三井アウトレットパークと三菱地所・サイモンのプレミアム・アウトレットが先行し、それに新参のイオンモールが加わる構図。以前は都心店への影響(米国では70マイル規制がある)から地方の遠隔地に作られていたが、近年は都心に近い施設も増加。ららぽーと門真の三井アウトレットパークも都市型施設といえる。

 では、ブランドメーカーや小売店に売れ残り品などがどれほど存在するのか。また、次々と開業するアウトレットモールに出店できるほど、絶対量があるのか。正しく言えば、レアな高級ブランドについては絶対量は限られる。なのに次々とアウトレットモールが開業できるのはなぜか。それはアウトレット専用品を作って販売する店舗が多いからだ。これは最初からコストを下げて製造した低価格商品に、メーカーや小売店のブランドタグをつけたに過ぎない。

 デベロッパー側はテナントに対し、なるべくアウトレット専用品を販売しないよう指導している。一方で、次々とアウトレットモールを開業し、メーカーや小売店に出店を依頼している。だから、高級ブランドの在庫処分となるオフプライスの商品、純然たるアウトレット品が足りるわけがない。明らかに矛盾する。開業する三井アウトレットパーク大阪門真も、近郊にはすでに同大阪鶴見があるのだ。

 ブランドメーカーや小売店にとってオフプライス商品が増えるのは、正価品の販売在庫が多いからだ。つまり、景気が良くプロパー商品の売れ行きが良ければ、それだけアウトレットに流れる商品は減っていく。逆に景気が悪ければ、オフプライス品が増えることもあるが、生産自体が調整されると商品も少なくなる。それでも、アウトレット展開する上では売場を埋めなければならないため、どうしてもアウトレット専用品を置かざるを得ないのだ。




 アウトレット先進国の米国も似たようなもので、ラグジュアリーやレアなブランドのアウトレットだけで構成するのは、シカゴとミルウォーキーの中間にある「ガーニーミルズ」やニューヨーク・マンハッタンから車で1時間の「ウッドベリーコモン」くらい。大半のモールは一部の高級ブランドと多数のロープライスブランドをミックスしているに過ぎない。

 もちろん、来店客の多くがアウトレットモールで専用品が販売されていることは、すでに承知している。それでもアウトレットモールに出かけるのは、大半のお客が7割引き、8割引きとなった高級ブランドの購入が目的というより、「何か掘り出し物がないか」「気に入ったものが見つかり、価格が折り合えば買ってもいいか」くらいの感覚だからだ。

 デベロッパー側もアウトレットだけではリーシングげ厳しくなってきている。イオンモールが4月28日に神奈川県平塚市にグランドオープンする「ジ アウトレット湘南平塚」は、「御殿場や横浜の競合アウトレットと差別化するため、アウトレットだけでなく、日常使いの生鮮3品、クリニックモールを充実させ、平日も利用しやすい施設を目指す」という。

 テナント構成は郊外SCとさほど変わらない。家族やカップルで訪れて施設内を見て回り、お腹が空けばレストランで食事し、喉が渇けばカフェで休憩する。別にショッピングだけが目的ではなく、外出したい人間の基本行動そのものだ。もはや郊外SCにアウトレットモールを併設しても、SCのプロパー店が影響を受けることはそれほどないと言ってもいいだろう。


高級ブランドを購入するならプロパー



 日本はバブルが崩壊した後の長引く景気低迷で中産階級が没落。アパレルを含めて物価が下がるデフレが蔓延したため、大半のメーカーはローコスト生産による低価格戦略にシフトした。さらに安くてトレンドを押さえたファストファッションの出現により、ヤング世代を中心に品質をそれほど気にしない消費が浸透した。

 ユニクロやザラ、100円ショップや3coinsでも、各商品は必要で十分な機能と品質を備えており、生活していく上ではこれらでも何ら困らない。だから、ショッピングの中心は郊外SCやネット通販になる。逆に「少し上の生活や消費」は加速度的に縮小した。いちばん影響を受けたのが百貨店で、地方、都市を問わず次々と閉店する状況にある。

