8月はコロナのため観ようと思っていた映画が全く観られなかった。その中でも今一番注目している映画監督作品がシネコンで上映されると聞いていたから楽しみにしていたのに、予想された通りあっという間に終映になって諦めていたところ、会社の映画好きな同僚から横浜美術館近くのキノシネマで未だ上映中だと教えられる。
3時間の長尺かぁ〜。コロナ明けの体たらく体力勝負だから前日から体調整えて臨まねばと思っていたのだが、よくよく考えてみれば監督デビュー作は5時間越える途轍もない作品だったことに思い至る。アレが最後まで厭きずに鑑賞できたのだからなんてことはない。筈
濱口竜介監督。三作目にして最早日本を代表する世界的な監督になってしまった。
「寝ても覚めても」の興奮は今でも鮮明だから、村上春樹の原作をどんな風に映像化したのか興味もある。原作は読んでないけど、小品の短編らしい。とても3時間になるような器じゃないと言う人もいる。
さて、物語は
心のよりどころでありパートナーとしても信頼していた妻の知られざる闇を垣間見た直後、彼女は謎を残したまま病死してしまう。寝物語に話していた空き巣に入る少女の物語と、カセットテープに吹き込まれた演劇台本の台詞だけが残されたすべてだ。舞台俳優であり演出家の夫は、捉えどころのない寂寥感と妻の闇に正面から対峙できなかった己の弱さに苛まれている。
彼を救い出したのは臨時の運転手として雇った23歳の女性。彼女も亡くなった母親との関係を整理できないまま自分を許せないで生きている。生き方も考え方も交わることのなかった二人は、お互いの過去を過ちではないと諭しあい前を向くことを選ぶ。
日本映画もここまで成熟したのかと、小さくため息をつきたくなるような静かな感動。
「ハッピーアワー」でも描かれた執拗な演劇ワークショップの場面が少しづつ形になり本番の舞台につながるところなど、モノづくりには共通した感慨があるのだろうと思わせる。素人っぽさを活かした配役なども今までの作品の延長だと受け止めやすい。
濱口監督は女性の不可思議な生態に素直な驚きと脅威を感じているのだと思った。以前書いたことがあるが「ハッピーアワー」の中で一夜の不貞を夫に打ち明ける妻の太々しさとか、「寝ても覚めても」で元カレの誘いにホイホイ付いて行った彼女がしれッと帰ってくる様は、病死した妻の闇と同一だ。監督はこの謎に答えを求めていない。
師匠の黒沢清との類似点も際立った。おどろおどろしくはないけど常に不穏な空気感は知らずとも似てしまうものなんだな。わたくしはアントニオーニ監督の「情事」「夜」と言った不安定さを感じてしまった。次回作は短編の連なる大作だとか。矢張りイタリア映画界の異才パゾリーニが作ったオムニバス作品のようなものを期待する。
久し振りに映画館に行ってみると、当たり前だけど多くのお客さんがいて、3時間ものマイナー作品なのに待合席の隣に座った若いカップルが微笑ましかった。未だ大学生だと思うけど、付き合い始めなのかその寸前なのかよくわからないけど初々しい。
一番好きな映画って何?(男の子)
「タイタニック」は何度も観ちゃった(女の子)
ボクは「スタンドバイミーかな」(男の子)
何か分かるぅ〜(女の子)
もっともっと仲良しになれるといいな
誰にも、そんな頃あったよね