映画と渓流釣り

物忘れしないための処方箋

振り返るともう そこには

2020-05-30 02:54:00 | 歳時記雑感

早朝5時過ぎにマンションの階段を下ると、真っ白な蛾を見た
通り過ぎてから振り返るともうそこにはいない

4車線の道も車は疎らで、そこにも同じような白い蛾
小さな川を渡る橋上にも商店街近くの公園にも、そして駅のホームにも

薄く儚げに揺れながら舞う姿に何だか哀しくなる



春ドラマほんの少しだけ

2020-05-27 19:17:00 | 旧作映画、TVドラマ


ここまでコロナ騒動が深刻になり、映画館の閉鎖はともかくテレビドラマの制作にも影響するとは考えもしなかった。あの震災時でさえテレビドラマにはこれほどのダメージは無かったように思う。作れないものは観せようがないから仕方ないけど、改めてエンタメは人と人の混ざり合いで作られてゆくものなんだと実感。
そんな中で今6本のドラマを観ている。3本は旧作なので詳しくは書かないが、やっぱり再放送されるだけあって面白い。「野ブタを。プロデュース」は懐かしさで。「グッドドクター」「ノーサイドゲーム」は初見なので結構ワクワクして観ている。

「いいね!光源氏くん」
八話全部放送し終えた。NHKだから結構前に撮影されていたんだろうし、一話30分という尺の問題もあるかもしれない。単純に一時間ドラマなら撮影にも倍の時間がとられるから。
荒唐無稽であるけれど、名うての平安貴族(プレイボーイ)と令和の平凡なOLが勘違いしながらも惹かれあってゆくお話はラブコメの鉄板だ。光源氏のライバルであり親友の頭中将が登場してからは一層面白くなったけど、外国の謎の機関とかはまったりするこのドラマの良さを損ない、要らなかった。その分、せっかく京都へ行ったのだからもう少し今昔の違いなんかを対比させて味わいたかったな。抹茶パフェフロートばかりじゃなくてさ。
伊藤沙莉は味のある脇役女優だけど、こんな風に普通の女の子をそれらしく演じることもできる。これからもど真ん中での役者にはなれないかもしれないが、長く愛される女優になるだろう。

「行列の女神」
失速というほどではないけど、初回の衝撃が薄まってしまった。それでもドラマはしっかり作られているから毎回楽しませてもらっている。新入社員黒島結菜の母親が有名料理教室の経営者で鈴木京香のライバルという設定も面白い。母親の高畑淳子はこの手の役になると生き生きとしてくる。
ラーメン屋のフードコーディネーターという職業が本当にあるのかは知らない(この世の中多分あるんだろうな)けど、日本国中ラーメン屋のない町はないだろう。わたくしの過疎の古里でさえ雑誌で紹介されてるお店があるくらいだ。このブログでも横浜近在の美味しいラーメン屋を紹介したこともあるし、定期的に自分でオリジナルラーメンを作るくらいわたくしもラーメン好き。
この手のドラマはお店の数だけお話は作れるのでシリーズ化しても良いように思う。ただし、30分ドラマにした方が凝縮した面白さが出ると思うのだが。これから終盤に向けてどのように話を転がしてゆくのか観ていこう。

「エール」
う〜ん。やっぱり乗れないな。二階堂ふみの良さが結婚してから削げてしまった。主人公がおとなしく弱気な性格ならヒロインは男勝りな勝気でいて欲しい。登場人物に思い入れができないドラマは辛い。これから有名な流行歌を生みだしてゆくことになるんだけど、もう殆どの日本人が古関裕而の作品を知らないし、それほどの愛着を持っているとも思えない。そんなところも今後に期待できない理由かな。
週五話になったのは唯一良かったところ。

寅さんとの時間

2020-05-19 16:52:00 | 旧作映画、TVドラマ

このゴールデンウィークに観続けた「男はつらいよ」シリーズについて、新しい発見というのとは違うかもしれないけどいくつか感じたことを書き留めておこう。

先ずは主人公の寅次郎について。
・寅さんは底抜けにバカだ
・寅さんは自分勝手で迷惑なオジサンだ
・寅さんは身内に甘えていることを自覚できていない
・寅さんは美しい女性の気持ちを斟酌できない
けれど
・寅さんは頗るカッコイイ
・寅さんは哲学者である
・寅さんは誰よりもさくらを大切に思っている
・寅さんは損得勘定なく他人を助けることができる人
・寅さんは美しい女性の心をつかんでしまう

