渓流釣りの帰り道、かの津久井やまゆり園の前を通り過ぎることがある
今はあの惨劇を思わせるような刺々しい空気は無いけれど、長閑な山間の町で数多の殺戮が行われたことは消せない事実だ。誰もが忘れ始めた今となって映画の題材としてわたくしの目の前にあらわれた
先天的な病気で子供を喪くした四十過ぎの女が、知的障がいの人を収容されている施設で働くところから物語は始まる。牢獄と一緒で、我々はその事実を知らない。映画だから誇張されたエピソードもあるだろうけど、その何倍もの隠された現実が横たわっている様に感じてしまうのはわたくしだけではなかろう
事件のあらましや殺戮を繰り広げた当事者だけに視点をあてた作りになっていないのは原作通りなんだろうけど、個人的な意見としては物足らなさを感じてしまう。辛い過去を持った女性の観点から見えてくる日本の福祉とか介護とかの問題もあろうが、この作品の肝は優生思想に毒された青年の狂気を描くべきだったように思う
確かに実際起こった悲劇だし、あの事件で命を絶たれた方怖い思いをされた方そしてそのご家族にとっては、あの青年の心の闇なんかどうでもいいことだし、むしろ知りたくも無いだろう事は想像できる。それでも映画にして世の人々に観てもらうなら直球でこの問題に向き合って欲しかった
実際、犯人は小学生の頃から障がい者の排除を公言していたらしい
昨日今日で人は出来上がるわけではなく、そもそもの因子と積もり積もる環境が作り上げることを描いて欲しい
主演の宮沢りえがなんだか正義の良い人っぽくて損していたな。脇のオダギリジョー、二階堂ふみ、なんと言っても磯村勇斗 今回も印象的に演じきっていた。早く大きな賞で褒めてあげないと