 一方、新型コロナウィルスはワクチン接種などの感染対策が一巡し、行動制限が緩和されるようになった。さらに2023年は「マスクなし」「5類移行」で、都市型SCを中心に実店舗がどこまでお客を惹きつけるかの一年になる。すでに冬のセールでは、値下げされたセール品より梅春向けのプロパー商品の方が好調だった店舗があるなど、購買の状況が変わりつつある。

 安くても必要で十分な機能と品質を備えた商品はいくらもある。片やデザインが良くなかったり、カラーリングなどセンスを欠く商品は、いくら値下げしても売れない。自分が購入できる価格帯で欲しい商品が見つかったら、プロパーで購入した方が買い逃すリスクがないとの心理が働く。こうした消費行動をさらに盛り上げる施作が打てるかだ。

 多くの勤労者の給与が上がってないとは言え、消費者としてブランド信仰が無くなったわけではない。人気ブランドがアウトレットで正価の半額以下なら購入する人は大勢いる。ナイキのスニーカーなどは代表格だ。さらにラグジュアリーブランドのバッグをプロパーで購入する若い女性も増殖中だ。この春に給与が上がれば、正価でも高級ブランドに手を伸ばす人は確実に増えていくと思われる。

 「アパレル販売」ということに限定して考えると、アウトレットの次には、ブランドの在庫処分品を仕入れて売る「オフプライスストア」併設も出てくるだろう。これこそ、ブランドメーカーとすれば、SC内に同じブランドのプロパー店があれば、影響が避けられないと出店を躊躇うかもしれない。ただ、オフプライスストアの商品はセールでも「売れなかった商品」が主体だけに、業態は違えど両者を同じ施設内に並べることで、売れる条件は価格なのか、それ以外のものか。お客の購買行動を探る実証実験の場にすることもできる。



 もちろん、オフプライスストアの商品が売れなければ、商業施設としては収益が上がらない。そのため、次の段階としてSDGsを意識したリユースというか、「リメイク商品」を展開も考えるべきだと思う。2020年秋、アパレルメーカーのイトキンが発表した「re:mine(リマイン)」のようなアップサイクルなD2Cブランドがそうだ。

 国内ブランドの場合、単に売れ残り商品を消化するモデルでは先細る。売れ残りには売れない理由がある。そこから学び、一歩進化させることが不可欠で、リメイクも対応策の一つになる。多くのメーカーが参入すれば、実店舗やセレクトの展開も考えられる。デベロッパーもSC運営者としてニーズを掘り起こしには積極的に関わるべきだろう。

 お客がSCを訪れる目的はいろいろだし、購買行動も選択肢で変わってくる。実店舗だからこそ、「実際に商品を見て気に入ったから購入した」という衝動買いを生む。そんな商品とは、日頃はお目にかかれないようなもの。倉庫に眠っていた不良在庫をリメイクした数量限定のアイテムもその一つ。ショッピングの幅が広がり、時流にも合致する。

 アパレル業界は中国などでローコスト生産を続けた結果、日本はデフレスパイラルにはまって市場が縮小し、多くの企業が売上げと利益を失った。それでも、デベロッパー側は開発の手を緩めず、郊外SCにはロープライスのテナントが溢れている。原材料コストが上昇している以上、安い商品を売り続けても収益は上がらないし、コロナ禍以前の売上げには戻らない。それを変えようという意見も出始めているが、まだまだ時間がかかりそうだ。

 まずは足元の実店舗を見直す一年にする。商品一点一点にそれなりの意味を持たせなければならない。お客が商品を購入するのは低価格、割引、機能性や使い勝手だけではなくなってきている。店舗側はそれをどう揃え、デベロッパー側はそれらのテナントをどう集め、どう運営していくか。お客に対し価格の多寡の理由をはっきりと示すこと。そうしたお客を迎えるための商品配置、品揃えがますます重要になってくる。
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