HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

もたれ合いが元凶か。

2024-11-13 06:46:01 | Weblog
 360億円もの有利子負債を抱えた鹿児島の百貨店、山形屋。5ヵ年の事業再生計画案では、負債360億円のうち、借入金を株式に転換することで債務を減らすDES(デット・エクイティ・スワップ)で40億円、借入金を劣後ローンに交換するDDS(デット・デット・スワップ)で70億円を調達。残り250億円については返済を5年間猶予することになった。

 再生計画を主導したのは、山形屋のメーンバンク、鹿児島銀行。同行は熊本の肥後銀行など23社で構成する九州ファイナンシャルグループの一員でもある。同グループの笠原慶久社長は5月の決算発表で、「山形屋は鹿児島の中核企業であり、鹿児島銀行がメーンバンクとして、これまでもこれからもしっかり支援していく」と、述べた。再生計画に打ち出された中期事業計画では、運営効率化とガバナンス強化、店舗活性化、業務改革が柱となった。あれから5ヶ月、店舗活性化の第1弾がいよいよ動き出した。



 山形屋1号館西側に位置する2号館の5階部分、約400m2のスペースに家電量販店の「エディオン」と、文具店「丸善」をテナント誘致したのがそれだ。両店とも百貨店の客層に合わせて高級品主体のラインナップとした。エディオンは売場面積約250m2で約1500アイテムに絞り込み、高級炊飯器やブランドトースター、マッサージチェアなど全てが高価格帯とした。カウンターにはスタッフを常駐させ、来店する高齢者などにゆっくり接客できるように配慮。郊外店と一線を画す品揃え、接客サービスが売りだ。



 丸善は約150m2に約15000アイテムを揃えた。こちらも万年筆や東京銀座の鳩居堂が扱う便箋など、百貨店の客層に合わせた。2号館には以前にも山形屋のグループ会社が運営する文具店があり、別フロアには家電売場もあったが、5階に集約した形だ。テナントに切り替えたのは、取り扱い商品のグレードが上がることで、集客に貢献できて収益改善につながるとの目論見。ならば、もっと早くから手をつけるべきだったはずだ。店舗活性化が緒についたというより、まだまだ手探りの状態ではないかと思う。

 山形屋は2014年2月期から23年同期までに販管費を118億5,800万円から84億3,500万円まで、30%近く削った。にも関わらず、売上高はこの9年間で24%も減少し、粗利益率も14年2月期に25.46%だったものが、22年2月期は22.68%と8年前比で2.78ポイントも悪化している。粗利益率が下降し続けたのは、メーカーの派遣社員による「委託販売」の売場が増えたためだ。今回、店舗の一部をテナントに切り替えたのは、山形屋が収益を上げるには直営や委託販売ではなく、「歩率家賃」しかないとの結論に行き着いた結果だろう。今後もテナントが増えていくと考えられ、小売業から不動産業への脱皮が再建の軸になるのは間違いない。

 また、9月には店舗の活性化と業務改革を目的に「山形屋アプリ」を導入し、デジタル活用にも踏み込んだ。アプリ会員にお得な情報を提供しながら、会員情報を一括管理してマーケティングに生かす狙いのようだ。ただ、中高年主体の顧客がどこまで山形屋アプリを使いこなせるかは全くの未知数。また、双方向のデジタルコミュニケーションで本当に顧客ニーズを引き出し、それをテナント誘致に活用できるかはわからない。どちらにしても、デジタル部署の運用力がカギを握ると言っていいだろう。

 すでに持ち株会社の山形屋ホールディングスが設立され、取締役会長には鹿児島銀行の関連会社から中元公明社長が就任している。このほか鹿児島銀行から1人、東京のファンド運営会社の1人が経営陣に名を連ねるが、代表取締役社長には山形屋の岩元純吉会長、取締役にも同岩元修士社長がスライドするなど、ガバナンス面での緩みが懸念される。経営陣にトップセールスをかけるほどの覚悟があり、地方百貨店に出店しようというテナントをどこまで開拓できるか。2022年に開業した「センテラス天文館」は2年目で、業態転換も含め23店を入れ替えたほど。他社が苦戦する間にいかに攻め切れるか。経営陣の本気度が試されている。

 もっとも、鹿児島市の中心部では再開発が進む。2021年6月にはJR鹿児島中央駅前に鹿児島中央タワーが完成し、1階から7階に大型商業施設「Li-Ka1920」が入居。ニトリやダイソー、ヤマダ電機の他、飲食やドラッグ、コンビニなどが出店した。加治屋町1番街区では複合商業施設の建設計画があり、中央駅西口地区でも再開発が進んでいる。商業施設は増加しており、競争は激化の一途を辿る。当然、テナントの奪い合いは熾烈を極めるわけで、百貨店の顧客に合うものが残っているかは不明だ。有力テナントを誘致するにも、新たなサービスの提供するにも、山形屋を取り巻く環境を考えるとそう簡単に行くとは思えない。


メガバンク撤退が意味するもの



 そんな状況下で、金融機関の間で温度差が露呈している。支援に当たるのは鹿児島銀行を含め全部で17行あるが、事業再生ADRの成立からわずか1ヶ月後の6月28日、三菱UFJ銀行が事業再生にも加わったファンドの「ルネッサンスキャピタル」に貸出債権を譲渡。7月10日には三井住友銀行も続いた。譲渡先は同じくルネッサンスキャピタルだ。さらに7月30日にはみずほ銀行が「AYH・アセット・マネジメント」なる会社に債権を譲渡した。メガバンク3行が相次ぎ事業再生から撤退したのである。

