映画と渓流釣り

物忘れしないための処方箋

それが好きだと言うこと 11月の頃

2015-11-30 08:39:21 | 旧作映画、TVドラマ
今でこそ観る映画の80~90%が日本映画になってしまったけれど、大学生の頃までは圧倒的に外国映画ばかり観ていた。70年代、確かに日本映画は構造的な不調に喘いでいたと思う。メジャー五社が崩壊して、継続的な人材育成が出来なかったし、外国映画の圧倒的なスケールで描かれる大作に興行的にも惨敗していた。そんな中で面白い(笑えるっていう意味じゃないよ)映画なんか生まれるわけない。いつしか、日本映画=暗い、地味、ツマラナイとなってゆく。
でもそんな逆風の中だからこそ芽生える才能もある。日活が安価なコストでそれなりの収益を産む事ができるから量産した映画にチャンスが転がっていた。若手の作家は制約の中で創造性を膨らませ、才能を開花させていったのだ。
その中の一人が、11月の映画「遠雷」の監督、根岸吉太郎。
この映画とこの監督との出会いが、わたくしを日本映画に導いたのだ。


11月の頃「遠 雷」


今は亡きジョニー大倉の独白シーンがすごい。
トマトが赤く実るビニールハウス内で、幼馴染に 訥々と語る殺人までの経緯が悲しい。全然ドラマチックじゃないけど、人を殺してしまうことってそんなふうに流されてゆくのだろう。と、納得してしまう演出と演技。
夜明けに友人の出頭に付き合った主人公が家に戻ると、自分の結婚式の余韻は続いており、皆から囃し立てられ桜田淳子の「わたしの青い鳥」を振りつきで歌うシーンにつながるところまでは、この映画のハイライトである。

添付したポスターの図柄はラストシーン、トマトの蔓を燃やし始末する二人に遠雷が鳴り響く姿だ。刑に服す友人が出所する頃、「お腹の子は小学生だわ」。その、あっけらかんとした語りに若い夫婦の未来が暗示されているようで、救われる想いのまま映画は終わる。




3回泣くこと

2015-11-29 13:07:00 | お遊び
名古屋にある徳川美術館って所が所蔵している国宝源氏物語絵巻を見てきた。
子供の頃から絵心なんて空っ切りなかったし、それは今でも同じ。美術館に行く事もめったに無い。
そんなわたくしが長蛇の列に並んでまで見たかったのは、源氏絵巻だからだ。
はっきり言わせてもらえば、油絵のような保存性が無いためただ古臭い絵巻物としか思えない。これが国宝ですと言われて何となく有難い気はするけれど、何時だったかフィレンツェの美術館で見たヴィーナスの誕生みたいな煌びやかさも荘厳さも感じられない。
それでも、紫の上と今生の別れを描いた「御法」の場面は、最愛の人を永遠に失う哀しみがそこはかとなく漂い、物語をこよなく愛するわたくしはつい涙が溢れてしまった。ちょっぴり恥ずかしい想いを残しながら、込み合う列に紛れた。





キャンディーズのDVDを見て、涙を流しているオヤジ多いだろうな。
解散当時高校生だったわたくしは、後楽園にも蔵前にも行きはしなかった。当時、ウエストコーストロックにしか興味が無かったし、たかがアイドルグループの解散ごときに...と、まぁそんなふうに醒めていた。
でも、ドリフの全員集合!で歌い踊るキャンディーズはちょっぴり可愛いお姉さんとして、気にはなっていたんだ。今あの頃から40年の月日が経って、しみじみキャンディーズの偉大さと、刷り込まれた好きという気持ちに気付かされ唖然としている。レコードは沢山持っていたから、かなりマイナーな曲まで知っているけど、ファイナルカーニバルの全容がこうして映像で見る事が出来るなんて、本当に幸せだ。スーちゃんが元気に駆け回る後楽園球場。響き渡るキャンディーズコールに涙が止まらない。「私たちは幸せでした」と言って去って行ったキャンディーズに、「僕たちこそ幸せでした」と感謝したい。





そして、一番泣きたいのは、ずっと待っていた隊長が、郷里福岡へ転勤してしまう事。
20年間いつも一緒に渓に通った釣り仲間を失う事に、戸惑っている。
落涙。





35年経ってパゾリーニ

2015-11-02 22:56:11 | 旧作映画、TVドラマ
二十歳の頃、ヨーロッパ映画に憧れていた。
元々フェリーニから始まって、ネオリアリスモの作品を漁る様に観ると、アントニオーニやベルイマン、アラン・レネなんかも放って置けなくなり、パゾリーニも必然的に齧ってしまう事に。
子供の頃はそれなりに楽しんでいた。特に、艶笑三部作(生の三部作)は作劇上も斬新だったから、当時映画サークルで書いた脚本は影響を受けた後がみえる。この飛び石連休に奥様がレンタルした「デカメロン」と「カンタベリー物語」を再見してみた。



三部作の一作目「デカメロン」はとても楽しめたし、子供の頃には分からなかった面白さも味わった。ラストに巨匠と云われる絵描きが壁に大きな宗教画を完成させた後の呟きが印象的だ。「夢で見た情景の方が素晴らしいのに、何故私は絵を描き続けるのだろう」パゾリーニの偽らざる本音としか思えない。


ギャラクシー街道 もう一つの三谷映画

2015-11-01 19:03:49 | 新作映画


なんかすこぶる評判が悪い。
観た後、納得して映画館から帰ってきた。
理由。
素直に笑えない。多分ほとんどの観客は、無責任に笑って楽しみたいのだろう。
「有頂天ホテル」「ステキな金縛り」のようにわかりやすく笑わせてくれて、ちょっぴりほのぼの感動させてくれる映画を三谷作品には求めている。それも三谷映画の一面であるけれど、少し悪意のあるシニカルな笑いも三谷作品には欠かせない味付けなのだ。今回は後者の要素がより多く表れただけで、これをもって、今までは面白かったのに…これで三谷監督も終わった…などと早合点してはいけない。

しかし、三谷作品は良くも悪くもある程度のブランド力を持ってしまった。監督が自由な発想で自分が一番作りたい映画を作ればいいのだけど、皆んなに観て欲しい、より一層ヒット作を望んでしまう三谷監督としては相当なジレンマだろう。
ラストの水棲宇宙人が歌い踊るシーンに、懐かしいミュージカル映画の香りが漂い、清涼感ある印象で幕が閉じられた事が救いだと感じる。それなら次は和製歌劇に挑戦してもらうのは如何か?(成否は置いておいて観に行きますよ)