映画と渓流釣り

物忘れしないための処方箋

ひとりぽっちの映画はじめ「恋のいばら」

2023-01-07 04:12:00 | 新作映画
お正月映画は暮れに観尽くしてしまったから、新春公開の作品から選んだのは城定監督が脚本も書いた地味な作品

「アルプススタンドのはしの方」「愛なのに」と、このところ絶好調な監督だから何かしら楽しませてくれるんじゃないかと若干の期待。1月6日公開初日の初回、今年も一番通うことになるだろうホームグラウンドTOHOシネマズららぽーと横浜の小さな小屋に入ると誰もいない。もう開映時間なのに前から二列目の真ん中にはわたくしだけがポツンと座っている。もしかして小屋を間違えたかと一旦確認に出てみるが間違い無いようだ
この映画も2週間で打ち切りだな

お話は図書館に勤めるメンヘラ系元カノが、ダンサーを目指しているリア充系今カノと共謀して彼氏が所有している自分たちの写真を破棄するまでを描く。その過程で水と油のような二人の女子が名前で呼び合い友達のようになってゆく
元カノを演じるのは松本穂香。おっとりした地味な顔立ちがピッタリなんだけど、ショートカット丸めがねがauのCMキャラと被ってしまいなんだか造作を失敗した感がある
今カノは前年「窓辺にて」で物語のキーパーソンとなった学生小説家を演じ存在感を示した玉城ティナ。あの役とはまるきり違う役者のような雰囲気で、この女優化けるかもしれないと思わせる

2時間に満たない小品でコンパクトにまとまってはいるから、他人にオススメはしないけどまあそれなりにって言うとこかな。軸はあるけど枝葉が無い(弱い)。リベンジポルノに対するアンチテーゼなんていう主題が全面に出るわけじゃ無いし、女子二人の友情物語にしては足りないし、全てがそれなりの半端さなのだ
彼氏の家に住むボケ始めたおばあちゃんとの接点もボンヤリしているから勿体無い。もっと上手い設定できただろうに
思わせぶりな小物として写真集が使われるけど、絶版になっていて結構大きな図書館にも所蔵されていない筈なのに二冊も使われているのも解せない。その写真集に挟まっていた今カノの寝顔の意味するところがまた不可解だ

写真家の彼氏が言ってた、仕事で撮る写真じゃなく本当に美しいものを撮りたかった一枚だとしたら
そうであるなら、彼氏は本気で今カノが好きなんだろうし元カノがその写真を見た時に涙した意味がわかるけど、消去して欲しいと言われたのにプリントまでしていたのは単なるポルノグラフィティーだとも取れる
その辺の説得力が無いため曖昧な印象で終わってしまった

結局、本編上映開始から数分後に年配の男性が一人入場してきたので、小屋を出るときは二人になっていた


ケイコ 目を澄ませて

2022-12-24 17:36:00 | 新作映画
クレジットを見て驚いた
昨日観た「そばかす」同様、この作品もメ〜テレ制作だ
以前から良質の映画制作をしていたのは知っていたけど、こんなにも地味な作品を連続して公開するなんてどれ程肝がすわっているんだろう。調べてみたら株主はトヨタと朝日新聞(テレビ朝日)だ。観る側をバカにした幼稚で中身の薄い作品しか作れないフジテレビとの対局にあるようだ。この映画の主人公である岸井ゆきのといい三浦透子も上手くて味のある女優だけどお客さんを呼ぶには厳しいだろう。それでも見てくれの華よりも作品の質にこだわるのは勇気いるだろうな

古来より洋の東西を問わずボクシングと映画は相性がいい。数え切れないほどの傑作が生まれている。この映画の主人公もストイックに戦い続けるボクサーだけど、女性であることそしてろう者であることが物語をオリジナルな物にしている
ホテルの客室清掃員の仕事をしながらプロのボクサーとしてリングに立つ。その姿はお金とか名誉のためには思えないから、試合のあるたびに上京してくる母親としては彼女がリングに向かう視線に否定的になるしかない
まあ、わたくしの娘がボクシングの試合に出て顔中腫れ上がらせていたら止めるだろうな

