映画と渓流釣り

物忘れしないための処方箋

自分らしく生きる難しさ「そばかす」

2022-12-23 19:11:00 | 新作映画
年頭のNHK冬ドラマで同じような題材を扱ってた
LGBTQとも違う、もっと生物の根源に関わるような心の複雑さ

異性であれ同性であれ、恋しいという気持ちを持てない人がいるらしい
友達とか家族とかへ向けられる愛情(好きだという感情)はあるのだけど、所謂ギュっと抱きしめたくなるようなパッションは起こらないらしい。らしいとしか書けない。皆目その気持ちを理解できないから

母親に仕組まれてお見合いした相手が行きつけのラーメン屋の店員で、気心も合うし普通ならそのままハッピーエンドへ真っしぐらな雰囲気なのに、友達以上の情愛を持てないがため相手の自尊心まで踏みにじる別れ方をしなければならない。どんなに自分の感情を説明しても通じることはない。恋愛感情を持てないだけで、好きな気持ちに嘘はないのに

元AV女優の同級生と意気投合し、同居するための家を探し始めるけど、結局彼女も結婚という普通の落とし所に流れていく。だからと言って孤独なんだろうか?
恋愛感情が持てなく本能的な生殖活動にも興味がないけど、保母の仕事はしっかりこなすし気を病んだ父親へはいつも温かな眼差しで接することのできる心優しい人だ

家族との夕食の席で伝えることの出来なかった自分のことを訴えるシーンには胸が熱くなり、思わず頑張れと呟いてしまう

いつもカッコいいトム・クルーズが全力で逃げ惑うから宇宙戦争が好き
そう言ってた彼女は
ラスト、世の中のしがらみやレッテルから逃げるように、全力で走りだす


三浦透子のキャラにあった佳作


海のアバター

2022-12-18 18:05:00 | 新作映画

まず最初に感じたのは、この映画もベトナム戦争の後遺症がなければ生まれなかったんだと強く感じるシーンがいくつもあること。ある年代のアメリカ人にとっては80歳以上の日本人が太平洋戦争に抱くジレンマと同じ感覚を持っているのかもしれない

そして多分、キャメロン監督自体は空より海の方が親和性に富んでいるんだろう
今日、十数年ぶりに出会ったナビィの一族の物語を観てそう思った
デビュー作フライングキラーもアビスも駄作だったけど海の話だったし、大ヒット作タイタニックは舞台そのものが海の上だった。知らなかったけど、ドキュメンタリーとかも海中物を作っているみたいだし、プライベートでもかなり入れ込んでいるらしい。日本人にはちょっと不快な鯨捕りのエピソード(銛に日捕って書いてあった)にもかなり拘っていた
話逸れるけど、あんた達(欧米人)の祖先だって散々クジラ獲って殺してたんだよ!と言いたいけど、日本もさ、捕鯨で生活成り立たせていた人が沢山いた頃はしょーがないとしても、今そんな人いる?鯨の竜田揚げ食べないとご飯が進まない日本人いますか?って事。もう調査捕鯨も辞める頃合いだよね。スタジアムの掃除以上に世界的に称賛されるよきっと(誉めるの拘っている欧米人だけだろうけどさ)

192分の上映時間に先ずは驚いた
興行だけで考えたら無謀。90分の作品なら同じ時間で2倍の売上になるもの
今時娯楽作品で三時間越えの映画ってそうは無いでしょ。観る方も前日から体調整えて、水分も控えめにしないとさ
退屈な作品なら拷問に近いお仕置きだろうけど、そこは手練手管のキャメロン監督
宣伝されている通り、臨場感ある映像体験で飽きさせないまま突っ走った
海中も深海ではなくて浅海だから明るく煌びやかな映像が主体で、なんだか水族館の大展示場を覗き込んでいるみたい。生き物たちもユニークでありながら可愛げがあり、プレシオサウルスの子供みたいな相棒には乗ってみたいと思ったよ
アクションシーンも遊園地感盛りだくさんで、分かっちゃいるけど首筋が突っぱねる程に興奮させてくれる
これでシニア料金(イオンシネマだと1,100円)ならどんな娯楽より格安で非日常体験ができちゃう。ありがと

前述したように、映像体験としては超弩級の大傑作であることに異をとなえる輩はいないだろう。もっと凄いもの作れる才能を持った天才が現れるまで、この映像は頂にある教科書としてあり続けるだろう
が、映画として頂に君臨できるかと言えば否定的な意見を述べざるを得ない
シリーズだから復習してから観に来いよと言うのも尤もかもしれないが、十数年ぶりに続編と言われても覚えてないし。序盤、敵の設定に全くついて行けなかった。ここはもう少し前日譚を丁寧に語って欲しかったな
家族の物語なのに、肝心の敵(大佐)と記憶の中で息子としてパンドラで成長した男の子の関連性がまるで思い出せずフラストレーションだった
長尺を海中シーンに費やしたかった監督の気持ちは察するけど、映画として観たいのは人と人の繋がりから生まれる感情なんだ

技術の進んだ3Dは以前のようなこけおどし的な絵作りは無くなって、よりリアルになった。ただし、前作の空が舞台の時に感じた高低差を見せてくれた驚きのようなものが水中では作り出せていない。だから、出来るだけ大画面でそれも可能な限り前列で観るべきだと思うけれど、そんなに3Dにこだわる必要ないんじゃないかとも思った

