HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

CfDの服づくり。

2023-04-12 07:24:02 | Weblog
 アパレル卸、特に専門店系メーカーにとって大事なことが、企画力なのは言うまでもない。その条件には「他社が作らないような」「少し行き過ぎるくらい」「洋服好きが好む」がある。メーカーとしては営業的に売れ筋を作りたくなるが、取引先のバイヤーさんは自店のお得意さんのウォンツをもとに要望してくる。そこでは、他社にはない「尖ったもの」「スパイシーな」「エッジを効かせた」などがキーワードになる。

 最近ではそうしたテイストは、D2Cブランドもデザインしているが、必ずしも全てのアイテムがお客さんにとって「ド・ストライク」「こんなのが欲しかった」にはなっていないように感じる。いくらプロダクトアウトといっても、お客さんのことを経験値からよくわかっているのは小売りのバイヤーさんの方だ。そうした人たちにもコミュニケーションの場を広げ、いかに絶妙なバランスに仕上げるか。その辺も大事で、デザイナーの「聞く力」が問われるところでもある。

 小売り専門店、セレクトショップのような品揃えには、大きく三つの原則がある。品揃えの前提としてファッションイメージや価格帯、鮮度のバランスなどから考えていかなければならない。まず原則1は、「憧れや先取り」だ。シーズントレンドに関係なく、素材やデザインで少し先をいくもの。自店のお客さんに洋服好きがいればいるほど、「そんな商品を揃えている」から、毎シーズン購入してくれるケースが多いのだ。

 原則2は、バラエティのある提案。有名ブランドからオリジナル、小物やグッズまで、品揃えの幅が広がると、「服を探しに来たけど、お洒落なアクセがあったから購入した」と、意外性のある購買もありうる。ただ、ここには落とし穴もある。ターゲットにするお客さんにとっては、「何でもあるけど、欲しいものが見つからない」とならないとも限らないからだ。

 原則3は、買いたくなるものがあること。憧れや先取りの商品と区別し、「ベーシックなもの」「シーズントレンド」「定番カラー」「サイズ」を押さえていること。この割合をどうするか。広げ過ぎると何ともないショップになり、削るにしても全てで行うのは難しい。トレンドをカットすれば、色とサイズは揃えるという具合に。選択と集中が必要になる。



 品揃えの三原則をどんな形、どんなスケジュールで店頭に打ち出すか。全てを実店舗で、営業期に落とし込んで行うと、厳しい部分がある。例えば、憧れや先取りの商品を期初に店頭で展開しても、一般のお客さんからすれば行き過ぎて腰が引けてしまう。やはり顧客を対象にした形で行う「受注展示会」「コレクション」を別に実施するのがいい。

 新型コロナウイルスの感染者が減少し、お客さんが憧れや先取りの商品を求め始めたことで、顧客を対象とした限定催事が見直されている。これはかつてサロンブティック(高級婦人服専門店)がシーズン初めに必ず実施していた。コロナ禍以前にもセレクトショップや百貨店が取り入れており、売上げを積んでいたから確実性が高い手法と言える。

 ショップの営業期は大きく「導入」「実売」「処理」に分かれる。これは各店の性格によってもどの時期が強いかが変わってくるが、洋服好きの顧客を抱える店舗ほど期に関係なく催事に絞って憧れや先取りの商品を受注、販売するケースは少なくない。オンシーズンの半期前、つまり春の時期に「2023-24のAW〇〇の受注会」を行うものだ。

 コロナ感染者が減少し、お客さんが実店舗に戻ってきているからこそ、顧客に憧れや先取りの商品を直に見てもらうことほど購買意欲を刺激するものはない。少し前だったが、ユナイテッドアローズ(UA)の松崎善則社長がこうした販売手法にも言及していた。


小売りなら受注会、メーカーなら企画内見会



 そんなUAのDistrictは3月17日から21日まで、ニットブランド「Slopeslow」の「2023年秋冬コレクション」を開催した。同ブランドは、時を超えて愛用され続けるワークウェアのように経年変化を経ても長く愛用される、タフで上質、オーセンティックな「ニットウェア」作りを得意とするという。

 全13型、30種類を超え、価格は3万円台から17万円台。招待客は幅広いバリエーションの中から、好みの一着を選ぶことができる。まさに世界中から逸品をセレクトしてきたUAらしい受注展示会だ。インポートアイテムなどのバイング力をもつセレクトショップ、または百貨店ではこうしたブランドとしっかり組んだ受注会を実施できる。そんな仕掛けも差別化としてますます重要になってくる。

