HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

普段着に性差は要らない。

2024-10-02 06:51:17 | Weblog
 9月の初旬、ユニクロが同ブランドのクリエイティブディレクターに「クレア・ワイト・ケラー」が就任すると、発表した。ケラー氏は2023年9月からレディス「ユニクロC」のデザイナーを務め、24年秋冬からはメンズを含めた「メインラインコレクション」も手がける。これまでベーシックを旗印に売上げを伸ばしてきたユニクロがどう変わるのか。メインラインというからMDの何%かでクリエイティビティや独創性を打ち出すと思う。それが売上げにどう影響するか。ステークホルダーも固唾をのんで見守っている。

 ケラー氏は英国人のデザイナー。2017年の秋冬シーズンまでの6年間、クロエのクリエイティブディレクターを務め、17年3月にはジバンシィで女性初のアーティスティック・ディレクターに就任。3年にわたって老舗メゾンのクリエーティブワーク全般に携わっている。その後2023年、ユニクロがレディスウエアの強化として始動したプロジェクト、ユニクロCに参画。ゆったりシルエットのニットをはじめ、サテンプリーツのロングスカート、中綿入りのブルゾンやコート、ギャバジンツイルのトレンチコートなど、34アイテムを企画した。

 この時のプレス発表で、ユニクロでR&D統括責任者を務める勝田幸宏ファーストリテイリングの上席執行役員は、「ユニクロのウィメンズにとってエポックメイキングとなる大切なプロジェクト。ワイト・ケラー氏は、新たなライフウェアを作る上で最高のパートナー」と、ケラー氏とのタッグに自信をのぞかせた。つまり、この時点で「ユニクロU」でデザイナーを務めたクリストフ・ルメールのように長期的な契約を結ぶ可能性を感じた。案の定、2年目にしてメンズも手がけることになり、その予感は的中した。



 では、2023年に展開された商品はどうだったか。その前に過去のコラボレーションを振り返ってみたい。ユニクロのデザイナーズコラボと言えば、大ヒットし転売ヤーの暗躍もあった「+J」がある。これはデザイナーのジル・サンダーがミラノコレクションに出展していたこともあり、欧米人の体型にジャストフィットするミニマルでナチュラルなテイストだった。その後にコラボしたクリストフ・ルメールは、ユニクロUをさらに細身のシルエットに仕上げた。世界的なトレンドがタイトだったことも少なからず影響したと思う。

 だが、トレンドは変化する。細身からワイドシルエットへの揺り戻しだ。昨今は完全にワイドに変わっている。尚且つ、ユニクロCは世界マーケット攻略に照準を当てており、レディスとは言え日本人より身長、体重ともに大きな欧米人に合わせたサイズ展開に感じた。プレス写真にあったトレンチコート(税込12900円)を実際に売場で見てみたが、完全にゆったり目のシルエットで、日本人が自分の通常サイズを選んでもオーバーサイズな着こなしができる。従来のユニクロとは一線を画し、完全にトレンドを意識した企画との印象を受けた。

 ケラー氏が英国人ということで、同国北東部の漁師が愛用したバブアージャケット風のユーティリティショートブルゾン(6990円税込)もあった。こちらもサイズはXSから4XLまであり、色もブラックやオリーブが用意されるなどメンズライクなアイテムに見えた。もっとも、アウトドア由来のバブアージャケットは近年、女性ファッショニスタがコーディネートしたスタイルがSNSなどで話題を呼び、ビームスやベイクルーズも女性向けにリ・デザインしたものを別注したほど。ユニクロとしては価格的に本格仕様(オイルコーティング等)はできないにしても、多少は意識しているのではないかと感じた。

 ユニクロCの企画については、従来とは全く異なるナチュラル系(骨格質のスタイリッシュタイプ)のオーバーサイズで抜けて着崩せるパターンだと、分析された識者もいた。確かに2023年はレディスだけの企画にも関わらず、売場ではメンズも着られそうなアイテム、サイズもあった。実際にどれほどの男性客が購入したのかはわからないが、メンズを意識していたのは確かだろう。そして、1年後の今年はメンズのコレクションも登場するのだから、まさに「お待たせしました」である。

 ただ、素材に関しては、相変わらずレギュラー品と同じものを使用しているようで、とても褒められたものではない。トレンドを意識したオーバーサイズのトレンチコートも、これでは格落ちは否めなかった。ライセンスとは言えバーバリーや専門店系アパレルが使用する厚手のコットンギャバを見てきたこともあるだろうが、ユニクロの価格体系と原価率を考えると仕方ないことだ。

 また、+Jの最終コレクションでは、発売日には各店舗で早朝から行列ができ、販売直後にはオークションサイトで転売が数々見られた。デザイナーのジルサンダーがラグジュアリーブランドでは名が知られたこともあるが、ケラー氏についてはそこまでの知名度がないことから、転売がエスカレートするまでの事態には至っていない。


