優勝候補のワリエワ選手(15歳)のドーピング問題で波乱となった女子フィギュアスケート。アクセル以外はジャンプの種類の見分けが付かないライトなファンではあるが、思うところを書いてみたい。
ドーピングの有無は別としても、「ロシアの選手は十代半ばでピークを迎え、使い捨てにされている」という批判がなされた。四回転ジャンプのような高難度の技は、体が成長しきらないうちが有利で、十代後半になるとできなくなる。また、幼いころからの過酷なトレーニングの影響で、故障や摂食障害などを起こして競技を離れる選手も多い。そのような批判である。実際、過去2大会のロシアのメダリストは、次の大会の代表選手にもなれなかった。こうした批判を受けて、五輪の出場可能年齢を引き上げようという議論もあるようだ。
この構図は、アイドルと似ていないか?
アイドルも、若いうちはちやほやされるが、年齢を重ねても長く活躍できる人は少ない。それは、可愛さだけでなく、別の魅力を身に付けた一部のアイドルだけだ。だからアイドルは一段低く見られ、「大人の歌手」に成長しないと短期間で消える、などと揶揄される。
私はそれでもいいと思っていた。長く続けることだけが価値ではない。輝きは一瞬でも、その短い期間に強い印象を残して引退するアイドルがあってもいいし、むしろ一瞬だからこそ青春の儚さやときめきを表現できるとも言える。そういうジャンルなのだ。刺身は日持ちしないが、日持ちする干物に劣っているわけではない。両者を比較することは意味がない。どちらも美味しい。若い時は刺身で、のちに干物に変化して活躍するアイドル、それもまたいい。
フィギュアスケートに話を戻そう。
採点競技である以上、より高得点が期待できる選手を育てるのは自然なことだ。高難度の技の得点が高いのならそれに挑戦するのがスポーツというものだ。そのこと自体を批判することはできない。実際、羽生結弦選手や平野歩夢選手の前人未到の技への挑戦は称賛されていた。ロシアの女子フィギュアスケート選手の高い技術が素晴らしいことには誰も異論ないだろう。
この文章を書くにあたって、1972年札幌五輪で3位になったジャネット・リン選手の演技動画を見てみた。スピンの途中で転んでしまったにもかかわらず芸術点で満点を出した審判がいたように、滑ることが楽しくて仕方ないといった喜びに溢れ、今見ても心を揺さぶられるような演技だった。あえて言えばアイドル性も非常に高かった。しかし、技の難易度で言えば、現在とは比較にならない牧歌的なものだった。ジャンプは全て2回転、滑るスピードも遅く、ステップもシンプルだった。時代とともに、用具や練習方法も進化するし、各選手が競い合うことでより高度な技を習得していくことは止めようがない流れなのだろう。
しかし、あまりに高度な技術への偏重が、健康面などに大きな弊害を伴い、長い目で見たらその競技の魅力を損なったり、競技者を減らしたりすることに繋がるのなら、見直しが必要だろう。採点基準やルールの見直しを図るべきなのだろう。と言っても、曖昧な「芸術性」「表現力」といった基準を過剰に取り入れるのも、それはそれで公平性が担保されない恐れがある。どういう基準にすればバランスが良いのかは、私のような素人が考えても仕方がないのでここでは論じない。
とは言え、ロシア以外では、長く第一線で競技を続ける選手も多い。浅田真央選手はおよそ10年間世界の第一線で活躍し、五輪もバンクーバー(2位)とソチ(6位)の2大会に出場した。世界選手権では4回優勝している。荒川静香選手も1回飛ばしで2回の五輪に出場している。村主章枝選手、宮原知子選手も活躍期間が長い。
イタリアのコストナー選手は、2006年荒川静香選手が優勝したトリノ大会に初出場し、その後3大会に出場した。キム・ヨナ選手が優勝した2010年のバンクーバー大会、ソトニコワ選手が優勝した2014年のソチ大会、ザキトワ選手が優勝した2018年の平昌大会まで4大会連続出場だ。
ロシアでも、以前はスルツカヤ選手(1998年長野大会から3大会に出場)のように長く活躍した選手もいた。当時は「使い捨て」ではなかったのだ。
そうした中で、私の印象に強く残っているのは、日系アメリカ人の長洲未来選手だ。彼女は日本開催のNHK杯に何度も出場し、日本でも馴染みの深い選手だ。彼女は2010年のバンクーバー大会で4位となったが、2014年のソチ大会は出場を逃し、2018年の平昌大会に再び出場し、団体戦でアメリカチームの銅メダル獲得に大貢献した。彼女にとって五輪唯一のメダルである。特筆すべきは、24歳のこの時に、高難度のトリプルアクセルを成功させたということだ。五輪でトリプルアクセルを成功させた女子選手は現在まで5人しかいないそうだが、もちろんその中で最年長での成功だ。年齢が若いほど高難度ジャンプには有利という定説への力強いアンチテーゼとなっている。
アイドルに例えれば、20代、30代になっても、10代の若いアイドルに負けない新鮮さ、可愛らしさを発揮できることもあるのだという事例だと思う。
以前掲載した、浅田真央選手とキム・ヨナ選手に関する記事はこちら。
リプニツカヤ選手に関する記事はこちら。
ドーピングの有無は別としても、「ロシアの選手は十代半ばでピークを迎え、使い捨てにされている」という批判がなされた。四回転ジャンプのような高難度の技は、体が成長しきらないうちが有利で、十代後半になるとできなくなる。また、幼いころからの過酷なトレーニングの影響で、故障や摂食障害などを起こして競技を離れる選手も多い。そのような批判である。実際、過去2大会のロシアのメダリストは、次の大会の代表選手にもなれなかった。こうした批判を受けて、五輪の出場可能年齢を引き上げようという議論もあるようだ。
この構図は、アイドルと似ていないか?
