3年前,グランゼコルのひとつEcole des Mines de Paris(パリ高等鉱山学
校???)で開催された国際会議に出かけた時のこと。
自分が失業中であり,かつ,この時付いたスポンサーからの旅費が少なめだったこともあって,滞在費をできるだけ安くするため,泊まった宿から国際会議場の学校までは,毎日,メトロで通っていた。
パリのメトロは,日本と同じシステムである。自動販売機でチケットを購入し,切符を自動改札機に入れて刻印し,遊園地の入り口によくあるバーを押して中に入る。
各線の終着駅名の表示が通路の各曲り角に出ているので,その表示に従って歩くと目的のプラットホームへ出ることができる。
また,出るときも同様に切符を自動改札機に通してバーを押し外にでる。
車内が混雑している場合、ドア付近にある折りたたみの座席は使用しないなど,JRの電車のシステムと同じである。
数十年ぶりに訪れた花の都は,いわゆる人種的マイノリティで溢れていた。
事前に知人から情報を仕入れていたものの,メトロではその比率が高く驚いた。
駅構内や車内でのスリには注意。荷物には常に気を配り、なるべく人と接触しないようにとの知人のアドバイスにも,メトロ車内を見て素直にうなずけた。
さて,メトロに乗り始めた次の朝,改札機を抜けようと切符を入れてバーを押したところ,近くで小さな悲鳴が聞こえたような気がした。振り返ったものの,改札を待つ人の群れに特にいつもと変わったところが無かったので,不審に思いながらもホームに足を進めた。
ホームに着いたところで,後ろから
「"Monsieur le sot, qui est-ce qui vous a fait si hardy de le mettre l醇A??????"」
と声を掛けられた。見ると,年のころ二十歳前後のアフリカ移民系の若い男が怒った顔で立っている。その傍には,年老いたジプシー風の老婆が,なみだ目でこちらを見ていた。
先日引退したジダンを連想させる堀の深い顔立ちの若者は,こちらがフランス語が全く理解できないにも拘らず,さらに
「"Ce n'est pas ce que je vous dis encore, Monsieur le sot.????" ]
と問い詰めてくる。
こんな時,人間って不思議なもので,例え,全く知らない言語でも,なんとなく相手の言っていることが理解できるようになる。
「なんで,あんたは改札で他の人を通してあげないんだ?」
とフランス語?で言っているような気がした。
とりあえず,何が起こって,何で文句付けられてるのか判らないので
一応,「Sorry, I can not speak French」と返事をする。
すると,男は諦めたようにクビを振り,後ろに立つ老婆に自分の口を指差して
「こいつ,フランス語がダメなんだ・・・」
と説明したように見えた。
この出来事が気になったので,メトロを利用するときは,他の人がどのようにするのか注意をするようになった。改札を抜ける時になにか非常にまずいことをしたのかも知れない。
で,わかったのは,パリのメトロの自動改札は,笑ってしまうほど故障が多いこと。
刻印した切符でも,何度かは改札を通ることができること。
最後に,マイノリティなど弱小市民においてはキセルをするものが非常に多く,パリ市民はこれに寛容で,自分の切符を使って改札を通してあげることなどを学んだ。そして、僕は、あの時に改札でスタックしていたおばあさんを助けてあげられなかったことを深く恥じた。
所変われば,文化が変わる。マイノリティに席巻されつつあるパリは,また,違った文化を育てつつある。恐らくは,日本では生育することのない文化であろう。
そして,この僕も,壊れた改札機(壊れるのは切符の磁気記録?)で通れなくなった時に,僕の前を歩いていた若きパリジェンヌに改札を空けてもらった。
また,最終電車で通れなかった改札を,カラードの警官に通してもらったこともあった。
パリが抱えるマイノリティ市民の問題は,今後も,多く露見していくであろうが,みんなで助け合って生きていく姿に単純に感動した。
【 Don't think. Feel‥ 】 by BLUS LEE