ジェンダーフリーでは男女兼用の企画は当然か



 では、メンズはどうなのだろう。早速、9月6日より発売がスタートしたアイテムを見てみた。アウターから順に挙げると、ダブルフェイスコート(12900円、黒・カーキ・オリーブの3色、XS〜XXL 6サイズ)、同じパターンで柄物のダブルフェイスコート(12900円、ブラウン、XS〜XXL 6サイズ)、フーデッドコート(12900円、グレー、黒、ブラウンの3色、XS〜XXL 6サイズ)がある。フーデッドコートはあえて男女兼用と表示されているが、ダブルフェイスコートも商品写真を見ると、女性モデルが着たカットもある。サイズもXSからの展開なので、女性の着用も想定していると思う。

 他にもある。リラックスVネックセーター(3990円、4カラー、XS〜XXL 6サイズ)。ブロードオーバーサイズシャツ(3990円、3カラー、XS〜4XL 8サイズ)。スウェットオーバーサイズプルパーカ&スウェットワイドパンツ(各3990円、3カラー、X~4XL 8サイズ)。ワイドパラシュートパンツ(3990円、3カラー、XS〜4XL 8サイズ)。ワイドパラシュートパンツ/デニム(3990円、3カラー、XS〜4XL 8サイズ)。これらも豊富なサイズ展開で、全て男女兼用だ。昨年とは逆版のジェンダー対応なのかと思ってしまう。

 というか、ケラー氏はクロエやジバンシィというレディス向けブランドに携わってきた。そうしたキャリアと経験からすれば、ユニクロCのメンズ版でも、昨年の企画スタイルに倣いオーバーサイズ=男女対応可にしたのではないか。パターンは改めて男性向けを作ったのかどうかはわからないが、デザインの面ではオーバーサイズというトレンドを活用し、女性向けをサイズアップして男女が着用できるMDを構築したのではないかと思われる。もちろん、ユニクロのベースはアメカジのテイストだ。それをずっと引きずっていては、顧客離れは防げない。コラボでは尖ったデザインも不可欠なのである。

 小物のミニショルダーバッグ(1990円、4カラー)、2WAYユーティリティバッグ(3990円、3カラー)、スウェードコンビネーションスニーカー(4990円、22.5~28cm、12サイズ展開)。これらもあえて男女兼用を謳っているほどだから、MDの軸は徹底してブレていない。穿った言い方をすれば、トレンドを生産効率に結びつけて一気に収益を稼ごうという大胆な政策も見え隠れする。もちろん、それはユニクロCのメンズが爆発的に売れてのことになるわけだが、9月に入っても高温が続いていることもあり、投入即完売という商品は見当たらない。ただ、ユニクロが男女兼用アイテムを投入するのは、他にも理由があるはずだ。



 考えられるのは、「ジェンダーフリー」の潮流が影響したのではないか。アパレル業界にはこれまでも「マニッシュ」「マスキュリン」や「フェミ男」というトレンドがあった。しかし、それはあくまで女性が着るメンズテイストや男性が袴のような巻きスカートを穿いたもので、男女が同じ服を着るものではなかった。ところが、昨今は社会的・文化的な性差=ジェンダーを解放しようという世界的な流れがある。女性は家庭的であるべきとか、男性は女性を守らなければならないとか。社会や文化伝統による押し付けや不自由さを強いられるのではなく、自由・平等で公平な行動・選択をできるようにしようという考え方だ。

 体型は男でも心は女性。だから、男性向けデザインの服は着たくない。その逆もある。フェミ男が流行した時は、男性であっても骨格は華奢で筋肉もない骨細の体型だった。だが、今では筋肉質でがっちりしたボディを持ちながら、心は女性という男性も少なくない。物議を醸したパリオリンピックのボクシング選手がそうだろう。体は男でも心は女、逆に体は女でも心は男。どちらにも共通するのは、自らのジェンダーにあった服を着たい。体つきで服に選ばれたくない。欧米社会はLGBTQを含め差別の解放を目指す考え方が深まっており、もともと性に敏感だったアパレル業界でもジェンダーレスの概念が認識されつつある。

 とすれば、当初は「ノンエイジ」「ユニセックス」を標榜していたユニクロがグローバルSPAとしての覇権を握る上で、さらにジェンダーフリーの市場を突き詰めようとしても不思議ではない。性差はデリケートな問題であり、考え方の賛否が著しいので、表立って声高に主張することはないと思う。ただ、ユニクロが大上段にメンズを含めたメインラインコレクションと位置付けるほどのプロジェクトにした意味を考えると、単なるデザイナーズコラボという次元で捉えてはいないような気もする。自ら世界的にジェンダーフリーの市場を攻略、いや対応していくというミッションを課すなら、普段着に性差は要らないという意味か。もちろん筆者の推論の域を出ないで言わせてもらっているのだが。

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