寅さんにとって本当のマドンナはやっぱり妹のさくらなんだとしみじみ感じた。
出来の悪い兄のため、柴又だけじゃなく結構日本国中飛び回って尻拭いをしている姿に、改めてさくらの菩薩性を見た。兄の軽い財布にこっそり札びらを忍ばせるさくらも健気だが、年の暮れに柴又を去る兄を駅のホームで送る姿に涙は止まらない。日本人の男性誰しもがさくらのような妹に幻想を描いてしまうな。

48作もあるから優劣をつけるのはとても難しい。
敢えて10本選ぶとするなら。(今の気分で)
・続・男はつらいよ(1969)佐藤オリエ
 続編に傑作なしと思い込んでいたが、今回改めて観直すととても良く出来たドラマだった。
 1作目同様マドンナは寅さんにとって高嶺の花として描かれている。
・望郷編(1970)長山藍子
 まっとうな労働者になろうとして流れ着いた江戸川の川下で、豆腐屋に住み込む寅さんが勘違いの失恋をする。
 長山藍子が邪気なく寅さんの心を惑わせるところが笑えてかつ悲しみを誘う。
・寅次郎夢枕(1972)八千草薫
 幼馴染の八千草薫から「寅ちゃんなら結婚してもいいわ」と告白されるのに、逃げ出してしまう情けない寅。
 倍賞千恵子と八千草薫は並んでみると確かにラッキョウ顔(愛嬌のある美しさ)。
・寅次郎相合傘(1975)浅丘ルリ子
 リリー二回目の登場。場末のナイトクラブで歌う浅丘ルリ子の儚げな歌声に寅さんじゃなくとも恋するわな。
 山田洋次は歌の上手い人を旨く歌わせることのできる監督なんだと今更ながら再発見。
・寅次郎純情詩集(1976)京マチ子
 寅さんが恋焦がれたマドンナの死をみせた作品は珍しい。浮世離れした名家の未亡人を京マチ子が堂々演じた。
 マドンナの娘役で檀ふみが登場し、Wマドンナの先駆け的作品でもある。
・ハイビスカスの花(1980)浅丘ルリ子
 リリー三度目の登場。北国のイメージがあったリリーが南国沖縄の陽光の下、寅さんと所帯を持つのか?
 そんな風に思わせてくれた大好きな作品。ここから毎作映画館で盆暮れ寅さんを観始めた。
・寅次郎かもめ歌(1980)伊藤蘭
 幾度となくモチーフにされた娘に対する情愛と夜間学校で学ぶことの尊さを主題にした山田洋次らしい先品。
 キャンディーズ解散後の伊藤蘭が薄幸な娘役を好演。震災前の奥尻島が美しい。
・口笛を吹く寅次郎(1983)竹下景子
 竹下景子もこのシリーズには欠かせないマドンナだろう。その中でも傑作と呼び声の高い本作は頭抜けていた。
 寅さんの気持ちを確かめに東京まで来た彼女を、柴又駅で見送る寅とさくらの兄妹に涙する。
・ぼくの伯父さん(1989)後藤久美子
 甥っ子の満男の恋愛エピソードが主軸となった画期的な作品。この後寅さんは段々御仏の様子を濃くする。
 後藤久美子の美少女ぶりに今感嘆してしまう。あのバタ臭さは寅さんの相手ではないなと納得も。
・寅次郎の告白(1991)吉田日出子
 久しぶりに観て、吉田日出子の上手さに驚いている。思わず十本の中に入れてしまった。
 甥っ子エピソードがメインだけど、舌足らずな女将と一夜を共にした風な寅さんはシリーズの中でも珍しい。

外出自粛の中で配信される映画をモニターで観続けるにはジレンマもあるけれど、寅さんと愛すべき身内やマドンナ達との邂逅は楽しい時間だった。