HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

オーダーの錯覚と幻滅。

2018-07-11 05:13:21 | Weblog
 ZOZOTOWNがゾゾスーツで計測した採寸データをもとに顧客仕様のPB「ZOZO」の販売に乗り出した。これまでは主にメーカーやショップのカジュアルアイテムを受託販売し急成長した同社だが、潤沢な資金をオリジナル開発に注ぐのではなく、シャツやジーンズ、スーツといった定番、しかもオーダーのビジネスに注ぎ込むところは、そこらのアパレル業界人とは異なるところだ。

 ただ、ゾゾスーツによる採寸データを生かしたオーダーアイテムが新たな市場を掘り起こすのか。また、スーツに限って言えば、オーダーという価値がそこまで求められるか。まずはこの2点について考えてみたい。

 オーダーはすでに「クルーネックTシャツ」(メンズ・レディス、税込1200円、4色)と「スリムテーパードデニムパンツ」(メンズ・レディス、税込3800円、3色)、「オックスフォードシャツ」(メンズ、税込3900円、2色) 、そして派生デザインの数アイテムが売り出されている。

 こうした定番カジュアルはグローバルSPAの十八番なのだが、量産量販で価格競争が行きついており、目先を変えないと活性化はなし得ない。 顧客仕様のZOZO PBはそうした市場から洩れている層に焦点を当て、さらにマス層さえも引き込む狙いだろうか。

 まあ、若者にとってオーダーとは、「オリジナルに近い」イメージで捉えているふしもある。現にサイトを見ると、クルーネックTシャツは「あなたの体型で作る、あなたサイズのTシャツ」と銘打ち、「この商品はシルエットや素材、フィット感に極限までこだわった、あなた専用のTシャツです」と煽るから、自分仕様と錯覚を起こしてしまう。

 しかし、最後までじっくり読むと、「このアイテムは「パターンオーダー」です」との但し書きがある。「あらかじめ大量のサイズパターンを用意しております。その中から、お客様の体型にもっとも相応しいパターンを選びます」と、スクロールして初めてわかる。つまり、袖丈のみ長めにしたり、襟グリを詰まらせたり、身幅が細いまま着丈をロングにするなどのオリジナル仕様は、どだい無理な話なのである。

 基本的なオーダーシステムは注文者が希望するアイテムの型や色、ゾゾスーツで採寸したサイズデータをネットでZOZOTOWN側に送ると、「近似値サイズの商品」があればストックから、在庫がなければ短期で生産(7日〜14日)して、配送されるものだ。デニムパンツやオックフォードシャツもほぼ同じシステムになる。

 百聞は一見にしかず。まずは知人が購入したしたスリムテーパードデニムパンツ/ワンウォッシュを見せてもらった。ゾゾスーツで計測したとは言え、体型はレギュラーで十分収まる標準型。だから、特別に必要としたわけではなく、ゾゾスーツの性能、計測精度を確かめるために注文したようである。

 業界人としてジーンズを見てきた経験から言うと、商品の印象は「大したことはない」である。序でに言えば、量販店のPB系のデニムパンツとほぼ同等のレベルだ。価格が3800円と安いこともあるが、デニム地そのものも決して良くない。おそらく原価率を圧縮しているのは間違いない。

 ジーンズ専業のメーカーはグローバルSPAに駆逐され、どこも苦戦を強いられている。今どき品質の良し悪しを比べても意味はないと言われればそこまでだ。それにしてもこの商品を見ると、NBのデニムパンツやセレクトショップのヴィンテージジーンズをZOZOTOWNで購入している層がすんなりPBに乗り換えるとは思えない。もちろん、デニムの風合いが醸し出す微妙なディテールに拘る層は、この限りではないだろう。



 サイトで公開されている購入者の感想は、「ZOZOジーンズ&Tシャツぴったりんこ」「昔スポーツしてたので太ももだけ太くてなかなか合うパンツがなく30年間悩んでたんですが、ZOZOのデニムは片足入れた時から、『気持ちいい…』」「ゾゾデニムとゾゾTシャツ届いたんだけど、なんだこれぴったりだ……。今まで履いてたジーンズのサイズが間違ってたのがすごくよくわかる」と、概ね好印象のものばかりである。

