『君とどこかに行きたい』。
5月に発売された「今年の夏は暑くなりそう」という歌い出しの歌を、9月になって聴いているのはひとえに私の怠慢なのだが、新曲がコンスタントに出ないからつい発売時に見逃してしまうという面もある。最低でも半年に1曲くらいは出してほしい。
一聴して鉄道会社とのタイアップだと分かる曲だ。「列車に乗って君とどこかに行きたい」という内容。SKE48はトヨタ自動車とのタイアップで、「2人でどこかドライブに行こう」といった曲を何曲も出しているが、調べたら、HKT48のこの曲はやはりJR九州とのタイアップ曲だった。2組の選抜メンバーには「つばめ選抜」「みずほ選抜」との名称がついていて、いずれも九州を走る特急の名前だ。私の学生時代、寝台特急「みずほ」をよく利用していたことを懐かしく思い出す。
2つの選抜メンバーによる2種類の歌唱が収録されているが、ソロ部分で田中美玖と運上弘菜の声の違いが分かる以外は、それほど違わなかった。音源として2パターン収録する意味は乏しいと感じたが、ミュージックビデオやテレビ、ステージでのパフォーマンスは2組の個性がもう少し分かりやすく出るのだろう。もしかしたら衣装も違っているのかもしれない。
歌詞の内容は、友達から先へ進めない2人だが、列車に乗ってどこかに行けば恋人になれるかもしれないといった内容。友達とか言いながら、彼女がうなじを見せるとか既に充分親密だ。「泊りがけは叱られるかな」とか言いながら、お揃いのパジャマを買って泊まる気満々だ。「手を繋いで眠ると同じ夢を見るかも」とか、「朝まで喋り明かす恋の形もある」とか、アイドルらしくメルヘン風な表現だが、でもやることはやるのだろう。このあっけらかんとした感じは『ハワイへ行こう』で感じたのと同じだ。
HKT48で鉄道と言うと、名曲『大人列車』をすぐに連想する。後日談の『大人列車はどこを走っているのか』も。これらの曲は、間に合わなかった別れ、過ぎた青春の後悔を、ほろ苦く歌っているが、『君とどこかに行きたい』は青春現在進行形の、爽やかな楽曲だ。鉄道が出て来る歌では『メロンジュース』の方に近いだろう。
AKBグループでは、NGT48の初オリジナルソング『Maxとき315号』も名曲だ。イントロが発車の時のチャイムのようだし、ギターの間奏にも旅情をそそられる。歌い出しの歌詞が川端康成『雪国』へのリスペクト。
『7時12分の初恋』や『快速と動体視力』にも電車が出てくるが、いずれも通学電車の歌で、日常を離れどこかに旅をしたいという『君とどこかに行きたい』とは世界観が異なる。
『センチメンタルトレイン』も通学電車の片思いの歌だが、AKBグループを列車に例えて、幾多のメンバーが乗降しながらも走り続ける存在だと歌っているようにも解釈できる歌詞だ。この曲には旅情を感じる。
他のアイドルの鉄道関係の歌、しかも通学ではなくどこかに旅する歌を思い出してみる。
山口百恵『いい日旅立ち』は、当時の国鉄とのタイアップソング。谷村新司作品だ。「ああ、日本のどこかに私を待ってる人がいる」というフレーズが印象的。旅に出る歌のようだが、列車でとは実は歌っていない。実際の旅と、人生という旅路と、いずれのことも歌っているような深い味わいがある歌だ。
松田聖子『赤いスイートピー』は「春色の汽車に乗って」彼と出かける歌。付き合って半年経っても手を握らない奥手の彼と比べれば、『君とどこかに行きたい』の彼は遥かに積極的だ。
本田美奈子『青い週末』も忘れられない名曲だ。彼と海に出かけて、帰りの駅のホームや列車の座席での心情を歌った曲だ。この曲でも「友達から恋人に変る」と歌っている。大人っぽい曲が多い本田美奈子には珍しい、王道の青春ソングだ。ホームで肩が触れると気まずくなって少し離れるなど、微笑ましい。
なお、『君とどこかに行きたい』のCD売り上げはオリコン初週2位に終わり、HKT48が持っていた「女性アーティストのデビューから連続1位」記録が13作で止まったという。記録はいつか途切れるものだし、そういうことに拘って、CD発売時期が遅れるより、早く数多く発売される方がいい。
『シンデレラなんていない』。(ネタバレあり)
駅の階段で偶然に出会って一目ぼれし、強引にお茶に誘って楽しく話し込んだが、12時になるとそそくさと帰っていく彼女。もしかしてシンデレラなのかも、という歌。ミステリー仕立てで、この先どうなるのだろうと引き込まれて聞いたが、最後の落ちは唐突過ぎていただけない。落ちはむしろない方が良かった。
