名実ともに渡辺美優紀の卒業CDなのだろう。
渡辺美優紀がセンターの表題曲、山本彩とのデュエット曲『今ならば』、そしてソロ曲『夢の名残り』が収録されている。
『僕はいない』。
タイトルは、渡辺の卒業を露骨に連想させるもの。しかし、歌詞そのものは、別れた恋人への喪失感を歌った普通の失恋ソングだ。AKBグループのこれまでの夏の海の恋歌の伝統を受け継いだ本格的な曲である。
一番気になったワードは「気圧が下がると」。心情を高気圧、低気圧になぞらえて表現するのは、伝統的な技法だ。山下達郎の『高気圧ガール』、小泉今日子の『潮騒のメモリー』(「低気圧に乗って北へ帰るわ」)などを思い出す。AKBグループでも『ガールズルール』(「空は高気圧」)、『クリスマスイブに泣かないように』(「冬の気圧配置」)などで使われている。『僕はいない』では、気圧が下がる、つまり恋の状況が暗転したことを暗示している。
「遊泳禁止の旗」。『夏が行っちゃった』の「遊泳禁止の立札が拒絶している」からの引用。
「あの日買ったTシャツ」。『Everyday、カチューシャ』の「真白なTシャツにいますぐ着替えて」を連想。
「いつもならキスをしてたのに」。『そばかすのキス』、『涙の湘南』(「レモンのかき氷はあの夏の口づけ」)、『風の行方』(「キスをするとき邪魔になったよ」)、『ラブラドール・レトリバー』(「キスをしようか」)など夏の海の歌の必須アイテム。
「貸しボートのテント」。夏の海のアイテムとしては目新しいが、『禁じられた二人』『何て素敵なあひるのボート』を連想してしまう。
過ぎた恋を思い、未練たらたらで、君も同じ海を見ているかもなど甘い妄想をしている男の心情が、センチメンタルな曲調とマッチしていて心に残る。
その寂しさと、渡辺美優紀の卒業の寂しさがシンクロするのは匠の技だ。
『今ならば』。(渡辺美優紀、山本彩)
歌い出しは渡辺。山本が続く。この2人の声は全く違い、容易に聞き分けられる。山本がドスの効いたきっぷのいい歌声なのに対して、渡辺はねっとりと纏わりつくような歌声だ。どちらがいいということではなく、それぞれの個性だ。過去のアイドルで言えば、渡辺満里奈と渡辺美奈代のようだ。
70年代、80年代の王道アイドルで、ねっとり系は、桜田淳子、甲斐智恵美、浅香唯、渡辺美奈代などが代表格だ。
歌詞は、2人の今のお互いへの思いを歌ったような言葉が並ぶ。しかし、この2人にしか当てはまらないような楽屋落ちではなく、普遍的な友情の歌、あるいは異性間の恋愛の歌とも解釈できる。山田菜々と山本彩のデュエット曲『友達』とも少し似ている。
『夢の名残り』。(渡辺美優紀)
この曲も渡辺のねっとりした歌唱が楽しめる。『やさしくするよりキスをして』で堪能した、ちょっとレトロっぽい歌唱だ。
グループを去る彼女自身の境遇と月の満ち欠けを重ねて歌っているという解釈もできるが、その比喩が難解だ。そもそも彼女がどういう理由で卒業するのかよくわかっていないが、「いつの日か帰って来る」「やりたいことをやるためにここから離れる」「待っててほしい夢の続き」とか、曖昧な歌詞でモヤモヤする。
チーム曲が3曲。どれもいまひとつの印象だった。
『空から愛が降って来る』。(チームN)
祭りばやしのような威勢の良い曲調。恋に落ちるのは、稲妻に打たれるような電撃的なものだはなく、雪や花粉のように静かに降り積もっているのだと歌っている。曲調と歌詞がややアンマッチか。
『最後の五尺玉』。(チームM)
恋は打ち上げ花火のように儚いものと歌っているのは、『僕の打ち上げ花火』にもあったレトリック。この歌でも、恋人と2人で花火を見ながら、夏の終わり、恋の終わりを予感している。
この2人はどこで花火を見ているのか。「ベランダに椅子」を出し、「冷えたスイカ」を食べながら、「扇風機」が何度も首を振っていることから、ホテルなどではなく、どちらかの自宅(実家)だと思われる。そんな親しい関係なのに、なぜ恋が終わろうとしているのかは不明だ。どちらかが大学生で帰省中、9月になれば都会へ戻ってひと夏の恋は終わるということだろうか。
この曲も曲調は威勢が良く、歌詞に似合っている。
『妄想マシーン3号機』。(チームBⅡ)
コミカルな歌だ。君のことが好きだけど、たまには他の女の子のことも気になる。そんな妄想くらいは許してほしいといった男子の勝手な妄想を歌っている。でも、そんな妄想マシーンも、彼女が壊してしまうというオチ。彼女の視点から歌っているパートもあり、楽しい。ただ「妄想マシーン」という道具立てに無理があり、素直に楽しめないのが残念。
『ショートカットの夏』については既に絶賛した。
須藤璃々花の個性的な歌声が存分に楽しめる曲だ。彼女の声は中性的で「僕」という男性人称で歌っても全く違和感がない。この曲をこのCDに収録したということは、渡辺美優紀が卒業した後のエースとして須藤を推していきたいという運営側のメッセージとも取れる。
