● インターネット選挙になるべきだった選挙
-- あなたも公職選挙法に「違反」してみませんか
諸野脇 正@インターネット哲学者
■ あなたはホームページを「頒布」したことがありますか
今回の選挙は、日本における初めてのインターネット選挙になるべきだった。
しかし、そうはならなかった。残念である。
その大きな原因は「規制」の存在である。
朝日新聞は言う。
ホームページなら、アクセスしてもらえば、だれにでも見せることがで
きる。費用も格段に安い。有権者の反応を探れるのも利点だ。若者に接近
できるのも魅力だろう。
本来ならこの総選挙こそ、インターネットの出番のはずだった。候補者
が公約を訴えるのにこれほど便利な手段はないからだ。
ところが、前議員たちのホームページは公示後、いっせいに閉じられた
り内容が更新されなくなったりしている。公職選挙法で総選挙期間中の配
布が規制されている「文書図書」に当たる可能性があるとの理由による。
それを逆手にとって、画面には何も表示せず、音声だけで主張を訴える
ホームページに切り替えた民主党の前議員もいる。〔『朝日新聞』200
0年6月21日〕 |
「音声だけ」とは異常である。文章の方が、「主張」を理解するためには適している。
なぜ、こんな異常な状態になってしまったのか。
公職選挙法を見てみよう。
衆議院(比例代表選出)議員又は参議院(比例代表選出)議員の選挙以
外の選挙においては、選挙運動のために使用する文書図画は、次の各号に
規定する通常葉書並びに第1号及び第2号に規定するビラのほかは、頒布
することができない。〔第142条〕 |
分かりにくい。分かりやすく言えば次のようになる。〈葉書・ビラなどは、決められたものしか配ったらいけないよ。それ以外のものを配ったら、法律違反になるよ。(比例代表は別だけどね。)〉
公職選挙法で、葉書とビラの数などが決まってる。それら以外の「文書図画」は、「頒布」できないのである。もし、政策を主張するホームページの公開が、「文書図画」の「頒布」ならば、公職選挙法違反である。逮捕されるおそれがある。だから、上のような異常な状態になっているのである。
しかし、政策を主張するホームページを公開することは、「文書図画」を「頒布」することなのか。もしそうならば、次のような会話がされていても不思議はない。
「最近、ホームページを頒布したよ。」
「へー、頒布したんだ。」
「大人気で、たくさん頒布できたよ。」
私は、このような会話は聞いたことがない。
皆さんは、どうだろうか。やはり、このような会話は聞いたことがないであろう。
だとすれば、「頒布」ではない。
■ ホームページの公開は選挙事務所内の資料室の公開
ホームページの公開と「文書図画」の「頒布」とは、どう違うのか。ビラは読みたくなくても、新聞に折り込まれている。葉書も読みたくなくても、ポストに届いている。しかし、ホームページは、本人が望まなくては見ることはない。ホームページを見た人は、アドレスを自分で打ち込んだのである。または、リンクを自分でクリックしたのである。ホームページは、自発的に行動しなくては見ることが出来ない。
だから、「ホームページの頒布を受ける」という文言には、違和感があるのである。「頒布を受ける」のではなく、「ホームページにアクセスした」のである。「ホームページを見た」のである。
次のような比喩が正しい。
〈ホームページの公開は、選挙事務所内の資料室の公開である。〉
選挙事務所内に資料室がある。さまざまな政策の資料がある。その資料室は、一般に公開されている。そこに、自発的に閲覧希望者が来る。いろいろな資料を閲覧して、帰っていく。
おこなわれているのは、〈資料室の公開〉である。「文書図画」の「頒布」ではない。これは、公職選挙法に違反していない。
だから、民主党の前議員は、異常なホームページを作る必要はなかった。
「音声だけ」にする必要はなかった。
また、前議員達は、ホームページの更新を止める必要はなかった。まして、ホームページを閉鎖する必要はなかった。
■ 禁止されていない行為はしてもよい
もう一度、公職選挙法をみていただこう。
衆議院(比例代表選出)議員又は参議院(比例代表選出)議員の選挙以外の選挙においては、選挙運動のために使用する文書図画は、次の各号に規定する通常葉書並びに第1号及び第2号に規定するビラのほかは、頒布することができない。〔第142条〕 |
どう読んでも、これはホームページの利用を禁止している文言ではない。
ホームページについては規定が無いのである。この法律を作ったときに、ホームページなど無かったのだから、規定がないのは当たり前である。
それにもかかわらず、なぜ前議員は自己規制したのか。規定が無いことをするのが恐かったのであろう。それでつい自治省に問い合わせてしまう。
自治省は、問い合わされれば、規定を出来るだけ広く適用しようとする。
つまり、規制しようとする。「公職選挙法違反のおそれがある。」などと言う。仕方なく、前議員は自己規制する。
自治省に聞いてはいけなかったのである。
禁止されていない行為はしてもよいのである。規定がない行為はしてもよいのである。規定がない場合は、自分の判断で正しい行為をすればよいのである。
規定がない行為は出来ないと考えていては、新しい事態に適応できなくなる。社会の進歩が遅くなる。 |