あと3話それも二年おきに作成するらしいから、くたばるまでに見届けられるかな?
大学生の頃、平塚の映画館でホラー作品と併映されてた処女作からの付き合いだから、キャメロン監督作品は全部大画面の映画館で観ますね



コトー先生が教えてくれたこと

2022-12-16 18:14:00 | 新作映画
金曜日の初日9時からの上映なのに結構大きな小屋が七割方埋まった
この傑作テレビドラマシリーズのブランド力を否が応でも感じさせる
皆んなコトー先生に逢いたかったんだな

20年近い歳月の流れは、一応に島民を老齢化させてはいるけれど、一番年老いたなと感じさせたのは主人公のコトー先生だった。一人で島の医療を人々の命を守ってきた苦労と重圧は彼をこれほどまでに疲弊させたのか。島に来た研修医が言う、コトー先生に島の皆んなは甘え過ぎているんじゃないか。確かにその指摘は的を得ている

自らの病気をも庇いながらそんなにまでして尽くす必要が何処にあるんだろう
こんな医者に出逢える人生はきっと僥倖だろうなと思うけど、もっと自分と自分をいちばん愛する大切な人のために生きた方が人間らしいんじゃないかな

物語の中でコトー先生から教えてもらったのはそんな事






そして、映画作品として教えてもらったのは、やっぱりフジテレビは映画を作るべきではないと言うことだ
あの優しさ溢れる物語を安っぽいドラマにしてしまった。これでもかの感動押し付けがどれほどウンザリさせられるのかをなんで理解できないのだろう。視聴者はそんなにバカじゃない。作為的なお涙頂戴を喜んでいる場合じゃないこの世の中で、現実は綺麗事の嘘を陳腐化させているのだから

寅さんが終わり、北の国からも終わってしまった吉岡秀隆にとって、コトー先生はこれからも演じてほしい役だったけど、こんなに酷い映画にするならもう観たくないな

コトー先生はそんな事も教えてくれた



母と娘のホラー「母性」

2022-12-04 18:25:00 | 新作映画
湊かなえの小説は何処かに不穏な空気感が含まれていて、そのニュアンスをうまく映像化できれば原作以上の作品になるだろうけど。この映画は脚本が整理されてなくて、観客をドラマの中に連れて行ってくれなかった

母親と娘の三様を見せているけど、どの話も気持ち悪いだけで衝撃的なおどろおどろしさを醸し出せていない
主人公母娘の藪の中を垣間見せたいのか、三組の母娘のお話を語りたいのか最後までよく分からなかった。小説では広げられる風呂敷を、二時間で観せ切らなければならない映画では同じようには語れない

大地真央と高畑淳子の狂気じみた怖さに食われてしまい、肝心の本筋が弱く感じてしまう

知らなくても良いことを知る「ある男」

2022-11-21 09:08:00 | 新作映画
所帯を持って、子供まで成した夫が事故で死んだ
でも、その夫が語っていた名前や生い立ちは全然違う人のものだった

いったい誰とこの生活を育んできたのだろう
妻は以前世話になった弁護士に、亡くなった夫の本当の姿を調べてもらう

まあ、この筋書きで最後まで貫いてもそれなりに面白いドラマになりそうだけど、テレビの2時間サスペンスで終わっちゃうような気もする。優れた原作をしっかりと映像に作り変えればこんなにも奥深い作品になるんだ。上手い役者達が要所を抑えた演技で彩り、見応えのある映画に仕上がった

亡くなった夫は、伊香保温泉の老舗旅館で生まれ育ったと言っていた。でも本当は、殺人で死刑になった父親の息子で、自分を痛めつけるためにボクサーをやっていたことがわかる。自分の履歴を塗り替えたくて、2度も他人の人生を上書きしてすり替えてた

妻はそれでも、一緒に生きていたことは本当のことだったと、死んだ夫を悼むのだ

名前という記号
過去という履歴

わたくしたちはそんなものをただ漠然と信じて生きている。時として、知らなくて良いことも知りながら
隣に住む人の真実なんて気にしていないのと同じくらいの無関心さで、今生活を共にしている連れ合いのことを見ているのかもしれない。そうだとして、ある日Aだと思っていたものがBであっても、そこにあった感情や思い出が書き換わることはない。そんな事をこの映画は描いてた

人権派の優秀な弁護士が、バーのカウンターで隣に座った人に言う
僕は伊香保温泉の旅館の息子なんですよ。家族と折り合いが悪くて飛び出しちゃいましたけど・・・
弁護士は在日三世である事を、そうやってすり替えた


ある男はわたくしの隣にいる貴方かもしれないし、わたくしかもしれない


安藤サクラは久し振りに観たけど、良い女優になって一層進化している
窪田正孝のストイックさとナイーブな優しさがこの映画を愛おしくさせている
柄本明は「うなぎ」で魅せた不気味さを遺憾なく発揮していた
清野菜名も美味しい役どころ

仲野太賀と河合優実はもうちょっと使って欲しかったかな。上手い若手役者なので
妻夫木聡はもうひと越えしていたらと残念な感想が先立つ。ダークな裏面を持った主人公の方が魅力的だから

石川監督「蜜蜂と遠雷」よりも感情が溢れていて、断然こっちの方が好きだ
向井脚本、安定の仕事でこれからも楽しみ