映画と渓流釣り

物忘れしないための処方箋

冬ドラマの終わり 豊作ばかりとは言えないけれど

2024-03-31 22:33:00 | 旧作映画、TVドラマ
冬ドラマの感想を書く前に、原作物(小説であれ漫画であれ)の映像化について私見を記そう

問題になっている「セクシー田中さん」については語るつもりはない。原作漫画も読んでないし、ドラマも観ていないからだ。故にこれから書く内容は特定の場合についてではなく、全般的な考えであることを前提にして読んでほしい

映像化を許可した段階で、それはもう違う作品になることを覚悟すべきじゃないかと思う。それが嫌なら許可しなければいいし、どうしても映像化したいなら原作者自ら脚本なり演出をやればいいのだ。どんなに原作を尊重し忠実な再生を目指しても、原作者と寸分違わぬ心情で映像描写などできるわけがなく、できたとしたらそれはただの複製であるわけだから作り出す意味さえない

原作者ひとりの(たまに複数人の場合もありますけど)脳内で構築された世界は、実写映像であるなら風景も含めて多種多様な人と背景によって改ざんされる。それが効果的な面白さになることもあれば、その逆になって残念な結果で終わることも多い。原作物を映像化する以上、最低限のリスペクトは必要であるけど、原作と同じものを作る必要などないとわたくしは思っている

「セクシー田中さん」原作者と小学館・日本テレビの噛み合わせは、原作物の映像化云々の問題ではなくて、ものを作り出す出発点の行き違いによる不幸だと思う。テレビも映画も演劇もこのことで萎縮せず、優れた原作は果敢に映像化してより一層この世界に広めてほしいと願う


前置きが長くなったけど、傑作の生まれた冬ドラマを振り返ろう

「お別れホスピタル」
これこそ原作と映像化の調和がとれた素晴らしい出会いだと思う
民放局で三流の脚本家に任せていたとしたら、10話に引き伸ばされて薄味のお涙頂戴ドラマになりかねない題材。流石NHK制作、原作理解のある安達奈緒子にまとめられた脚本はたった4話しかないのに重量感は10話以上に感じる
終末医療の現場では日々入れ替わりに感動的な出来事が起こるわけじゃなく、悲しみもわずかばかりの楽しみも連続した時間単位の中で繰り広げられる日常であることがわかる。それが現実なんだよなぁ。と気付きながら観ていると、毎週1エピソード毎処理されている医療ドラマが陳腐に思えてくる
中味の濃い人間ドラマをたっぷり味わった気分だ
入院患者や患者の家族に熟練の役者を配置していたから粗末な人間描写にならなかったし、医療スタッフも医師の松山ケンイチや看護師役内田滋の存在は地味だけどいいアクセントになっていた。そして、今の日本女優で一番魅力的かつ安定的な才をみせている岸井ゆきのにとっても代表作となる作品になったと思う

「となりのナースエード」
日本テレビお得意のライトなお仕事系ラブコメだとばかり思っていたのに、終わってみればどっぷりミステリだった。揃えられた役者は川栄李奈筆頭にコメディ上手な面子だったので肩透かしも良いところ。まあミステリが面白ければなんの問題もないのだけれど、呆れるほどつまらなかったのでお話にならない
誰も成長しない身内だけのゴタゴタ話に3ヶ月も付き合ってしまった

「さよならマエストロ」
こちらも連ドラ定番のオーケストラ物。新鮮味はないけど、西島秀俊と芦田愛菜の組み合わせに期待して観続けた
もっと弾けるような感動編になるのかと思えばそうでもなく、家族の再生の物語と言えるほどのエピソードも薄く中途半端さは最後まで解消できなかった
愛菜ちゃんの濃い化粧だけが何となく印象に残ってしまい、こじれた父娘をメインに描きたかったのだろうけど失敗している。オケメンバーのキャラや疎遠になっていた妻と息子もチマチマ登場させるからテーマがブレてしまったのだろう。使い古された舞台設定だとどうしても新機軸な彩りが欲しくなるのは分かるけど、真ん中にもってくる色をボケさせてしまうような配色はうるさいだけで訴ったいかける強さを削いでしまう
當間あみちゃんの燕尾服姿が可愛かったので、プラス1配点

