映画と渓流釣り

物忘れしないための処方箋

アントキノイノチ

2011-11-21 13:39:03 | 新作映画
 原作は、特異な業態と過去に苦しみを共有した若者の明日が描かれており、読み応えのある作品でした。
過去の苦しみを克服しようと、「元気ですか!」と大声で問う結末には清涼感があり、遺品整理とか虐めとかレイプと言った重苦しい題材を扱っている割には清々しい読後感をもたらしてくれます。

 映画はかなり脚色されていて、骨格は同じですけど血肉の部分は随分違う物になっておりました。
原作では遺品整理の仕事や会社のこと人物関係に重きがおかれていますが、映画ではかなりサラッと触れるだけで原作では重要人物である先輩の佐相さんあたりは物足りない感じがいたしました。主人公のトラウマとなった高校時代のクラスメイト松井の嫌らしさも原作を読んでいないと伝わらないかも?と危惧しながら鑑賞した次第です。
 一番の相違点は、二人の結末に関わることですのでからここでは語りませんが、わたくしとしては断然原作を支持したい気持ちです。エンターテイメントの観点からあんなふうにしたのでしょうが、原作を読んで感じた清々しさとは違った物になってしまいました。

 主演の二人は頑張っていました。
岡田将生はズンズン上手になっていきます。榮倉奈々の演技パターンは「余命一ヶ月の花嫁」と一緒でしたが、手持ちのカメラが微妙に揺れるドキュメンタリーっぽい絵には良く合うように思います。壇れいの奥さんが美しすぎてリアリティーがないのと、柄本明の使い方があまりにももったいないと気になったことも付け加えます。

 演出も、前作「ヘブンストーリー」の評価が高く、わたくしが観た「感染列島」のイメージを払拭してくれるのかと期待したほどには完成度が高かったとは思えません。


「恋の罪」の罪

2011-11-14 12:59:17 | 新作映画
 園子温、今年二作目の爆弾映画。「冷たい熱帯魚」の興奮がまだ冷めないからか、「恋の罪」はおとなしい感じを受けてしまいました。当然、他のTV局主導のお子様映画に比べるべくもない、脂と血と精液や女体のオンパレードです。日本映画でなおかつメジャー公開作品(商売になると考えているんだな)が、こんなに堂々とシネコンの銀幕を飾ることが出来るなんて、わたくしが子どもの頃には考えられませんでした。それもこれも、園子温でなければ唯の色物扱いでしょうけど。

 オンナの映画です。
怖いオンナしか出てきません。そうじゃなくてもオンナは怖いと思っていますから、こんな映画観せられたら完全不能者になってしまいます。この映画の一つ目の罪です。
 ズルイ男が多すぎます。
貞淑な妻から堕ちてゆくオンナを神楽坂恵が演じますが、タダならいい女お金とるのは変な奴みたいに描かれます。神楽坂恵ならお金出してもいいけれど、とか言うことではなく、男セコイですね。ズルイです。罪です。

 物語はいつものようにある程度破綻してます。だからそのことを言い始めても何にもなりません。この映画はオンナが描かれていればいいのだと思うのです。大学の助教授でありながらファザーコンプレックスのはけ口を、夜の下級娼婦になることで体現する富樫真が秀逸でした。本当に怖かった。彼女のお母さん役のおばあちゃん。輪をかけてすごかった。逃げ出したくなりました。前作「冷たい熱帯魚」の時はへたくそだった神楽坂恵の、すさまじい開花振りに目を見張る思いです。裸だけではない武器を手に入れました。園監督との婚姻は肯ける結末です。大変魅力的に撮られています。
 この作品、最大の罪は水野美紀だったと思います。何の前知識も無しで観たから、あの水野美紀の喘ぎから始まり全裸まで披露してくれるとは思いませんでした。こりゃまたどうなっちゃうんだろうとワクワクいたしましたが、それきり尻つぼみのまま。描きたいことは良く分かりますが、水野美紀では魅せきれません。富樫の怪演、神楽坂の熱演に比べるとなんとも物足りなさを感じてしまいます。こんな絡み方なら無いほうが物語がすっきりして締まりが出たと思います。