岸井ゆきのはあの小さな体を目一杯使ってボクサーに成り切っていた
こんなハードな役もやり切れるんだと感心して観ていた。いつか大きな賞で彼女の頑張りは報いられるといい

欲を言えば、このボクサーがろう者であることの描かれ方に物足りなさを感じてしまった。拠り所だった所属するジムも閉鎖され、面倒見てくれていたオーナーも病に倒れた。この先、どこを目指して戦っていくのか、その方向が見えないまま終わりにしてしまったのは作者として無責任だと思う



自分らしく生きる難しさ「そばかす」

2022-12-23 19:11:00 | 新作映画
年頭のNHK冬ドラマで同じような題材を扱ってた
LGBTQとも違う、もっと生物の根源に関わるような心の複雑さ

異性であれ同性であれ、恋しいという気持ちを持てない人がいるらしい
友達とか家族とかへ向けられる愛情(好きだという感情)はあるのだけど、所謂ギュっと抱きしめたくなるようなパッションは起こらないらしい。らしいとしか書けない。皆目その気持ちを理解できないから

母親に仕組まれてお見合いした相手が行きつけのラーメン屋の店員で、気心も合うし普通ならそのままハッピーエンドへ真っしぐらな雰囲気なのに、友達以上の情愛を持てないがため相手の自尊心まで踏みにじる別れ方をしなければならない。どんなに自分の感情を説明しても通じることはない。恋愛感情を持てないだけで、好きな気持ちに嘘はないのに

元AV女優の同級生と意気投合し、同居するための家を探し始めるけど、結局彼女も結婚という普通の落とし所に流れていく。だからと言って孤独なんだろうか?
恋愛感情が持てなく本能的な生殖活動にも興味がないけど、保母の仕事はしっかりこなすし気を病んだ父親へはいつも温かな眼差しで接することのできる心優しい人だ

家族との夕食の席で伝えることの出来なかった自分のことを訴えるシーンには胸が熱くなり、思わず頑張れと呟いてしまう

いつもカッコいいトム・クルーズが全力で逃げ惑うから宇宙戦争が好き
そう言ってた彼女は
ラスト、世の中のしがらみやレッテルから逃げるように、全力で走りだす


三浦透子のキャラにあった佳作


海のアバター

2022-12-18 18:05:00 | 新作映画

まず最初に感じたのは、この映画もベトナム戦争の後遺症がなければ生まれなかったんだと強く感じるシーンがいくつもあること。ある年代のアメリカ人にとっては80歳以上の日本人が太平洋戦争に抱くジレンマと同じ感覚を持っているのかもしれない

そして多分、キャメロン監督自体は空より海の方が親和性に富んでいるんだろう
今日、十数年ぶりに出会ったナビィの一族の物語を観てそう思った
デビュー作フライングキラーもアビスも駄作だったけど海の話だったし、大ヒット作タイタニックは舞台そのものが海の上だった。知らなかったけど、ドキュメンタリーとかも海中物を作っているみたいだし、プライベートでもかなり入れ込んでいるらしい。日本人にはちょっと不快な鯨捕りのエピソード(銛に日捕って書いてあった)にもかなり拘っていた
話逸れるけど、あんた達(欧米人)の祖先だって散々クジラ獲って殺してたんだよ!と言いたいけど、日本もさ、捕鯨で生活成り立たせていた人が沢山いた頃はしょーがないとしても、今そんな人いる?鯨の竜田揚げ食べないとご飯が進まない日本人いますか?って事。もう調査捕鯨も辞める頃合いだよね。スタジアムの掃除以上に世界的に称賛されるよきっと(誉めるの拘っている欧米人だけだろうけどさ)