彼女は「彼の家に行ったと 僕は知ってしまった」。なぜ彼の家に行ったと分かるのか疑問だ。もしかして彼女の後をつけたのか。だとしたらストーカーそのもので怖い。確かにこの男は普通じゃない。初対面でお茶に誘うのが強引すぎるし、楽しく話し込んだと思っているのは彼の方だけで、彼女は恐怖心から席を立てなかっただけかもしれない。
別の解釈で、「きっと彼の家に行ったんだろう」と勝手に悲観的に決めつけているのではないか。これもありうる。思い込みが激しそうな男だから、慌てて帰る様子に、そう思い込んでしまったのだろう。
いずれの解釈も成り立つが、彼女が夜中の12時までこの男に付き合った心境が理解できない。普通なら急に声を掛けられたら警戒するし、よしんばお茶に付き合うにしても、そんな夜中まで一緒にはいないものだ。ましてや彼がいるのに。それとも、彼の家に行く約束が深夜だったから、それまでのちょうどいい時間つぶしと思ったか。だとすると彼女の方がしたたかだ。
色々と謎が多い歌だ。曲調は不思議な詞にマッチしている。
『UFO募集中』。
退屈な授業中に、宇宙人の彼が現れないかと妄想する他愛のない歌で、楽しい。曲調も賑やかだ。
宇宙人の彼のことを歌った歌と言えば、最も有名なのはピンクレディー『UFO』だろう。「地球の男に飽きたところよ」というのが決めセリフ。ピンクレディーの代表曲に相応しく、詞、曲、編曲、振付や衣装、全てが完璧な名曲だ。
それから小泉今日子『迷宮のアンドローラ』は、「一緒に銀河に連れて行ってほしい」と歌う。「何度も宇宙遊泳させたくせに」という歌詞がエロティック。
秋元康もうしろゆびさされ組に『コスモス通りの異星人』という曲を書いている。立場が逆転していて、突然現れた異星人の方が地球の女の子に惚れてしまう歌だ。大したことがない異星人が、女の子に翻弄される様子が楽しかった。
『この道』。
森保まどかの卒業ソング。「これからも歩き続けるこの道」と、バラードでしっとりと歌い上げている。1期生で大人っぽいキャラクター、得意なピアノで注目されたこともあった。出身地である長崎の名物「角煮まん」のCMにも起用されていた。充実したHKT時代だったのだろうと思う。最後に気持ちよく歌えるソロ曲も与えられて、幸せな卒業だと思う。
改めてソロ歌唱を聴くと、思ったより幼い声だ。大人びたルックスとのギャップを感じた。
5月に発売された「今年の夏は暑くなりそう」という歌い出しの歌を、9月になって聴いているのはひとえに私の怠慢なのだが、新曲がコンスタントに出ないからつい発売時に見逃してしまうという面もある。最低でも半年に1曲くらいは出してほしい。
一聴して鉄道会社とのタイアップだと分かる曲だ。「列車に乗って君とどこかに行きたい」という内容。SKE48はトヨタ自動車とのタイアップで、「2人でどこかドライブに行こう」といった曲を何曲も出しているが、調べたら、HKT48のこの曲はやはりJR九州とのタイアップ曲だった。2組の選抜メンバーには「つばめ選抜」「みずほ選抜」との名称がついていて、いずれも九州を走る特急の名前だ。私の学生時代、寝台特急「みずほ」をよく利用していたことを懐かしく思い出す。
2つの選抜メンバーによる2種類の歌唱が収録されているが、ソロ部分で田中美玖と運上弘菜の声の違いが分かる以外は、それほど違わなかった。音源として2パターン収録する意味は乏しいと感じたが、ミュージックビデオやテレビ、ステージでのパフォーマンスは2組の個性がもう少し分かりやすく出るのだろう。もしかしたら衣装も違っているのかもしれない。
歌詞の内容は、友達から先へ進めない2人だが、列車に乗ってどこかに行けば恋人になれるかもしれないといった内容。友達とか言いながら、彼女がうなじを見せるとか既に充分親密だ。「泊りがけは叱られるかな」とか言いながら、お揃いのパジャマを買って泊まる気満々だ。「手を繋いで眠ると同じ夢を見るかも」とか、「朝まで喋り明かす恋の形もある」とか、アイドルらしくメルヘン風な表現だが、でもやることはやるのだろう。このあっけらかんとした感じは『ハワイへ行こう』で感じたのと同じだ。
HKT48で鉄道と言うと、名曲『大人列車』をすぐに連想する。後日談の『大人列車はどこを走っているのか』も。これらの曲は、間に合わなかった別れ、過ぎた青春の後悔を、ほろ苦く歌っているが、『君とどこかに行きたい』は青春現在進行形の、爽やかな楽曲だ。鉄道が出て来る歌では『メロンジュース』の方に近いだろう。
AKBグループでは、NGT48の初オリジナルソング『Maxとき315号』も名曲だ。イントロが発車の時のチャイムのようだし、ギターの間奏にも旅情をそそられる。歌い出しの歌詞が川端康成『雪国』へのリスペクト。
