映画と渓流釣り

物忘れしないための処方箋

2023年のテレビドラマ考察

2023-12-31 15:54:00 | 旧作映画、TVドラマ

2023年は18本の連続ドラマを観た
昨年のような超弩級の傑作は無かったし、数も少なくてちょっと寂しい一年だった
テレビのドラマ枠は確実に増えているし、配信系のメディアもオリジナル作品を量産している。韓国ドラマは世界市場を念頭に躍進しているし、高齢者しか観ない日本のテレビ界で生き残るには安定的な良質原作と客を呼べる役者の起用しかないのだろうか?
その辺に穴を開けられる革新的な匂いがする作品を選んだ


1番はバカリズムの脚本が秀逸だった「ブラッシュアップライフ」
何度も転生して周囲の人々とのつながりを微妙に変えて行く展開は、タイムマシンの過去未来と同じくらい夢があるのに
欧米人には輪廻転生の死生観がないため東洋人しか受け付けられないかもしれないけど、これから映画の題材にもなりそうでいい着眼点だと思う
安藤サクラ、夏帆、木南晴夏の演技派女優の絡みは成人式帰りの独特の頭であろうが説得力があって、何度目の人生であってもまた巡り会いたい友人関係なんだと思わせてくれる

小野花梨が強い印象を意識付けた「初恋、ざらり」の恋愛の形は、今流行りの人生の多様性を考えさせてくれた
最近の傾向として障がい者を積極的にドラマの主人公にするようになったけど、流石に知的障がいをあつかうことはなかったのでテレ東らしいチャレンジングな企画だと思う。恋愛中心の壁の高さをみせるだけじゃなくて、社会(仕事やコミュニティ等)との疎外感なんかも痛みを伴って感じさせてくれたなら凄い傑作になったかもしれない

岡田恵和の脚本が優しい「日曜の夜ぐらいは」で描かれた女性3人と周囲の人々を、応援したいと思いながら毎回楽しんで観ていた。山田太一の傑作「想い出づくり。」と似たコンセプトだけど、時代背景のせいで女性の結婚を前提としたような話ではなくて、自分らしく生きる為にはどうすればいいのかというような深みのある物語だった
清野菜名や岸井ゆきのが上手なのは知っていたけど、生見愛瑠が埋もれない存在感を出せていたのには驚いた

原作漫画「君に届け」があまりにも名作すぎるので全くこのドラマは脚光をあびることはなかったけれど、原作の素晴らしさは差し引いても青春ドラマとしてとても良くできていたと思う
結局毎話ただただ泣いてしまっているのは情けないけれど、人を好きになることに真っ直ぐいられることは人生の中でも一時的な特別な時間だし、あの頃を思い出しひたすら応援したい
千鶴役の中村里帆がオタクドラマに引き続き目を引いたことも忘れないように

前作には及ばなかったけど、作家としての可能性を感じることができたのがこのドラマの価値だろう。「いちばんすきな花」に詰め込まれたお話は頭デッカチで先走りの目立つものが多かったけど、周到に用意された人と人の関係性は今年量産されたその他のドラマにはない丁寧さを感じる
確かに面白いドラマは勢いみたいなものが必要ではあるけど、大前提として真摯な丁寧さがなければならない
生方美久には次回作をまた期待しよう


プロデュースと演出は「初恋、ざらり」の祖父江里奈Pと池田千尋D
脚本は「ブラッシュアップライフ」バカリズム
主演女優「初恋、ざらり」小野花梨
主演男優「らんまん」神木隆之介
助演女優「ブラッシュアップライフ」木南晴夏
助演男優「いちばんすきな花」松下洸平









アニメ 2023下半期

2023-12-31 07:33:00 | 旧作映画、TVドラマ

上半期もメモしたから7月から12月までにプライムビデオで観ることのできるアニメの中で、面白かったものをピックアップした。結構乱雑に観ていたのだけどもう一度観たいと思うのは三作品しかなかった。夏までの半年はもっと多かったから、その意味では不作だったのだろうか



好きな子がメガネを忘れた

引っ込み思案な男の子が隣の席に座るチョット天然な美少女に恋心を抱くお話
目の悪い人からすると、あんなにもメガネを忘れることはないと思うので、多少無理感あるけれどそこは漫画
中学生になっても教科書忘れたら席をくっつけてお勉強するんだったっけ?
遠いノスタルジーの感情とあいまって、二人の淡い恋心を応援してしまった
「高木さん」系に属するのかな。このコンテンツは不滅です




