このゴールデンウィークに観続けた「男はつらいよ」シリーズについて、新しい発見というのとは違うかもしれないけどいくつか感じたことを書き留めておこう。
先ずは主人公の寅次郎について。
・寅さんは底抜けにバカだ
・寅さんは自分勝手で迷惑なオジサンだ
・寅さんは身内に甘えていることを自覚できていない
・寅さんは美しい女性の気持ちを斟酌できない
けれど
・寅さんは頗るカッコイイ
・寅さんは哲学者である
・寅さんは誰よりもさくらを大切に思っている
・寅さんは損得勘定なく他人を助けることができる人
・寅さんは美しい女性の心をつかんでしまう
寅さんにとって本当のマドンナはやっぱり妹のさくらなんだとしみじみ感じた。
出来の悪い兄のため、柴又だけじゃなく結構日本国中飛び回って尻拭いをしている姿に、改めてさくらの菩薩性を見た。兄の軽い財布にこっそり札びらを忍ばせるさくらも健気だが、年の暮れに柴又を去る兄を駅のホームで送る姿に涙は止まらない。日本人の男性誰しもがさくらのような妹に幻想を描いてしまうな。
48作もあるから優劣をつけるのはとても難しい。
敢えて10本選ぶとするなら。(今の気分で)
・続・男はつらいよ(1969)佐藤オリエ
続編に傑作なしと思い込んでいたが、今回改めて観直すととても良く出来たドラマだった。
1作目同様マドンナは寅さんにとって高嶺の花として描かれている。
・望郷編(1970)長山藍子
まっとうな労働者になろうとして流れ着いた江戸川の川下で、豆腐屋に住み込む寅さんが勘違いの失恋をする。
長山藍子が邪気なく寅さんの心を惑わせるところが笑えてかつ悲しみを誘う。
・寅次郎夢枕(1972)八千草薫
幼馴染の八千草薫から「寅ちゃんなら結婚してもいいわ」と告白されるのに、逃げ出してしまう情けない寅。
倍賞千恵子と八千草薫は並んでみると確かにラッキョウ顔(愛嬌のある美しさ)。
・寅次郎相合傘(1975)浅丘ルリ子
リリー二回目の登場。場末のナイトクラブで歌う浅丘ルリ子の儚げな歌声に寅さんじゃなくとも恋するわな。
山田洋次は歌の上手い人を旨く歌わせることのできる監督なんだと今更ながら再発見。
・寅次郎純情詩集(1976)京マチ子
寅さんが恋焦がれたマドンナの死をみせた作品は珍しい。浮世離れした名家の未亡人を京マチ子が堂々演じた。
マドンナの娘役で檀ふみが登場し、Wマドンナの先駆け的作品でもある。
・ハイビスカスの花(1980)浅丘ルリ子
リリー三度目の登場。北国のイメージがあったリリーが南国沖縄の陽光の下、寅さんと所帯を持つのか?
そんな風に思わせてくれた大好きな作品。ここから毎作映画館で盆暮れ寅さんを観始めた。
・寅次郎かもめ歌(1980)伊藤蘭
幾度となくモチーフにされた娘に対する情愛と夜間学校で学ぶことの尊さを主題にした山田洋次らしい先品。
キャンディーズ解散後の伊藤蘭が薄幸な娘役を好演。震災前の奥尻島が美しい。
・口笛を吹く寅次郎(1983)竹下景子
竹下景子もこのシリーズには欠かせないマドンナだろう。その中でも傑作と呼び声の高い本作は頭抜けていた。
寅さんの気持ちを確かめに東京まで来た彼女を、柴又駅で見送る寅とさくらの兄妹に涙する。
・ぼくの伯父さん(1989)後藤久美子
甥っ子の満男の恋愛エピソードが主軸となった画期的な作品。この後寅さんは段々御仏の様子を濃くする。
後藤久美子の美少女ぶりに今感嘆してしまう。あのバタ臭さは寅さんの相手ではないなと納得も。
・寅次郎の告白(1991)吉田日出子
久しぶりに観て、吉田日出子の上手さに驚いている。思わず十本の中に入れてしまった。
甥っ子エピソードがメインだけど、舌足らずな女将と一夜を共にした風な寅さんはシリーズの中でも珍しい。
外出自粛の中で配信される映画をモニターで観続けるにはジレンマもあるけれど、寅さんと愛すべき身内やマドンナ達との邂逅は楽しい時間だった。