 しかし、これを額面通りに受け取ることはできない。サイトの正式なレビューではないし、ネガティブな意見があればそれも公開しないと、商品に対する評価の客観性、公平性を欠いてしまう。因にオーダーした知人の意見は、「デニムは穿き込んで身体のラインに慣らし、色落ちを楽しむもの。量販系の織り地だから、縦落ちもしないだろう」だった。

 デニムはライトオンのような全国チェーンからグローバルSPA、リーバイスやエドウィンといった専業メーカー、セレクトショップのヴィンテージやダブルネームまで、 各型各色、サイズ、ブランドが豊富に展開されている。それでも、顧客がパターンオーダーに飛びつくのは、既製のサイズ展開では太腿やウエスト、股上などでサイズが合わないと人々がまだまだいるということだ。

 では、既製ジーンズ&デニムパンツの市場で、レギュラーサイズに満足していない層がどれほどいるのか。ZOZOTOWNは、まずそのデータを掴むのが狙いのようである。現時点でZOZO PBは色、型のバリエーションは少ないから、リピーターについては懐疑的だが、じっくりデータ収集を行いながら、種別展開についても、考えていくのではないか。裏を返せば、それがうまく軌道に乗らなければ、PBはスタートトゥデイの次なる成長の柱にはなり得ないと言うこともできる。

 現状、ZOZOTOWNのショップ受託事業(他社ブランドの販売)で、Tシャツやデニムパンツがどれほどの売上げ比率があるのかはわからない。でも、仮にNBなどを購入している層までがPBに吸い寄せられれば、受託事業の売上げは目減りすることになるわけだ。

 PBの荒利益はどれほどなのか。商品価格が1200円〜4900円だから、50%としても600円〜2450円程度。一方、ショップ受託事業の平均歩率が30%として12000円のブランドを販売すれば、3600円になる。単純計算すれば、荒利益が大きいブランドを販売して歩率を稼いだ方が効率はいいはずだ。そう考えると、PBのカジュアルアイテムを軌道に乗せるのは容易ではないとも言えそうである。


仮縫い無しでは幻滅のリスク

 PBで高い荒利益を確保するには、商品単価を上げなくてはならない。それが「ビジネススーツ」(価格3万9900円)ということだろう。こちらはスーパー110'sのウール素材で、柄とカラーは無地3色、ヘリンボーン4色がある。秋にはストライプ3色が追加される予定という。

 ジャケットは肩幅・胸囲・左右の袖丈・袖口・着丈・胴回り、パンツはウエスト(アジャスター付きもある)・ヒップ・レングス・裾幅を0.5cm~1cm単位で、細かくカスタムすることができる。サイズ調整が可能なので、少しゆったりめや少しタイトめになど、自分仕様の1着を作ることが可能という触れ込みだ。

 ZOZOTOWNは「カスタムオーダー」と謳っているが、それは何千種類にも及ぶ既製パターンにそって仕上げるもの。別に「仮縫い」があるわけでもないから、パターンオーダーの域は超えない。つまり、修正無しの一発勝負にならざるを得ないのだ。

 これも注文者が希望の色柄と、採寸データなどをネットでZOZOTOWN側に送ると、最も近いサイズのジャケットやパンツが選ばれ、袖や裾の丈上げを調整して、スーチングし届けられる。色・柄を絞り込んでいるし、お試しキャンペーンで価格を21900円に設定した点などを考えると、ある程度は初期在庫を持っているはずである。

 もちろん、欠品や既存顧客のNBからの乗り換えもあるだろうから、その後は短納期生産で対応していくと思われる。前澤友作社長自らメディア向けに大々的に行ったプレスプレビュー効果も考えると、ZOZOTOWNの顧客で黒のスーツでは紋切り型と感じる就活の大学生、就職1〜2年目のスーツリピーターを中心に少しずつ動いていくのではないかというのが筆者の見方である。

