NHKの朝ドラ『なつぞら』が完結した。後味も爽やかで、良いドラマだったと思う。
いろいろな見方ができるドラマだと思うが、女性の働き方を描いて、現在にも通じる内容だと感じた。
昭和40年代のアニメーション(当時は「漫画映画」と呼んだ)制作会社が舞台のため、一般企業とは多少異なっているとは思うが、多くの女性登場人物が、ほんとうに多様な働き方を示してくれた。
主人公のなつ(広瀬すず)は結婚後も会社(東洋動画)では旧姓で仕事を続ける。一人娘を出産後も、育児と仕事の両立に苦労しながらも、周囲の助けを受けながら好きな仕事を続けることができた。当初は会社を辞めて自宅で仕事をする夫(中川大志)が家事育児を引き受けてくれ、夫が再就職すると、保育所が見つからない間は元同僚の茜(渡辺麻友)に預かってもらう。茜に第二子ができると今度は兄(岡田将生)が助けてくれる。また、自分も夫と同じ会社(マコプロダクション)に転職して、夜は娘を職場に連れて行くことができるようになる。仕事が繁忙期に入ると北海道の母親(松嶋菜々子)が助けに来てくれる。
そういう周囲の助けが「恵まれすぎている」といった批判もあるようだが、そこはドラマだし、助けてあげたいと思わせるなつの頑張りもしっかり描かれていた。それに、周囲の助けに恵まれた人はそれに感謝して堂々と助けを受ければいいのだ。その人それぞれ、その人の環境の中で、選べる選択肢から選べばいいのは現実と同じだ。
だから、なつ以外の女性のそれぞれの選択も丁寧に描かれていた。
「もう一人のなつ」と呼ぶべき存在が茜だ。彼女も結婚後仕事を続け、職場では旧姓を使っていたが、長女の出産を機に会社を辞めた。会社から産休後復職する時は契約社員になると言われ、それに納得できず、悩んだ末に退職し育児に専念することを選んだ。結果としては育児に最高の喜びを見出し、退職してよかったと考える。更に、年の近いなつの娘を自宅で預かることも買って出て、なつを助ける。ところが、二人の娘がだいぶ大きくなると、「実家の母を説得」して、昼間だけ預かってもらい、夫(川島明)と同じ仕事に復帰するのだ。その理由が、「この作品は面白そうだから」。つまり仕事を選んでいるのだ。大事にされていないと感じた会社は退職するが、本当にやりたい仕事だったら、あらゆる手段を模索して働こうとする、ある意味、なつより柔軟でしたたかな生き方だ。
ドラマの最終週、仕事の納期ギリギリに大トラブルが発生、修羅場となった職場で「もうこれ以上仕事はできない」と一人キレたのが茜だった。「優れた作品を作るためには個人の生活を犠牲にしても仕方がない」という当時の(そして現代も)多数派の価値観に対して異論を唱えるのは、2人の娘の育児というより大切な価値観を持った茜しかいなかった。働く女性たちの日々発生している葛藤と究極の選択に目を背けず、しっかり描いたシーンだったと思う。(結果として納期にはなんとか間に合うのだが。)
そういう重要な役柄を、渡辺麻友は好演していたと思う。
結婚して一旦は会社を辞めた麻子(貫地谷しほり)は、子供ができなかったこともあり、自ら会社を作って仕事に復帰する。そしてかつての同僚達に声をかけ、仲間に引き入れる。これまた、したたかだ。自分自身も優秀なアニメーターだったが、経営の才能にも目覚め、ただいい作品を作りたいという職人肌の面々を上手に御しながら、作品としてもビジネスとしても成功させた。
なつの同僚桃代(伊原六花)は、結婚相手を見つけるため入社したと公言していたが、長く独身で仕事を続け、マコプロダクションに転職までする。仕事の楽しさに徐々に目覚めたのだ。
