HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

勝者となる一手。

2022-04-20 01:59:49 | Weblog
 先日、東京の雑誌編集長と次の企画で打ち合わせをした。編集長は話の流れで、「今年開発される大型ショッピングセンターは福岡の2つくらいでしょうか」「もう物販では集客は厳しいので、体験型テナントを持ってくるようになってますね」と、語っていた。

 確かに郊外SCの開発は一息ついたようだ。でも、首都圏では都心部の再開発が目白押しだし、閉店した百貨店や都市型SCの跡地利用もある。どちらも商業施設が主体というより、オフィスやホテル、公共施設にサービス、物販や飲食が付随する感覚だろうか。これ以上、商業に広大な展開スペースを割いたところで、売れるかどうかは不確かだからだ。

 日本ショッピングセンター協会によると、2021年末の総SC数(ファッションビルも含む)は3182施設。新規開業24、閉鎖37で、減少に転じた。同年のテナントの売上げ構成費は衣料品11.8%、食品物販15.2%、飲食20.0%。衣料品が対前年比で5.3ポイント減少したのに対し、食関連は食品物販が飲食の減少をカバーして1.2ポイント増を果たしている。お客に求められるテナントも変わり始めたということだ。

 先日、JR九州が一昨年、昨年に開業した駅ビルの「アミュプラザみやざき」「アミュプラザくまもと」の決算を発表した。みやざきはの21年全館売上高は、計画を16%下回る64億円。くまもとは同年度(21年4月~22年3月)の売上高は、193億円だった。

 両施設とも新型コロナウイルス感染拡大が来場客数に影響したというが、「JR博多シティ」の同年度の売上高は3年ぶりに増加し、前年度比20%増の873億円になっている。コロナ前の19年度に比べるとまだ7割の水準だが、こちらは確実に回復している。売上げ不振の要因がコロナ禍ばかりとは言い切れず、テナントの顔ぶれやMD、売る力にもあると言わざるを得ない。

 ECで何でも買える時代に実店舗の魅力とは、他店では提供できないような商品やサービスで、お客がわざわざ行きたくなる理由が必要だ。SCや駅ビルの苦戦はそうしたテナントを揃えきれていないこともあるのではないか。都市型SCの中には立地を生かして、新たな展開を始めたところがある。



 「心斎橋パルコ」は2021年11月、10階に医療ウェルネスモール「Welpa/ウェルパ」をオープンした。パルコはアパレルや飲食だけでは厳しくなったため、医療モールの開発・運営事業に参入したわけだ。メーンターゲットとする20~40代女性に向け健康診断のほか、日々の健康管理を抵抗なくできるようにし、心身とも良好な状態になれる空間を提供する。

 現在、再開発工事が進む熊本パルコでも「クリニックモール」の呼称で、テナントを募集中だ。物販や飲食といった商業から、健康やリラクゼーションといったウェルネスへ。パルコのテナント像も大きく変わっていく予感がする。

 大手百貨店もテナントを集めた不動産事業が収益構造の柱になりつつある。Jフロントリテイリングは2021年度前期に不動産関連事業で67億円の営業利益を上げている。高島屋も不動産開発で72億円の営業利益を上げ、百貨店事業の営業赤字を補填した。

 Jフロントを含む3社の2021年度決算の純利益は、18年度を7割も下回っている。背景には百貨店を支えてきた中間層の客足が戻りきれていないことがある。対照的に小売業界全体では1割増になるなど復調傾向にある。こちらはECが伸びたからで、デジタルシフトが遅れる百貨店は不動産事業をどこまで増やせるかになる。

 ただ、器があっても店子が集まらなければ、大家は成り立たない。渋谷西武や大丸東京店、高島屋が「売らない店」を導入したものの、それらが不動産事業のメーンにならないのは経営陣もご承知のはず。やはり稼ぎ頭のテナントを誘致するのが肝心なのだ。

 その点、「開業医」なら金融機関から融資を受けやすく、保証金などが確実に担保される。また、ビルインへの新規・移転開業で初期投資をかける以上、短期間で退去することなく家賃収入が安定する。小児科や歯科、眼科が同じフロアにあれば、患者側も「ワンストップメディカーブル」が可能なので、来店動機が増すことも考えられる。

 大手百貨店は好立地にあり、客層も中高年が主体になる。こちらもクリニックを集めたフロアを展開することは十分にあるかもしれない。


不動産事業に徹する上でバランスをどう取るか

 一方、老舗百貨店では富裕層(世帯あたりの純金融資産が1億円以上、5億円以下。日本では300万人以上いると)の顧客に向け、「お帳場客」化する動きもある。高島屋はソニー銀行と提携して国内唯一のプラチナデビットカードを発行。カード会員にはポイントを還元しラウンジを提供する。大丸東京店も自社クレジットカードで年間100万円の買い物をした顧客、三井住友プラチナカードの会員に専用のラウンジを提供している。