「厨房のアリス」
このドラマも無駄な装飾が多く、一番観たかったものがボヤけてしまっていた。レストラン物はグランドホテル形式の優れた舞台設定がなされているので、登場人物のキャラクターを面白く描ければ絶対ハズレのないドラマになるのに
自閉症の主人公アリスが作る料理で来店した人々を幸せにするド直球のお話でいいじゃないかと思うのだけど。アリス演じる門脇麦の力量は十分だし相方の前田敦子のヤンキー素地もいい組み合わせだと思う。変に色恋を持ち込まないで、渋くて上手い年配役者を脇に添えれば魅力的なアンサンブルになっただろう
病む来店者に癒しの料理を試行錯誤しながら提供するアリスの活躍が障がいを抱える人への応援歌にもなったんじゃないかな。製薬会社のゴタゴタなんか全く興味ないし、邪魔でしかないことがなぜ作り手にはわからないのだろう。最終話の伏線回収も陳腐過ぎて素人の学芸会未満の出来だった。あれじゃ役者が可哀想だ

「春になったら」
今シーズン一番感動したドラマ
序盤、木梨憲武のオーバー気味な演技が鼻について、大声での話し方とかに嫌悪感さえ抱いていたのに、あれも元気だった頃のメリハリの付け方だったのかと思えば納得がいく
父娘物だし、父親の年齢が全くわたくしと同じだったこともあるけれど、この手のドラマにありがちな感動してください演出が抑えられていて好感が持てた。なんだか往年の小津安二郎とか木下恵介の映画を観ているような王道の日本的なドラマでありながら、現代の生活感も盛り込まれていて素直に良いドラマだったと思う
わたくしも願わくば桜の散り際とともにこの世を去りたいと思っているし、残された余命が分かるのであれば痛みや息苦しさを除外してもらいながら日々を平凡に生きて終わりにしたい。好きだった人にちゃんと別れを言い、好きだった趣味や食べ物に心残りがない様にしてから旅立ちたい。このドラマの父親の若さでこの世に別れを告げるのは早すぎるけど、もう少しこの世を楽しんだらわたくしもそんな風に桜の季節にサヨナラできるといいな
そもそも大好きな女優だけど、奈緒は本当に良い女優だなと毎話思いながら観ていた

「不適切にも程がある」
宮藤官九郎の才能に唸らせてもらった3ヶ月
決して最後まで一本の太い柱が貫いた様な大傑作とはいかなかったけど、テレビドラマのセオリーを覆すような画期的な作品だった。タイムトラベル物は映画もドラマも数多くの傑作が生まれているのは周知の事。その面白さは特に過去(知り得た事実)に対処する顛末に重きが置かれることが多い
このドラマのユニークなところは、1986年(昭和61年)と2024年(令和6年)の価値観を対比させどちらかに軍配をあげることなく、それぞれの時代においてもっと寛容な生き方をしようと皮肉れたところだろう。どの時代にも面倒くさい柵があって、日常の中では看過されてしまい無頓着になりがちだ。40年近いタイムラグを飛び越えたからこそみえる矛盾やナンセンスさが、気の利いたミュージカル仕立てで笑わせてくれながらもグッと問題提起をしてくる。こんなドラマ今までにあっただろうか
チョイ役にも驚くような大御所を持ってくるのもクドカンらしくて楽しかったけれど、なんと言ってもこのドラマで名前と顔を売ったのは河合優実だった。ずいぶん前から注目していた女優がこんなにも眩い晴れ舞台に立つなんて、応援していた甲斐がある。次のステップでより大きく羽ばたくことを期待する






「ブギウギ」
一にも二にも趣里の魅力が全面的に押し出された半年間だった。ヒロインに決まった時に力不足なのではないかと危惧していたが、典型的な朝ドラヒロインもやれることを証明できた。映画のような空間での趣里は、美人女優とは言えない容姿であるからこその魅力があるのだけれど、小さなモニターの中に説得力を持たせることができるのかがポイントだったと思う。過去のいくつかのドラマでは帯に襷にという塩梅で今ひとつだったから、ここまで堂々と歌謡史に残る歌い手を演じきれたのは褒められるべきだろう
音楽とダンスはやっぱり映像との相性の良さをも再認識させてくれた

「光る君へ」
重厚な平安セットと衣装はNHKに受信料払っていて良かったと思わせる
まひろ(紫式部)と道長の恋が切なくて、逢引のシーンで思わず涙ぐんでしまう
内裏の女官として才を振るう姿が早く観たい