なつの同い年の姉妹である夕見子(福地桃子)も複雑だ。進歩的な考えの才女で、保守的な地元や実家を出て北海道大学に通うが、駆け落ち騒動を起こしたりして理想と現実のギャップに気づく。卒業後は地元農協に就職し、農業の改革に注力する。その後、幼なじみで菓子屋の雪次郎(山田裕貴)と結婚し、菓子屋でも改革に励んでいる。
なつの実の妹千遥(清原果耶)は、老舗割烹の跡継ぎ息子と結婚し、義父から料理人として仕込まれ、女将として切り盛りしている。夫の浮気で離婚するが、義母の計らいで割烹の女将はそのまま続けられることになった。一方、老舗レストラン川村屋のオーナー光子(比嘉愛未)は、経営に長けたキャリアウーマンそのものだったが、なつの兄と結婚し、その会社(声優プロダクション)を支える道を選ぶ。
専業主婦で大家族を支える富士子(松嶋菜々子)も、元踊り子で自由を愛する亜矢美(山口智子)も、どちらも自分の選択した人生を謳歌している。
どの女性も個性的で、他の人とは違う、自分自身が選んだ複雑な働き方をしている。またその時その時の環境に適応し、働き方を変えている。ある意味では、モーレツサラリーマンのような、なつの働き方が一番単純だったとも言える。
時代が変わって、現代でも女性の働き方は多様で、様々な障害に阻まれていることも多い。その現代からも見ても、共感するところの多いドラマだった。
蛇足だが、それは男性の働き方も同じだ。
マコプロダクションで生き生きと働いた面々にとって師匠格だった東洋動画の中さん(井浦新)は、最後まで東洋動画に残り、大会社の矛盾等とも折り合いをつけつつ、最後は管理職となって会社員生活を全うしていた。そういう働き方も彼の選択だ。
『なつぞら』に関する過去記事
その1
その2
(追記)ネット上で「夢を諦め、ワンオペ育児に取り組む茜さんが健気すぎる」との記事を発見した。大いに共感する。しかし、この記事が出た後に、茜さんも仕事に復帰することになる。ライフステージに合わせた柔軟な働き方と言え、私同様、この記事の筆者も喝采したことだろう。
いろいろな見方ができるドラマだと思うが、女性の働き方を描いて、現在にも通じる内容だと感じた。
昭和40年代のアニメーション(当時は「漫画映画」と呼んだ)制作会社が舞台のため、一般企業とは多少異なっているとは思うが、多くの女性登場人物が、ほんとうに多様な働き方を示してくれた。
主人公のなつ(広瀬すず)は結婚後も会社(東洋動画)では旧姓で仕事を続ける。一人娘を出産後も、育児と仕事の両立に苦労しながらも、周囲の助けを受けながら好きな仕事を続けることができた。当初は会社を辞めて自宅で仕事をする夫(中川大志)が家事育児を引き受けてくれ、夫が再就職すると、保育所が見つからない間は元同僚の茜(渡辺麻友)に預かってもらう。茜に第二子ができると今度は兄(岡田将生)が助けてくれる。また、自分も夫と同じ会社(マコプロダクション)に転職して、夜は娘を職場に連れて行くことができるようになる。仕事が繁忙期に入ると北海道の母親(松嶋菜々子)が助けに来てくれる。
そういう周囲の助けが「恵まれすぎている」といった批判もあるようだが、そこはドラマだし、助けてあげたいと思わせるなつの頑張りもしっかり描かれていた。それに、周囲の助けに恵まれた人はそれに感謝して堂々と助けを受ければいいのだ。その人それぞれ、その人の環境の中で、選べる選択肢から選べばいいのは現実と同じだ。
だから、なつ以外の女性のそれぞれの選択も丁寧に描かれていた。
