東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会
トップページ
概要版
中 間 報 告(概要)
平成23年12月26日
東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会
目 次
1 はじめに 1
2 事故の概要 1
3 事故発生後の政府諸機関の対応の問題点 2
(1)原子力災害現地対策本部の問題点 2
(2)原子力災害対策本部の問題点 3
(3)残された課題 4
4 福島第一原発における事故後の対応に関する問題点 4
(1)1 号機のIC の作動状態の誤認 4
(2)3 号機代替注水に関する不手際 5
(3)1 号機及び3 号機の原子炉建屋における爆発との関係 6
5 被害の拡大を防止する対策の問題点 6
(1)初期モニタリングに関わる問題 6
(2)SPEEDI 活用上の問題点 7
(3)住民避難の意思決定と現場の混乱をめぐる問題 8
(4)国民・国際社会への情報提供に関わる問題 9
(5)その他の被害の拡大を防止する対策についての考察 9
6 不適切であった事前の津波・シビアアクシデント対策 10
(1)不適切であった津波・シビアアクシデント対策 10
(2)東京電力の自然災害対策の問題点 12
7 なぜ津波・シビアアクシデント対策は十分なものではなかったのか 13
8 原子力安全規制機関の在り方 14
9 小括 15
10 おわりに 16
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
● 2011.12.26 中間報告
★Ⅶ これまでの調査・検証から判明した問題点の考察と提言
10 おわりに
・・・福島第一原発で平成23 年3 月11 日に深刻な原子力災害が発生した直後、
関係者から、「想定外の事象が起こった。」との発言が相次いだ。「想定外」
とは、「このような事象が起こることを考えていなかった。」との意味であ
ろう。しかし、多くの国民はこの言葉を聞いたとき、「考えていなかった。」
という意味だけではなく、「想定できないことが起こったのだから仕方がな
い。自分たちには責任がない。」という意味を持つ発言と受け取り、責任逃
れの発言だとの印象を持った。当事者たちは「想定外」というが、このよ
うな厳しい状況を想定することが関係者の責務であったはずだ、と考えた
のである。
「想定」と「想定外」とは一体どのような含意を持った言葉だろうか。「想
定する」とは、考える範囲と考えない範囲を決め、境界を設定することで
ある。人間は物事を考えるとき、考える範囲を決めないときちんとものを
考えることができない。そこで、物事を考えようとするとき、どの範囲ま
でを考えることにするかという境界を設定する。この境界を決めた後は、
その境界の内部について詳細に考えを進め、考えを作り上げていく。
それでは、境界はどのようにして設定されるのであろうか。境界は様々
な制約条件の影響を受けて定まる。経済的な制約はもとより、社会的制約、
歴史的制約、地域的制約等の様々な制約があり、その制約を満たすように
境界が設定されていく。これらの制約は、明示的に示されているものばか
りではない。どこにも文言として明示はされていない、関係者間の暗黙の
前提という形をとる制約も存在するということに注意が必要である。
一方、境界の外側については「考えない」と決めたことになるので、考
えなくなる。いったん想定が行われると、どのような制約の下にその境界
が作られたのかが消えてしまう。ことが起こった後で見えるのは、この想
定と想定外との境界だけである。境界がどのようにして決まったかを明ら
かにしなければ、事故原因の真の要因の摘出はできない。
今回の事故では、例えば非常に大きな津波が来るとか、長時間に及ぶ全
交流電源の喪失ということは十分に確率が低いことと考えられ、想定外の
事柄と扱われた。そのことを無責任と感じた国民は多いが、大事なことは、
なぜ「想定外」ということが起こったかである。
原子力発電は本質的にエネルギー密度が高く、一たび失敗や事故が起こ
ると、かつて人間が経験したことがないような大災害に発展し得る危険性
がある。しかし、そのことを口にすることは難しく、関係者は、人間が制
御できない可能性がある技術であることを、国民に明らかにせずに物事を
考えようとした。それが端的に表れているのが「原子力は安全である。」と
いう言葉である。一旦原子力は安全であると言ったときから、原子力の危
険な部分についてどのような危険があり、事態がどのように進行するか、
またそれにどのような対処をすればよいか、などについて考えるのが難し
くなる。「想定外」ということが起こった背景に、このような事情があった
ことは否定できない。
何かを計画、立案、実行するとき、想定なしにこれらを行うことはでき
ない。したがって、想定すること自体は必ずやらなければならない。しか
し、それと同時に、想定以外のことがあり得ることを認識すべきである。
たとえどんなに発生の確率が低い事象であっても、「あり得ることは起こ
る。」と考えるべきである。
発生確率が低いからといって、無視していいわ
けではない。起こり得ることを考えず、現実にそれが起こったときに、確
率が低かったから仕方がないと考えるのは適切な対応ではない。確率が低
い場合でも、もし起きたら取り返しのつかない事態が起きる場合には、そ
のような事態にならない対応を考えるべきである。今回の事故は、我々に
対して、「想定外」の事柄にどのように対応すべきかについて重要な教訓を
示している。
今回の原子力災害は、まだ終わってはいない。現在も、長期間にわたる
避難生活を強いられ、あるいは、放射能汚染による被害に苦しんでいる多
くの人々がいる。被ばくによる健康への不安、空気・土壌・水の汚染への
不安、食の安全への不安を抱いている多くの人々がいる。こうしたことを
銘記しながら、平成24 年夏頃に予定している最終報告に向けて、当委員会
は更に調査・検証を続けていく。
|