 貸出債権を譲渡した理由は何か。一つはメガバンクが山形屋の経営再建に関与しないことを意味する。再生計画案は山形屋のメーンバンクである鹿児島銀行が作成し、持ち株会社にも経営陣を送り込むなど主導的立場にある。もちろん、融資、貸出債権の額はダントツだろうから、当然と言えば当然だ。つまり、そこまでの貸出規模でないメガバンクにとっては、これ以上関わっても余りあるリターンは望みにくいわけだ。また、地方百貨店に過ぎない山形屋が再建できて再び融資できる環境になるかは、未知数ということもある。

 二つ目はリスクヘッジだ。メガバンクとしては山形屋の債権を保有しても資産運用の最適化からすれば、それほどのメリットはない。万が一経営再建が頓挫した場合、融資が焦げ付き不良債権化するリスクがある。ならば、早いうちに譲渡した方がそれを回避できるわけだ。むしろ、リスク承知で出資をするなら、ジリ貧の地方百貨店より最先端半導体の方が経済的な合理性がある。すでに前出の3行は出資に動いている。国もTSMCやラピダスを支援しており、メガバンクとしても政府の債務保証に期待できるとの読みもあるだろう。

 山形屋の経営再建は、メガバンクの撤退で地元銀行団が担うことになる。「事業再生にはスピードが不可欠」「悠長な地方気質ではダメだ」「いざとなれば創業家にも去ってもらう」など、口うるさく言うであろうメガバンクが退いた。ただ、ファンドへの債権譲渡が再生計画に迷いをもたらすとの見方もある。銀行団は内心ほっとしているだろうが、それでぬるま湯体質に陥るのなら、ドラスティックな構造改革が骨抜きになる。東京や大阪のように大手百貨店どうしが熾烈な競争を続けているのとは次元が違うからだ。

 地元銀行団には信用金庫や信用組合も含まれる。これらの財務基盤は銀行ほど強固でなく、低金利の長期化と地域経済の低迷の影響で、経営は盤石な状態とは言えない。それでなくても、中小企業のコロナ倒産が増加中で、その多くが店じまいという清算型処理になっている。同処理は債務超過になると、融資はカットされて貸した金を回収できないため、金融機関の体力が削がれてしまう。信用金庫や信用組合が山形屋だけに関われない状況になれば、支援体制にも支障が出かねない。

 新たな顧客開拓。歴史的店舗の再活用。地域一体開発で相乗効果。デジタルによる稼ぐ力の構築等々。専門家や大学教授は口々に事業再生の手法を列挙する。しかし、山形屋を取り巻く環境を考えると、どれをとっても実現のハードルは高い。若者など若年層を開拓するなら、とうにやっていたはず。インバウンドもブランドが充実する大手には勝てない。歴史ある建物で何を買い物するのか。地域一体開発はセンテラス天文館の惨状が暗い影を落とす。デジタルにしても買取商品でなければ、自由に売ることはできない、等からだ。



 そもそも第1弾の再建策からして、高級家電や逸品文具が飛ぶように売れるかと言えば、そんなことはないだろう。当然、稼ぎ頭にはならないから収益アップは限定的だ。さらにアパレルなど新規顧客を開拓できるテナントの導入が店舗活性の第2弾になる可能性も低い。高級で高感度のブランドは出店先を選ぶ。2024年1月〜7月に訪日客が使用したクレジットカードの金額(三井住友カード調べ)は19年同月比で、鹿児島はわずか3.2%増。福岡87.6%増、佐賀88.5%増に遠く及ばない。スーベニア商材の企画やデジタル整備の遅れが考えられる。まして百貨店経営に全く素人の地方銀行が足元のマーケットを読んで、稼げるテナントを誘致できるかは甚だ疑問だ。

 事業再生が計画通りに進まなければ、さらなるリストラや不採算店の閉鎖は避けられない。さらに一歩踏み込んでスポンサーを探して業務提携するとか、店舗を解体し再開発ビルを建設することも再生計画の俎上に上がることが考えられる。少なくとも地元銀行団はガバナンスを一層強化し、財務の透明性を確保しなければならないのだが、持ち株会社の経営陣に山形屋の岩元純吉会長、同岩元修士社長が居座ったのはどうなのか。これでは経営責任をとったことにはならず、創業家による支配の構図が色濃く残ることもあり得る。

 山形屋は2024年6月決算(単独)で、売上高は前期比2・5%増の162億円、営業利益が1億円(前期は2億円の赤字)と4期ぶりに黒字化した。しかし、最終利益は支払利息の増加などの影響で6億円の赤字(前期は7億円の赤字)と、依然として苦しい状況には変わりない。有利子負債が360億円にも膨れ上がるまで、何ら手を打たなかった創業家の旧経営陣の責任は重い。にも関わらず、銀行団からは「山形屋は鹿児島の老舗の百貨店で、地域に無くてはならない存在」という声が上がる。

 360億円もの借金漬けにしておきながら、どの口が言うのかである。さらに新聞広告やテレビスポットなど莫大な広告収入があるからといって、放漫経営を見て見ぬふりをしていた地元メディアは許されるのか。地方の老舗企業と金融機関、そしてメディア。三方が長期にわたって持ち上げ、自己満足に浸っていただけではないのか。どこの地方にも見られるもたれ合いの構図が浮かび上がる。それが山形屋を苦境に追い込んだ元凶であることは否定できない。関係を断ち切ることが再建の第一歩だと思うのだが。果たして。

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