渡辺美優紀がセンターの表題曲、山本彩とのデュエット曲『今ならば』、そしてソロ曲『夢の名残り』が収録されている。
『僕はいない』。
タイトルは、渡辺の卒業を露骨に連想させるもの。しかし、歌詞そのものは、別れた恋人への喪失感を歌った普通の失恋ソングだ。AKBグループのこれまでの夏の海の恋歌の伝統を受け継いだ本格的な曲である。
一番気になったワードは「気圧が下がると」。心情を高気圧、低気圧になぞらえて表現するのは、伝統的な技法だ。山下達郎の『高気圧ガール』、小泉今日子の『潮騒のメモリー』(「低気圧に乗って北へ帰るわ」)などを思い出す。AKBグループでも『ガールズルール』(「空は高気圧」)、『クリスマスイブに泣かないように』(「冬の気圧配置」)などで使われている。『僕はいない』では、気圧が下がる、つまり恋の状況が暗転したことを暗示している。
「遊泳禁止の旗」。『夏が行っちゃった』の「遊泳禁止の立札が拒絶している」からの引用。
「あの日買ったTシャツ」。『Everyday、カチューシャ』の「真白なTシャツにいますぐ着替えて」を連想。
「いつもならキスをしてたのに」。『そばかすのキス』、『涙の湘南』(「レモンのかき氷はあの夏の口づけ」)、『風の行方』(「キスをするとき邪魔になったよ」)、『ラブラドール・レトリバー』(「キスをしようか」)など夏の海の歌の必須アイテム。
「貸しボートのテント」。夏の海のアイテムとしては目新しいが、『禁じられた二人』『何て素敵なあひるのボート』を連想してしまう。
過ぎた恋を思い、未練たらたらで、君も同じ海を見ているかもなど甘い妄想をしている男の心情が、センチメンタルな曲調とマッチしていて心に残る。
その寂しさと、渡辺美優紀の卒業の寂しさがシンクロするのは匠の技だ。
『今ならば』。(渡辺美優紀、山本彩)
歌い出しは渡辺。山本が続く。この2人の声は全く違い、容易に聞き分けられる。山本がドスの効いたきっぷのいい歌声なのに対して、渡辺はねっとりと纏わりつくような歌声だ。どちらがいいということではなく、それぞれの個性だ。過去のアイドルで言えば、渡辺満里奈と渡辺美奈代のようだ。
70年代、80年代の王道アイドルで、ねっとり系は、桜田淳子、甲斐智恵美、浅香唯、渡辺美奈代などが代表格だ。
歌詞は、2人の今のお互いへの思いを歌ったような言葉が並ぶ。しかし、この2人にしか当てはまらないような楽屋落ちではなく、普遍的な友情の歌、あるいは異性間の恋愛の歌とも解釈できる。山田菜々と山本彩のデュエット曲『友達』とも少し似ている。
『夢の名残り』。(渡辺美優紀)
この曲も渡辺のねっとりした歌唱が楽しめる。『やさしくするよりキスをして』で堪能した、ちょっとレトロっぽい歌唱だ。
グループを去る彼女自身の境遇と月の満ち欠けを重ねて歌っているという解釈もできるが、その比喩が難解だ。そもそも彼女がどういう理由で卒業するのかよくわかっていないが、「いつの日か帰って来る」「やりたいことをやるためにここから離れる」「待っててほしい夢の続き」とか、曖昧な歌詞でモヤモヤする。
チーム曲が3曲。どれもいまひとつの印象だった。
『空から愛が降って来る』。(チームN)
祭りばやしのような威勢の良い曲調。恋に落ちるのは、稲妻に打たれるような電撃的なものだはなく、雪や花粉のように静かに降り積もっているのだと歌っている。曲調と歌詞がややアンマッチか。
『最後の五尺玉』。(チームM)
恋は打ち上げ花火のように儚いものと歌っているのは、『僕の打ち上げ花火』にもあったレトリック。この歌でも、恋人と2人で花火を見ながら、夏の終わり、恋の終わりを予感している。
この2人はどこで花火を見ているのか。「ベランダに椅子」を出し、「冷えたスイカ」を食べながら、「扇風機」が何度も首を振っていることから、ホテルなどではなく、どちらかの自宅(実家)だと思われる。そんな親しい関係なのに、なぜ恋が終わろうとしているのかは不明だ。どちらかが大学生で帰省中、9月になれば都会へ戻ってひと夏の恋は終わるということだろうか。
この曲も曲調は威勢が良く、歌詞に似合っている。
『妄想マシーン3号機』。(チームBⅡ)
コミカルな歌だ。君のことが好きだけど、たまには他の女の子のことも気になる。そんな妄想くらいは許してほしいといった男子の勝手な妄想を歌っている。でも、そんな妄想マシーンも、彼女が壊してしまうというオチ。彼女の視点から歌っているパートもあり、楽しい。ただ「妄想マシーン」という道具立てに無理があり、素直に楽しめないのが残念。
『ショートカットの夏』については既に絶賛した。
須藤璃々花の個性的な歌声が存分に楽しめる曲だ。彼女の声は中性的で「僕」という男性人称で歌っても全く違和感がない。この曲をこのCDに収録したということは、渡辺美優紀が卒業した後のエースとして須藤を推していきたいという運営側のメッセージとも取れる。