 全国津々浦々、そして、ネット通販。流通するマスプロダクトの商品は決まりきっている。コロナ感染が収束した今こそ、上質な素材、特別な色出し、目先の変わったデザインなど、憧れや先取りの商品の商品を揃えて、顧客の購買意欲に火をつけることは重要だ。

 百貨店の松屋銀座が開催している外商や自社カードなどの顧客を対象にした「松美会」。こちらは先日わずか2日間だけの実施にも関わらず、売上げ、客数はともに前年同期比で3割以上の増加だったという。顧客の側も日頃は店頭に並ばない商品を欲しているのは間違いないようで、どんどん仕掛けていくべきではないかと思う。

 先日、知り合いのレディースメーカーの担当者は、こんなことを教えてくれた。



 「取引先のバイヤーさんは、お客さんから『布帛とニットを組み合わせた服が着てみたい』との要望があったと言う。バイヤーさんは『そこで思ったんだけど、目の詰まったウール地とカシミヤニットを組み合わせた羽織ものなんてどう』なんて言い出して。他の取引先にも聞くと、確かに面白そうだって。ただ、過去の経験から折角サンプルを作っても、バイヤーがつけてくれないリスクもあるけど、1~2型ならやってもいいかも

 異素材の組み合わせは、コムデギャルソンのようなデザイナーズブランドがよくやっている。要望をしたお客さんとすれば、「シーズン初めに投入する見せ筋(憧れや先取りの商品)でもやってくれれば、購入するんだけどなあ」と、思ったのではないか。いかにも洋服好きな女性が考えそうで、バイヤーさんも目先を変えた商品なら、仕入れてもいいかと思ったのだろう。

 「ウール地とカシミヤニットを組み合わせた羽織もの」が製造可能かは別にして、こうしたお客さんのニーズを見れば、メーカーやD2Cブランドは展示会の内容を少し見直してみてはどうだろうか。サンプルからバイヤーに選んでもらうやり方ではなく、「内見会」という形で企画デザインを取引先の要望(お客さんのウォンツ)と整合できるようなスタンスで臨む。現物のサンプルではなく、デジタル画像によるスキーマチックイラストで見せてもいいのではないか。

 また、素材と副資材はデジタル画像にしたマーク(種類)や配色、トリミング・ディテールを準備しておく。国内の縫製工場はどこもフル稼働が続くので、工賃はもちろん、納期にも余裕を持たせたコスト管理が必要だ。「生地幅や用尺を元にこれにすれば、コストがかかるので上代はこうなる」「納期はいつくらいで、追加体制はこうです」などの情報も用意する。内見会の時点で、色やデザイン、素材の変更などについても、バイヤーとじっくり話し込む中で修正すればいいのではないかと思う。



 D2Cブランドも、自分達がデザインしたものをネットを通じて一方的にお客さんに発信するだけでなく、こうした内見会を通じてお客さんに対し「修正が効くオーダー」を受けることも必要ではないか。その時、「パターンは同じで生地を変えられる」とか、「生地は同じでデザインを変更できる」とか、柔軟に修正対応が可能かどうかもはっきりさせる。できないなら、できないとはっきり示せばいい。

 ただ、バイヤーを通さず直接お客さんに販売するブランドだからこそ、リアルだろうが、ネットを通してだろうが、「ここをもう少し修正してくれれば、着たいんだけど」という意見が多ければ、耳を傾けることも営業的に重要なことではないだろうか。

 ユナイテッドアローズのような小売業では、受注会でもメーカーが企画した商品を売るしかないようなイメージがある。しかし、お客さんから要望が多ければ、サイズや色替えといった要望はメーカー側にも伝えてのんでもらう「バイオーダー」は決して不可能ではない。商品を企画するメーカーやD2Cブランドもできる限り検討する必要はあると思う。

 気に入った服が見つかったら服を買いたい。こんなデザインの服ならお金に糸目をつけない。そんなお客は決して少なくない。そうしたウォンツをもう一度、現状のデザインに当てはめて、練り直しのチャンスに結びつけるか。CbD(Customer feed back Designer)による服づくりとでも言おうか。柔軟な発想とデジタルを生かした取り組みが求められている。
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