アイドルも、若いうちはちやほやされるが、年齢を重ねても長く活躍できる人は少ない。それは、可愛さだけでなく、別の魅力を身に付けた一部のアイドルだけだ。だからアイドルは一段低く見られ、「大人の歌手」に成長しないと短期間で消える、などと揶揄される。
私はそれでもいいと思っていた。長く続けることだけが価値ではない。輝きは一瞬でも、その短い期間に強い印象を残して引退するアイドルがあってもいいし、むしろ一瞬だからこそ青春の儚さやときめきを表現できるとも言える。そういうジャンルなのだ。刺身は日持ちしないが、日持ちする干物に劣っているわけではない。両者を比較することは意味がない。どちらも美味しい。若い時は刺身で、のちに干物に変化して活躍するアイドル、それもまたいい。
フィギュアスケートに話を戻そう。
採点競技である以上、より高得点が期待できる選手を育てるのは自然なことだ。高難度の技の得点が高いのならそれに挑戦するのがスポーツというものだ。そのこと自体を批判することはできない。実際、羽生結弦選手や平野歩夢選手の前人未到の技への挑戦は称賛されていた。ロシアの女子フィギュアスケート選手の高い技術が素晴らしいことには誰も異論ないだろう。
この文章を書くにあたって、1972年札幌五輪で3位になったジャネット・リン選手の演技動画を見てみた。スピンの途中で転んでしまったにもかかわらず芸術点で満点を出した審判がいたように、滑ることが楽しくて仕方ないといった喜びに溢れ、今見ても心を揺さぶられるような演技だった。あえて言えばアイドル性も非常に高かった。しかし、技の難易度で言えば、現在とは比較にならない牧歌的なものだった。ジャンプは全て2回転、滑るスピードも遅く、ステップもシンプルだった。時代とともに、用具や練習方法も進化するし、各選手が競い合うことでより高度な技を習得していくことは止めようがない流れなのだろう。
しかし、あまりに高度な技術への偏重が、健康面などに大きな弊害を伴い、長い目で見たらその競技の魅力を損なったり、競技者を減らしたりすることに繋がるのなら、見直しが必要だろう。採点基準やルールの見直しを図るべきなのだろう。と言っても、曖昧な「芸術性」「表現力」といった基準を過剰に取り入れるのも、それはそれで公平性が担保されない恐れがある。どういう基準にすればバランスが良いのかは、私のような素人が考えても仕方がないのでここでは論じない。
とは言え、ロシア以外では、長く第一線で競技を続ける選手も多い。浅田真央選手はおよそ10年間世界の第一線で活躍し、五輪もバンクーバー(2位)とソチ(6位)の2大会に出場した。世界選手権では4回優勝している。荒川静香選手も1回飛ばしで2回の五輪に出場している。村主章枝選手、宮原知子選手も活躍期間が長い。
イタリアのコストナー選手は、2006年荒川静香選手が優勝したトリノ大会に初出場し、その後3大会に出場した。キム・ヨナ選手が優勝した2010年のバンクーバー大会、ソトニコワ選手が優勝した2014年のソチ大会、ザキトワ選手が優勝した2018年の平昌大会まで4大会連続出場だ。
ロシアでも、以前はスルツカヤ選手(1998年長野大会から3大会に出場)のように長く活躍した選手もいた。当時は「使い捨て」ではなかったのだ。
そうした中で、私の印象に強く残っているのは、日系アメリカ人の長洲未来選手だ。彼女は日本開催のNHK杯に何度も出場し、日本でも馴染みの深い選手だ。彼女は2010年のバンクーバー大会で4位となったが、2014年のソチ大会は出場を逃し、2018年の平昌大会に再び出場し、団体戦でアメリカチームの銅メダル獲得に大貢献した。彼女にとって五輪唯一のメダルである。特筆すべきは、24歳のこの時に、高難度のトリプルアクセルを成功させたということだ。五輪でトリプルアクセルを成功させた女子選手は現在まで5人しかいないそうだが、もちろんその中で最年長での成功だ。年齢が若いほど高難度ジャンプには有利という定説への力強いアンチテーゼとなっている。
アイドルに例えれば、20代、30代になっても、10代の若いアイドルに負けない新鮮さ、可愛らしさを発揮できることもあるのだという事例だと思う。
以前掲載した、浅田真央選手とキム・ヨナ選手に関する記事はこちら。
リプニツカヤ選手に関する記事はこちら。