
月に1度、仲間が集まって農園作業をしている。そのリーダーは畑も田も使いこなす農業大好きな主婦。「高いので慎重に蒔いてね」というリーダーから渡されたのは人参の種。その値段を聞くこともなく受取る。指定された畑けの区画には種まきのみぞが出来ている。蒔くのはぶっつけ本番。
「小さな種を蒔くときにはこうする」、子どもの頃だから何十年も前に祖父から教わった蒔き方を思い出す。利き手の親指と人さし指で種を少しつまむ。親指の腹にそって人差し指をすらすように動かす。種は回転するように落ちる。均等になるよう腕はゆっくり動かす。こんな話だった。
思い出した話を確かめるように指のイメージトレーニングをしてみる。指が記憶していたかのようにいい感じでなめらかに動く。最初のつまみを慎重に蒔く。心配するほどのこともなくスムーズに蒔ける。二畝も済ませると自分で感心するのもおかしいが、思い通りに蒔ける。こうなると農作業が楽しい。それから一月後、人参の新葉が剪定したようにように揃っている。リーダーの「よく出来ている」のひと言にほっとした。
ほっとしてからまたひひと月、しっかり成長した葉はすっかり人参らしくなっている。しかし、1本1本の隙間がない。このままでは大きくならないので間引く。間引かれた跡は根本まで日差しがとどき、あとひと頑張り、人参の1本1本がそういっているようだ。リーダーが「しかし、上手く蒔いた」と一言、「畑がいいのでしょう」と返したが、2度目のほっとだった。
この間引き菜が好き。この日は胡麻和えになって夕食のテーブルに載った。数センチほどになった朱色の子人参が緑濃い葉に隠れるようにしているが、小さいなりに歯ごたえがある。いつもならぐい飲みで冷酒2杯だが1杯多めの晩酌になった。旬のものはやはり美味い。