
散歩コースのひとつ、宇野千代作の「おはん」に登場する臥龍橋を渡って右折、錦帯橋下流で錦川の流れが直角に変わる龍江と呼ぶ淵を通って紅葉谷公園に向かう。そこは名勝・錦帯橋から歩いて数分のところにあり、名称に恥じない紅葉の公園としてその季節には多くの人から感嘆の声が聞かれる。
その紅葉谷公園の手前に定年まで勤めた会社の和風の施設がる。それは藩政のころ身分ある方の邸宅跡。何度も、といっても仕事で利用した。内部は庭と合わせて武家の住まいそのままが残されている落ち着いたたたずまい。退職後は外観の四季を眺めながら通る。玄関前の庭がTVドラマに華を添えたこともある。ここでのおもてなしは施設に似合った和食で、食材も器も吟味されたもの、と聞かされていた。
料理研究家の土井善晴さんは「和食」についてこう語っている。「私が考える日本料理の究極、それは、旬の素材を選び、美しい姿、色はそのまま活かし、味付けも必要最小限にすることです。一つ一つがそのままの姿であることが、私たち料理人にとって一番の仕事。形がそのままだと、ごまかしがきかない。味は作るものではなく引き出すもの。それがまさに和食、日本料理の美意識と言えるのではないか」
エッセイの題材は自分の感覚で捉えるしかない。そこから先、それをどう表現するか、感動の表現について月例会でよく教えられる。和食を食べ終えた感想が「美味い、甘い、苦い、辛い、酸っぱい」などでは感動を書いたとにはならない。魅了させられたり興奮した造り、口にしたときの歓喜などを自分の言葉で書く、それが書くことで和食の「味を引き出す」ことになる。それを囲むたたずまいも含めてのことだ。題材の味を引き出す、この課題はたやすいことではないがこれからも心して作品つくりに向かいたい。