おしゃれ泥棒 (HOW TO STEAL A MILLION 1966)
オードリー・ヘップバーンとウィリアム・ワイラー監督といえば、すぐに思い出すのが「ローマの休日」。某小国の王女と新聞記者とのロマンチックで切ない恋の夢物語。あまりにも有名な“世紀の妖精”オードリー・ヘップバーンのアメリカ映画デビュー作だ。それから13年目。
こちらは、美術品の収集家に見せかけた贋作づくりの天才の一人娘ニコルとBurglar(家屋に侵入する泥棒 夜盗)シモン・デルモットの組み合わせ。ニコルは父親の仕事を止めさせようといつも胸を痛めているし、泥棒と名乗ったシモンの正体は実は違っていたりするのだが・・・・・・。
基本的にこうした2人の組み合わせを持ってくれば、”HOW TO STEAL A MILLION”の原題そのままのコメディタッチのストーリーになるのがごく自然な結果だ。実際に、映画のポスターやDVDのパッケージからすぐに内容が想像できるように、パリを舞台にしたロマンチックでちょっぴりスリルも楽しめるスクリューボール・コメディとなっている。
このスクリューボール・コメディ。正確な定義は、1930~40年代前半に量産されたコメディの総称でハリウッド黄金期の恋愛コメディを指す。スクリューボールとはもともと野球でいうところの「左ピッチャーが投げるシュートボール」。数少ない左ピッチャーが投げる変化球だ。転じて「奇人・風変わりな人間」の意味で使われる。つまり、スクリューボール・コメディとは、ちょっと風変わりなカップルが引き起こす恋愛コメディのこと。
こうした自由闊達でちょっと男勝りなヒロインが、上流階級に属するちょっと変わり者の主人公(男性)と反目しあううちに、いつしか恋に落ち大混乱のあげく恋のハッピーエンドを獲得するというストーリー。現在の日本や韓国の恋愛ドラマに脈々と受け継がれているまさにラブ・コメの王道で、あれこれ手を変え品を変えドラマのシチュエーションを変えて作り続けられている。
さて、本作。自分の家に忍び込んできた泥棒。銃が暴発し、そいつを拳銃で撃ってしまう。こんなシチュエーションでスタートする。実際にこんな状況になったら、どんなに2人が美男美女でも普通は恋愛感情は起きないだろう。ところが、考えられないことが起こるのがフィクション。2人は協力して最新式の厳重な警戒下にある美術館から美術品を盗み出すことになる。
何度も繰り返す警報の誤動作から、警報システムを止めてしまう人為的なミスは、最近の映画にもあったような気がするがどの映画だったか思い出せないでいる。たぶん、この映画がはじめてなのだろう。完璧なシステムの穴はとんでもないところに存在するものなのだ。
父親の作った贋作をぜひ盗み出すため夜の美術館に2人で潜入。数々のドタバタの末、体が密着せざるを得ない狭い小部屋の中でお互いの恋心を認めあう2人。このあたりは、スラップスティックのドタバタからシチュエーション・コメディの要素まであり興味深い。エンディングは、名作”ローマの休日”で見せたような大円団のどんでん返し。見事なオチに感心させられる。
ウィリアム・ワイラー監督が贈る元祖ラブ・コメ。ストーリーに色々荒さが目立つが、誰が書いてもこんなストーリーにしかならないだろう。
オードリー・ヘップバーンと2人きりで暗く狭い部屋に閉じ込められたら・・・・・・天国だろうなあ。って、こんなオチしか書けないボクは、やっぱりスクリューボールしか投げられない!?