葬送のフリーレン

同じ人間でありながら、種族が違うと寿命がかなり違ってくるらしい
少女にしか見えない魔法使いのフリーレンが二つのパーティーで経験する冒険の旅が描かれる。最初の冒険で旅を共にした勇者と僧侶は寿命を全うし鬼畜に入っている。長寿の種族であるフリーレンは人が死んで行くこと、その重みを知るために新たなパーティーの仲間と人を知るための旅に向かうのだ
葬送のフリーレンという二つ名の意味するところが哲学的で、日本の漫画・アニメの奥深さを感じる



薬屋のひとりごと


こちらも原作がしっかりしているのだろう。後宮内で起こる不自然死を薬の知識を活用して解決して行く話が、一流のミステリとしても十分通用するように描かれていて興味深い
中国の宮廷は詳しいわけではないのでいい加減な感想は言えないけど、下手に日本の話にしちゃうと小難しい歴史的な齟齬が気になっちゃうので、他国の昔話にしたのは正解なんだと思う
それにしてもこの作品も上記作品もオープニングエンディング双方の歌曲の質が高い。テレビドラマに使われるより日本だけではなく海外の若者にアピールする力が大きいのだろう






2023秋ドラマ終了

2023-12-30 14:00:00 | 旧作映画、TVドラマ

秋から始まったドラマが終わったので記録を残す
当初の期待ほどではなかったけど、それなりに楽しめた三ヶ月だった

「下剋上野球」
いくつもの傑作ドラマを生んできたスタッフの作品としては、作りが甘く全体的に散漫な印象のまま終わった
日本人が大好きな高校野球が題材で、弱小チームが甲子園の切符を掴むまでのお話だから、そこそこに作っても野球ファンなら喜んでくれると思ったのだけど
TBS日曜ドラマ枠っぽい、男達の熱い闘いのお話にしたくなかったんだろうな。わたくしもアノ乗りが苦手で避けているから、ある意味で利害は共通していたのだけど、それにしても全て中途半端に描かれすぎた。鈴木亮平と黒木華の教師(指導者)目線だけで高校野球を見せてくれた方が面白いテーマが描けたと思うし、高校スポーツの偏りとかお金の問題とかに踏み込んだ方が新鮮だったろう
それが無理ならチープな手だが生徒(選手)と先生(監督)の信頼と成長、そして成功までの道のりを感動的にこれでもかと叩きつけるように作れば良かったんじゃないかな。ウンザリだけど

「時をかけるな恋人たち」
深夜枠30分の緩さがこのドラマの持ち味だった。真面目にパラレルワールドとかパラドックスとかを考えちゃうと矛盾だらけの三流SFになってしまうから、時をかける恋人たちの一風変わった恋愛ドラマとして楽しめた
前から書いているけど、優れた俳優の資質はコメディを演じられる事だと思っていて、永山瑛太も吉岡里帆もその要素を遺憾無く発揮できていた。プライム時間帯で主役を張れる二人がこんな小品にも手を抜かず演ってることを、今売り出しの俳優たちは知っておくべきだと思う
前半部分の一話毎に時をかけてきてしまった恋人たちのエピソードは、面白さの度合いにバラツキはあったものの面白かったし感動的なものもあった。後半は主人公二人の逃避行だけになってしまい、一本調子なドラマだったことが悔やまれる。逃避行の最中に今までのエピソードに登場した人々が、うまく嵌まり込む用に絡んでこれたなら諸手を挙げて応援できたのに。そこが残念

「コタツのない家」
序盤はスピード感のない失敗作だと思っていたけど、家族の人間関係が絡み出すあたりから面白くなってきて、古臭いけど新しい家族のホームドラマに仕上がった。コタツが無くともサウナがあることで家族は存在するという結末も、多少無理のある設定ではあるが洒落が効いてて楽しめた
ダメ男3人をまとめて面倒みる女主人を小池栄子がどハマりの好演。ダメ夫の吉岡秀隆は映画三丁目の夕日でやってた茶川とダブルところがあり既視感あるけど、あの憎めない小者さ加減は絶品。小林薫のこういう使い方もあるのかと再発見できたのも大きな収穫。頭デッカチで生意気な息子がいいアクセントでツッコミを入れてくるのも大いに笑えた。この俳優初めてみたけどこれから注目しておこう、作間龍斗
やっぱり家族の話が一番面白い