 業界諸兄の中には「市場には2万~4万円程度のパターンオーダーはあふれかえっており、取り立ててZOZOが割安ということもない」など、ZOZOTOWNのPBスーツ対する懐疑的な意見もある。ゾゾスーツを利用した自動採寸があるにせよ、お客にはオーダーなら行きつけの店で安心して発注したいという心理が働く。だから、今までスーツ専門店や百貨店で購入していた層が大量にZOZOTOWNに流れることも考えにくい。筆者も現状のバリエーションでは、いくら「お好みにぴったりのスーツを究極のサイジング」を謳ったところで競争力になるとは思えない。

 まして国内のスーツ市場は、団塊世代の大量退職を通りすぎ、非正規雇用の拡大、ITビジネスの浸透、ビジカジなどの影響で縮小気味だ。しかも、現役のビジネスマンを中心にしたビジネススーツの主要客は、動きやすく、ケアが簡単な機能重視の「アクティブスーツ」に流れ始めている。このスーツはテーラー仕立てではなく、ニット系の素材で製造されるため、ストレッチ性があってジャージのように快適に着こなせる。

 かく言う筆者もスーツではないが、ニット素材のジャケットは、かなり前から愛用している。国産のwjkとフランスのLoft Design byを持っているが、どちらともストレッチの効いたコットン素材。生地は肉厚だが、肌にフィットするので着心地は抜群だ。おまけに吸水性が高く、吸った汗も洗濯できれいに落とせる。wjkはサイズ違いで2着、ldbは1着、春と秋にローテーションを組むと、そればかり着てしまう。だが、購入から十数年を経過しても、目立った劣化は見られない。

 お客はスーツをネット購入した時、吊るし、いわゆる既製品なら納得もいくだろう。だが、オーダーやカスタムメイドを謳ってもパターンオーダーなら、仕立ては修正無しの一発勝負になる。いくら自動計測、工業パターンの精度がアップしても、微妙な着心地は個々の肌感覚で異なる。仮縫い無しでは限界があるのだ。

 結局、でき上がって着て見ると、オーダーって言うけど「えっ、こんなものか」と幻滅の度合いが大きいこともあるだろう。だから、こちらもレギュラーサイズが合わず、かといってフルオーダーするまでもないという層が主に購入すると思われるが、他社が先行していることを考えると、マーケットの掘り起こしは容易ではないだろう。主たる狙いがビッグデータの収集だとは言っても、縮小する布帛スーツ市場でどこまでデータが生かせるかという点でも、首を傾げざるを得ない。

 筆者は大学4年の会社訪問以来、ほとんどビジネススーツを着たことがない。仕事柄、ジャケットを脱ぎ、ラフな恰好でクライアントに接することができるから、特別なのかもしれないが、楽な着こなしを覚えてしまうと、もう仕事でスーツを着ようという気にはなれない。ビジネスマンとて、一度でも楽なアクティブスーツに味を占めれば、布帛のビジネススーツには後戻りはできないのではないか。

 そう考えると、ZOZOTOWNが自動採寸の短納期オーダーを売りにしたところで、縮小していく布帛スーツ市場を活性化できるとは思えない。ECを利用して越境し、アジア市場の攻略を狙うにしても、ビジネススーツが求められるのは経済発展する中国はじめ、東南アジア諸国である。しかし、緯度が南下すれば、平均気温は日本より高く湿度もある。そこでウールのビジネススーツにどこまでニーズがあるだろうか。それこそ、洗濯がきくアクティブスーツの方が重宝されるのではないか。

 日本市場は10年、20年とゆっくり変化していったが、アジアも同じとは限らない。中国の自動車市場はガソリン車からハイブリッドを通り越して、電気自動車に向かっている。ビジネススーツも経済成長が著しい諸国では布帛の浸透を待つまでもなく、いきなりアクティブスーツが求められる可能性は十分にあり得る。そして、ビジネスに成功し裕福になった時、ブランドやフルオーダーのスーツを着てみたいとなるわけだ。しかし、そうした層は決してマスではない。

 ビッグデータの活用と言えば、聞こえはいい。既製服が売れない中で「あなたの体型で作る、あなたサイズ◯◯」を謳えば、お客のマインドはくすぐれる。しかし、データは薬にもなるが、売れない在庫以上にゴミにもなる。まして、オーダーに対する過信は錯覚を生み、でき上がった商品への幻滅を感じさせるリスクも孕むのである。
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