『7時12分の初恋』や『快速と動体視力』にも電車が出てくるが、いずれも通学電車の歌で、日常を離れどこかに旅をしたいという『君とどこかに行きたい』とは世界観が異なる。
『センチメンタルトレイン』も通学電車の片思いの歌だが、AKBグループを列車に例えて、幾多のメンバーが乗降しながらも走り続ける存在だと歌っているようにも解釈できる歌詞だ。この曲には旅情を感じる。
他のアイドルの鉄道関係の歌、しかも通学ではなくどこかに旅する歌を思い出してみる。
山口百恵『いい日旅立ち』は、当時の国鉄とのタイアップソング。谷村新司作品だ。「ああ、日本のどこかに私を待ってる人がいる」というフレーズが印象的。旅に出る歌のようだが、列車でとは実は歌っていない。実際の旅と、人生という旅路と、いずれのことも歌っているような深い味わいがある歌だ。
松田聖子『赤いスイートピー』は「春色の汽車に乗って」彼と出かける歌。付き合って半年経っても手を握らない奥手の彼と比べれば、『君とどこかに行きたい』の彼は遥かに積極的だ。
本田美奈子『青い週末』も忘れられない名曲だ。彼と海に出かけて、帰りの駅のホームや列車の座席での心情を歌った曲だ。この曲でも「友達から恋人に変る」と歌っている。大人っぽい曲が多い本田美奈子には珍しい、王道の青春ソングだ。ホームで肩が触れると気まずくなって少し離れるなど、微笑ましい。
なお、『君とどこかに行きたい』のCD売り上げはオリコン初週2位に終わり、HKT48が持っていた「女性アーティストのデビューから連続1位」記録が13作で止まったという。記録はいつか途切れるものだし、そういうことに拘って、CD発売時期が遅れるより、早く数多く発売される方がいい。
『シンデレラなんていない』。(ネタバレあり)
駅の階段で偶然に出会って一目ぼれし、強引にお茶に誘って楽しく話し込んだが、12時になるとそそくさと帰っていく彼女。もしかしてシンデレラなのかも、という歌。ミステリー仕立てで、この先どうなるのだろうと引き込まれて聞いたが、最後の落ちは唐突過ぎていただけない。落ちはむしろない方が良かった。
彼女は「彼の家に行ったと 僕は知ってしまった」。なぜ彼の家に行ったと分かるのか疑問だ。もしかして彼女の後をつけたのか。だとしたらストーカーそのもので怖い。確かにこの男は普通じゃない。初対面でお茶に誘うのが強引すぎるし、楽しく話し込んだと思っているのは彼の方だけで、彼女は恐怖心から席を立てなかっただけかもしれない。
別の解釈で、「きっと彼の家に行ったんだろう」と勝手に悲観的に決めつけているのではないか。これもありうる。思い込みが激しそうな男だから、慌てて帰る様子に、そう思い込んでしまったのだろう。
いずれの解釈も成り立つが、彼女が夜中の12時までこの男に付き合った心境が理解できない。普通なら急に声を掛けられたら警戒するし、よしんばお茶に付き合うにしても、そんな夜中まで一緒にはいないものだ。ましてや彼がいるのに。それとも、彼の家に行く約束が深夜だったから、それまでのちょうどいい時間つぶしと思ったか。だとすると彼女の方がしたたかだ。
色々と謎が多い歌だ。曲調は不思議な詞にマッチしている。
『UFO募集中』。
退屈な授業中に、宇宙人の彼が現れないかと妄想する他愛のない歌で、楽しい。曲調も賑やかだ。
宇宙人の彼のことを歌った歌と言えば、最も有名なのはピンクレディー『UFO』だろう。「地球の男に飽きたところよ」というのが決めセリフ。ピンクレディーの代表曲に相応しく、詞、曲、編曲、振付や衣装、全てが完璧な名曲だ。
それから小泉今日子『迷宮のアンドローラ』は、「一緒に銀河に連れて行ってほしい」と歌う。「何度も宇宙遊泳させたくせに」という歌詞がエロティック。
秋元康もうしろゆびさされ組に『コスモス通りの異星人』という曲を書いている。立場が逆転していて、突然現れた異星人の方が地球の女の子に惚れてしまう歌だ。大したことがない異星人が、女の子に翻弄される様子が楽しかった。
『この道』。
森保まどかの卒業ソング。「これからも歩き続けるこの道」と、バラードでしっとりと歌い上げている。1期生で大人っぽいキャラクター、得意なピアノで注目されたこともあった。出身地である長崎の名物「角煮まん」のCMにも起用されていた。充実したHKT時代だったのだろうと思う。最後に気持ちよく歌えるソロ曲も与えられて、幸せな卒業だと思う。
改めてソロ歌唱を聴くと、思ったより幼い声だ。大人びたルックスとのギャップを感じた。