映画と渓流釣り

物忘れしないための処方箋

木村多江VS中谷美紀

2009-11-23 09:13:21 | 新作映画
 本当に久し振りです。女優の恐ろしいまでの演技を堪能したのは。

 お二人共、誰しも異存なき演技派名女優。ここまでの道のりはそれぞれ違いますし、演技の見せ方や持ち合わせたキャラクターもずいぶん違います。本来なら真逆なパターンを見せたりすると、新境地開拓か!などと騒がれるのでしょうけど、犬童一心そんな姑息な事はいたしません。これでもかと正攻法です。聡明で正義感溢れる美しい婦人を、中谷美紀は当たり前のように演じます。自分の身に添う不幸を恨む事もなく、正直に健気に生きてゆこうとする女を、木村多江は気持ちよさそうに演じます。エキセントリックなシーンを派手な演技で魅せた中谷美紀のほうが目立ちましたが、この作品をそこはかとなく良質に纏め上げたのは、木村多江の薄倖な眼差しでした。断崖に消えゆく前に見せた顔のアップは、ジュリエッタ・マッシーナ演じるカビリアの無垢な信心にも通ずるところがありました。

 原作はミステリでありますが、それを期待したとしたならちょっぴり残念かもしれません。「砂の器」もそうでしたね。犯人が誰であるかより、何故にその犯罪は起きたのか、そして逃げる事の出来ないその時代を松本清張は丹念に描いたのです。TVの二時間サスペンスに毒されてしまった方にはつまらなかったでしょうね。

 難点を申し上げるならば、如何せん広末涼子が弱い。あの二人に挟まれては勝ち目がありませんから、可哀想ではあります。なればこそ、もっと新進の女優を使ってみるとかの方が面白かったように思います。もう一つ、鹿賀丈史の突飛な行動が伏線不足で、観る者に違和感を感じさせました。3人の女優で一杯一杯だったのかもしれませんが、脚本の厚さが足りませんでした。ともあれ「ゼロの焦点」堪能いたしました。 
 

 


なくもんか

2009-11-15 17:44:08 | 新作映画
 舞妓haaa-nの楽しさをもうちょっと普遍的な家族ドラマで描けるのか興味がありました。半ば達成でしょうか。役者の上手さでどうにか2時間を退屈しないで済みましたが、脚本が突飛に沖縄に飛んでしまったりラストの兄弟舞台は鼻白んでしまいました。TV仕様の成せる業ですか?

相変わらず竹内結子は魅力的です。
相変わらず阿部サダヲは爆発的に上手い。
しかしながら、1,000円でなければ観なくても良い作品です。


202分の充実感

2009-11-01 12:11:06 | 新作映画
 昨夜、意を決して「沈まぬ太陽」を観て参りました。若かりし頃は3時間を越える映画を観る事に幸せを感じていましたのに、今となっては2時間20分が限度、出来れば90分位で気持ち良くさせて欲しいと願っています。昔と比べて映画の尺がかなり伸びていますので、あまり短すぎるのも観客からすると損した気持ちになってしまうのかもしれませんが、結論めいた事を申し上げるならば、楽しい(良い)映画は短く感じるものです。今日観てきた森田の「わたし出すわ」は、「沈まぬ太陽」の半分の尺しかありませんが、時間的感覚は倍にも感じました。

 その意味からも、山崎豊子の膨大なる原作をここまで圧縮して、尚且つ恩地という人物が過不足無く描ききれた事は大成功ではなかったかと思うのです。映画の質としては色々申し上げたい事はありますが、今日、このような大作を創りだそうとする映画屋の心意気に打たれました。渡辺謙が初日舞台において男泣きに泣いたと報道がありましたが、単なる宣伝ではなく、さもありなんと思わせるほどの力の入りようでした。日本映画でこのような力の入った作品が観られる事をとても幸せに感じます。ありがとうございました。