192分の上映時間に先ずは驚いた
興行だけで考えたら無謀。90分の作品なら同じ時間で2倍の売上になるもの
今時娯楽作品で三時間越えの映画ってそうは無いでしょ。観る方も前日から体調整えて、水分も控えめにしないとさ
退屈な作品なら拷問に近いお仕置きだろうけど、そこは手練手管のキャメロン監督
宣伝されている通り、臨場感ある映像体験で飽きさせないまま突っ走った
海中も深海ではなくて浅海だから明るく煌びやかな映像が主体で、なんだか水族館の大展示場を覗き込んでいるみたい。生き物たちもユニークでありながら可愛げがあり、プレシオサウルスの子供みたいな相棒には乗ってみたいと思ったよ
アクションシーンも遊園地感盛りだくさんで、分かっちゃいるけど首筋が突っぱねる程に興奮させてくれる
これでシニア料金(イオンシネマだと1,100円)ならどんな娯楽より格安で非日常体験ができちゃう。ありがと

前述したように、映像体験としては超弩級の大傑作であることに異をとなえる輩はいないだろう。もっと凄いもの作れる才能を持った天才が現れるまで、この映像は頂にある教科書としてあり続けるだろう
が、映画として頂に君臨できるかと言えば否定的な意見を述べざるを得ない
シリーズだから復習してから観に来いよと言うのも尤もかもしれないが、十数年ぶりに続編と言われても覚えてないし。序盤、敵の設定に全くついて行けなかった。ここはもう少し前日譚を丁寧に語って欲しかったな
家族の物語なのに、肝心の敵(大佐)と記憶の中で息子としてパンドラで成長した男の子の関連性がまるで思い出せずフラストレーションだった
長尺を海中シーンに費やしたかった監督の気持ちは察するけど、映画として観たいのは人と人の繋がりから生まれる感情なんだ

技術の進んだ3Dは以前のようなこけおどし的な絵作りは無くなって、よりリアルになった。ただし、前作の空が舞台の時に感じた高低差を見せてくれた驚きのようなものが水中では作り出せていない。だから、出来るだけ大画面でそれも可能な限り前列で観るべきだと思うけれど、そんなに3Dにこだわる必要ないんじゃないかとも思った

あと3話それも二年おきに作成するらしいから、くたばるまでに見届けられるかな?
大学生の頃、平塚の映画館でホラー作品と併映されてた処女作からの付き合いだから、キャメロン監督作品は全部大画面の映画館で観ますね



コトー先生が教えてくれたこと

2022-12-16 18:14:00 | 新作映画
金曜日の初日9時からの上映なのに結構大きな小屋が七割方埋まった
この傑作テレビドラマシリーズのブランド力を否が応でも感じさせる
皆んなコトー先生に逢いたかったんだな

20年近い歳月の流れは、一応に島民を老齢化させてはいるけれど、一番年老いたなと感じさせたのは主人公のコトー先生だった。一人で島の医療を人々の命を守ってきた苦労と重圧は彼をこれほどまでに疲弊させたのか。島に来た研修医が言う、コトー先生に島の皆んなは甘え過ぎているんじゃないか。確かにその指摘は的を得ている

自らの病気をも庇いながらそんなにまでして尽くす必要が何処にあるんだろう
こんな医者に出逢える人生はきっと僥倖だろうなと思うけど、もっと自分と自分をいちばん愛する大切な人のために生きた方が人間らしいんじゃないかな

物語の中でコトー先生から教えてもらったのはそんな事






そして、映画作品として教えてもらったのは、やっぱりフジテレビは映画を作るべきではないと言うことだ
あの優しさ溢れる物語を安っぽいドラマにしてしまった。これでもかの感動押し付けがどれほどウンザリさせられるのかをなんで理解できないのだろう。視聴者はそんなにバカじゃない。作為的なお涙頂戴を喜んでいる場合じゃないこの世の中で、現実は綺麗事の嘘を陳腐化させているのだから

寅さんが終わり、北の国からも終わってしまった吉岡秀隆にとって、コトー先生はこれからも演じてほしい役だったけど、こんなに酷い映画にするならもう観たくないな

コトー先生はそんな事も教えてくれた