「沈黙の艦隊」
プライムビデオ制作のお金が沢山かかっているからこその良質なドラマだった。続きが早く観たい
唯一ダメだったのはジャーナリスト役で上戸彩が薄っぺらく絡むのが残念。絡ませるなら重みのある俳優か、正義感だけで突っ走るお嬢ちゃん女優であれば良いアクセントになっただろうに


南風

2024-03-17 13:19:00 | 歳時記雑感


南からの強い風がグンと気温を押し上げて、春の花たちが嬉しそうに揺れています






一月前に修理に出していた包丁が直ったと連絡があり、伊勢佐木町まで引き取りに行きました









ついでに新調した包丁も受け取ります









天王町まで歩き、五年前の3月19日に逝ってしまった友の墓参りを済ませました







本当に時間は止まることなく、一方通行で進んで行くのですね







神社に立ち寄り、今年の春が穏やかにはじまるようにお願いしました






蕾がほころび始めました
春はもうすぐそこです




2024年3月15日 都留漁協解禁の日

2024-03-15 16:42:00 | 釣り

今年も温かな日和で解禁日を迎えました
富士山は真っ白ですが、桂川には冬の気配はありませんでした

流石に解禁日当日
川へのアクセスが良い場所には何台もの車が駐車しており早くも竿を振りはじめている人もチラホラ

7時過ぎないとゲートが開かない道を徒歩で降り川に着くと誰もいません
今年は前日放流しなかったのかしら?と訝しみながらも、人混みの中で釣るよりマシなので竿を出します

ゆったりした流れの淵なので、放流魚には居心地よろしいかと思うのですが・・・
解禁日だけに使うイクラ餌を何度取り替えてもアタリがありません

陽もさすようになって、手のかじかみが和らいだころやっと今期初の山女魚が玉網におさまりました
その後、30分に一度の割合で放流山女魚が全部で四つ釣れただけ

この淵のみで本日の釣果


昼過ぎには水温も上がり朝から頑張ってた人もお終いにするだろうから、夕方までが勝負だと思ってましたのに
春特有の風が強くなり、上流の放流ポイントで粘ってもカスリもしません

根気も尽きて、陽の高いうちにリタイアいたしました


都留漁協のライセンスちょっぴり値上がりしました
雑魚のみ組合員 3100円→3500円
ここにも価格改定の波が押し寄せてます(二十数年来値上がりしていなかった方が奇跡?)








春だというのに

2024-03-10 08:51:00 | 歳時記雑感

昨夜、生まれ故郷に拠点を移した弟からLineが届いた

年が明けてから、齢90を超えた父親が足を悪くして寝たきりに近い状態だという

もうひとつ心配なのは、数年前に直腸癌を患った一番下の弟に転移の兆候があり再手術するとのこと

なんだか身の周りに暗い影が忍び寄るようで気分が晴れない




風は冷たいけど、こんな時は歩くに限る



おにぎり二つ持って近所の散歩コースを辿る



妙に心配になっている自分の心を鎮めるため、家の女王様の健康を祈ったり



父親と弟の治癒を神頼みする

情けないことに今わたくしにできるのはそんな事だけ






ひとりぽっちのクジラは鳴かない

2024-03-09 13:53:00 | 新作映画

杉咲花が不幸な幼少期を経て自分の足で歩み大人になる姿は、昨年観た傑作「市子」にダブル部分がある

物語は本屋大賞の小説が原作なので前に読んでいるのだけど、印象に残ってない。物忘れが激しいから読後の感想をランク付けしているから見返してみたら、それほど高く評価していないところをみるとわたくし的にはハズレだったのかな

ネグレクト、ヤングケアラー、ジェンダーギャップと様々に声を出せない人々のお話しばかりで、あまりにも詰め込み過ぎていて息苦しい。その割には結構呆気なく普通の生活ができているようなのも軽い感じがしてしまった

前にも書いたけど、わたくしは身の周りに親から虐待受けて育った人も自分の性別に悩んでいる人も知らない。それどころかこの歳までシビアな介護を経験したこともない

だからどうしても他人事に感じてしまうのかもしれないけど、この映画で描かれた生き辛さは何となく表面的に感じられてしまった。自分の発する声の全てが誰にでも聴こえる音域だなんて思わないが、聴いてくれる人聴こうとしてくれる人は必ずいる

それでも、やっぱり誰にも届かない鳴き声をあげながら、ひとりぽっちで人は生きてゆくものなのかとも思う
聴いてもらえない鳴き声をあげるのは、聴いてほしい願望があるから

それさえ無くなってしまった人は、もう鳴くこともない