「いちばんすきな花」
ドラマ好きが今年一番待っていたドラマかも知れない。前作「silent 」が10年に一度規模の傑作ドラマだったから、生方美久脚本に対する期待は大きい
その前提を除いて考えれば充分及第点のつけられるよく出来ていたドラマなんだけれど、やっぱり比べてしまうとなぁ。やりたい事伝えたい思いが沢山あったのがストレートに先走り、脚本家の人間性や思想信条を知るには面白いコンテンツなんだけど、先ずは観客に作品そのものを愛してもらわないと・・・
数年前に坂元裕二が「カルテット」でみせてくれた男と女の歪な関係に近いけど、男女の友情が成立するのかとか二人だけの関係より四人グループの方がうまい関係性が保てるとかの部分に焦点が当てられていた。周りに迎合するだけでは無く、自分の居心地がいい生き方を選択することへの寄り添いが根底にある。そこの所は前作のマイノリティーへの目線、多様性に対する理解というコンセプトと一緒なんだけど、風呂敷を広げ過ぎてしまい共感のポイントが散漫になってしまったかな。演出も少し派手目にキャラを押し付けていたように感じてしまったのも減点部分
演者は主要四人だけじゃなく絡まる全てがいい存在感を出していたけど、家族の描かれ方が薄くて奥行きのない人物像になってしまったことも次回の反省点
色々残念だった点をあげたけど、この次も楽しみな作家であることには1mmも変わりはない

「君に届け」
ズルイのは確かだ
あの名作漫画が原作なんだから、そのまま映像化すれば面白くないわけが無い
そう言われていくつもの名作漫画がアニメや実写になったけど、エンタメはそんな簡単ではなくて、数多の失敗作やゴミが累々としている。そんな覚悟で観なけりゃいけないのと思っていた。実際、アニメは中途半端なところで終わったし、映画は上辺だけの雰囲気をかろうじて描けていたかどうか
はっきり言って今までのどの映像化よりも満足できる作りだった。主人公の爽子はもうちょっと選びようはあった(南沙良がどうこうではなくて)と思うけど、北国の清涼な空気とか高校の三年間しか味わえない狭苦しい青春の苦味みたいなものがうまく描かれていた
不器用な登場人物が少しだけ成長しながら、自分と自分が大切なものを慈しむまでを丁寧に描けていたのが、このドラマの一番いいいところだった
どうなるかはやってみないと分からないけど、NHKの朝ドラでじっくりやってくれたら嬉しいな。それぞれの家族まで深掘りできるだろうから絶対面白くなると思うんだけど






「ブギウギ」
戦時中パートになってから流石に軽快なノリにはならずちょっと小休止的な
戦争を正面に描かないのである意味メリハリの無さは気にかかるけど、朝から悲惨な描写を視聴者も観たくは無いだろうということだろうか?そんなところで忖度はして欲しくは無いな。良いか悪いかを決めるのは視聴者だけど、先回りして無難なお話を観せられるのはウンザリだ
趣里は思った以上に朝ドラヒロインに合っている
小さな身体いっぱいに一生懸命さが伝わってくるので、あと三ヶ月も突っ走ってほしい







それは同級会? 忘年会? クリスマスの願い

2023-12-23 23:03:00 | 歳時記雑感

渋谷の街に行くのは多分20年以上ぶりだろうか

イブイブの土曜日はめっちゃ混んんでいてオジサンオバサンが紛れてはいけない気がする

こんな晩、ハチ公の前は待ち合わせスポットとしては最悪な場所


若者の波をかき分けて、還暦を超えた仲間たちと狭苦しい居酒屋の席で飲み食い語り合う

今年ひっそりと数年前に亡くなった友人の名前がLINEから消えた

その話題でしんみりしたけれど

来年もみんな元気で会えますように


クリスマスのお願いは、渋谷の高層ビルの狭い谷間を抜けて空にのぼる



ヴェンダース 木漏れ陽の日々をエッセイに

2023-12-22 17:49:00 | 新作映画

東京の下町に住む男性を観察しながら、ヴェンダースが東京という街のエッセイを綴った作品


夜明けとともに起きて、公共トイレの清掃を仕事とする彼の毎日は、側から見れば同じ事の繰り返しでしかない平凡さだ

でも、彼にとっての毎日は、大木の下に芽吹いた若芽との出会いがあり、誰とも知れない置手紙の主との文通もある

休日にはコインランドリーで洗濯をして、文庫本を選び小料理屋の女将の手料理と歌を味わいに行く

若い仕事仲間の想い人からキスされたり、家出してきた姪っ子との束の間の生活や、女将の元旦那との影踏み

彼の一日は完璧な物語で日々綴られていく







わたくしの毎日も似たようなことの繰り返しの中で、微妙に今日だけの特別を生きている


東京都心にある木々から漏れる陽の光を慈しむようなこの映画は、ヴェンダースの日本人に対する愛に溢れていた

今年最後になるだろう映画鑑賞がこんなにも優しい作品だったことに感謝



おまけ
全編通じて懐メロ洋楽が流れるんだけど、居酒屋女将(石川さゆり)歌う朝日のあたる家は絶品
今度の紅白で歌ってほしい