 両社とも顧客をよりVIP化することで囲い込む狙いと見える。だが、お帳場客を稼ぎのメーンとするか、あくまで保険なのか。売上げ全体の何割程度にするか。外商と連動させていくのか等など、詳細な戦略は見えていない。そもそもポイント還元は値引きの意味合いもある。富裕層の顧客がそれで本当に満足できるのか。また、ラウンジで茶菓子を提供されたからと、顧客満足度が上がり、更なる購買を促せるかは、全く未知数だ。

 富裕層と言えども、消費は景気に左右されるし、高齢化していくので新陳代謝を図りながら顧客数を維持していけるかも課題だ。また、新世代の富裕層を引き止めるのにポイント還元やラウンジ提供くらいでは心許ない。不動産事業もお帳場客や外商の強化も、いかにカネを落としてもらえる商品・サービスを揃えられかが前提になる。

 今後の経営戦略では、各事業の割合をどの程度にするかの課題だ。不動産を6割程度まで伸ばしながら、外商2割、小売り2割が理想的か。もちろん、純然たる店売りがこれ以上伸びる状況にないことを考えれば、EC(越境含む)を拡大するか、不動産をさらに伸ばすか。各店の性格にもよるし、経営者の判断によるバランス経営が肝になる。

 固定化が難しく、一般客の広域集客がカギとなる郊外SC。鉄道系カードと連動したポイント還元などで顧客を囲い込みたい駅ビル。それぞれ次の一手は何なのだろうか。郊外SCでは広いスペースを生かしたアミューズメントやスポーツ、ビューティやリラクぜーション、教育、SDGs啓蒙などの体験・時間消費型にも注力していかざるを得ないと感じる。それらでいかにファミリーやカップルに楽しんでもらえるかだ。



 百貨店がD2Cブランドを展開しているのだから、SCでもファミリー向けを狙うブランドに期間限定で出店ブースを用意する手はある。また、集客イベントはカギになるだろう。催事コーナーを提供して、受注会というかたちで仕掛けていくのも面白い。夏休みなどは子どもたち向けにSDGs関連のワークショップなんかもありかと思う。

 地方の駅ビル、地方でも都市型SCは前途多難だろう。人口が減少し赤字路線を抱える地域では、乗降客のさらなる減少が駅ビルの売上げに直結する。さらに交通手段が限られる地方ほどクルマ社会で、日常の買い物なら近場のロードサイド店や郊外SC(駐車場無料)の方がアクセスしやすい。だから、駅ビルや都市型SCにわざわざ出かける動機は乏しいのだ。

 逆に若年層にはECが定着する中、アパレル側はOMO(オンラインとオフラインの融合)を進めネットで注文した商品を店で受け取ったり、取り寄せて試着できるサービスを強化している。実店舗に置ける在庫数は限られるのだから、ショールーム化は顕著になっている。駅ビルや都市型のSCのテナントがECで決済した商品の「受け取り拠点」になれば、売上げ減少はさらに進む。

 カードのポイント還元はその原資をテナント側も負担するなら、ネットでいいからプロパーで購入してもらった方がいいわけだ。プレミアチケットにしても完売したからと、購入金額の何倍もの売上げをもたらしてくれるとは言い難い。イベントはゴールデンウィークやクリスマスなど、企画の内容次第になる。ただ、どこまでテナントへの販促、売上げ増に貢献できるかは別問題だ。

 3月の半ばだったか。駅ビルのJR熊本シティが独自採用の第一期生(2023年4月入社)を募集するとの情報がリリースされた。現在のスタッフはJR九州からの出向のため、現地採用のプロパー社員で駅ビル運営の人材を育成する狙いと見える。採用は大卒・大学院卒見込みが対象で、彼らの7割が県外に就職する熊本県では、TSMCの進出と共に久々の朗報だろう。

 採用人数は若干名ということだが、地元の女子学生を中心に応募者が殺到しているのではないか。ただ、仕事内容はテナント管理やプロモーションだから、若い力や柔軟な発想でいかにビル自体を盛り上げられるか。販促企画を実施するにも、代理店に丸投げせず業者直発注でコストダウンと内容充実を図れるか。

 もちろん、テナントの満足度を上げることも必須。商業施設を取り巻く環境が厳しい中で、答えを出すのは容易ではない。そのためにはアパレルや飲食はじめ、各テナントが置かれた現状やマーケットの状況も、しっかり勉強しておかなければならない。果たして、次の一手で反転攻勢に転じ、勝者となれるのはどこだろうか。

 
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