「もう一人のなつ」と呼ぶべき存在が茜だ。彼女も結婚後仕事を続け、職場では旧姓を使っていたが、長女の出産を機に会社を辞めた。会社から産休後復職する時は契約社員になると言われ、それに納得できず、悩んだ末に退職し育児に専念することを選んだ。結果としては育児に最高の喜びを見出し、退職してよかったと考える。更に、年の近いなつの娘を自宅で預かることも買って出て、なつを助ける。ところが、二人の娘がだいぶ大きくなると、「実家の母を説得」して、昼間だけ預かってもらい、夫(川島明)と同じ仕事に復帰するのだ。その理由が、「この作品は面白そうだから」。つまり仕事を選んでいるのだ。大事にされていないと感じた会社は退職するが、本当にやりたい仕事だったら、あらゆる手段を模索して働こうとする、ある意味、なつより柔軟でしたたかな生き方だ。
ドラマの最終週、仕事の納期ギリギリに大トラブルが発生、修羅場となった職場で「もうこれ以上仕事はできない」と一人キレたのが茜だった。「優れた作品を作るためには個人の生活を犠牲にしても仕方がない」という当時の(そして現代も)多数派の価値観に対して異論を唱えるのは、2人の娘の育児というより大切な価値観を持った茜しかいなかった。働く女性たちの日々発生している葛藤と究極の選択に目を背けず、しっかり描いたシーンだったと思う。(結果として納期にはなんとか間に合うのだが。)
そういう重要な役柄を、渡辺麻友は好演していたと思う。
結婚して一旦は会社を辞めた麻子(貫地谷しほり)は、子供ができなかったこともあり、自ら会社を作って仕事に復帰する。そしてかつての同僚達に声をかけ、仲間に引き入れる。これまた、したたかだ。自分自身も優秀なアニメーターだったが、経営の才能にも目覚め、ただいい作品を作りたいという職人肌の面々を上手に御しながら、作品としてもビジネスとしても成功させた。
なつの同僚桃代(伊原六花)は、結婚相手を見つけるため入社したと公言していたが、長く独身で仕事を続け、マコプロダクションに転職までする。仕事の楽しさに徐々に目覚めたのだ。
なつの同い年の姉妹である夕見子(福地桃子)も複雑だ。進歩的な考えの才女で、保守的な地元や実家を出て北海道大学に通うが、駆け落ち騒動を起こしたりして理想と現実のギャップに気づく。卒業後は地元農協に就職し、農業の改革に注力する。その後、幼なじみで菓子屋の雪次郎(山田裕貴)と結婚し、菓子屋でも改革に励んでいる。
なつの実の妹千遥(清原果耶)は、老舗割烹の跡継ぎ息子と結婚し、義父から料理人として仕込まれ、女将として切り盛りしている。夫の浮気で離婚するが、義母の計らいで割烹の女将はそのまま続けられることになった。一方、老舗レストラン川村屋のオーナー光子(比嘉愛未)は、経営に長けたキャリアウーマンそのものだったが、なつの兄と結婚し、その会社(声優プロダクション)を支える道を選ぶ。
専業主婦で大家族を支える富士子(松嶋菜々子)も、元踊り子で自由を愛する亜矢美(山口智子)も、どちらも自分の選択した人生を謳歌している。
どの女性も個性的で、他の人とは違う、自分自身が選んだ複雑な働き方をしている。またその時その時の環境に適応し、働き方を変えている。ある意味では、モーレツサラリーマンのような、なつの働き方が一番単純だったとも言える。
時代が変わって、現代でも女性の働き方は多様で、様々な障害に阻まれていることも多い。その現代からも見ても、共感するところの多いドラマだった。
蛇足だが、それは男性の働き方も同じだ。
マコプロダクションで生き生きと働いた面々にとって師匠格だった東洋動画の中さん(井浦新)は、最後まで東洋動画に残り、大会社の矛盾等とも折り合いをつけつつ、最後は管理職となって会社員生活を全うしていた。そういう働き方も彼の選択だ。
『なつぞら』に関する過去記事
その1
その2
(追記)ネット上で「夢を諦め、ワンオペ育児に取り組む茜さんが健気すぎる」との記事を発見した。大いに共感する。しかし、この記事が出た後に、茜さんも仕事に復帰することになる。ライフステージに合わせた柔軟な働き方と言え、私同様、この記事の筆者も喝采したことだろう。