思い出したくも無い嫌な思い出の一つである。突風のような地吹雪でリフトが止まったのだった。下から吹き上げてくる地吹雪に凍えて思わず身をよじったところ、ウエアが簡単にすべり、むき出しのプラスチック製のリフトの座席から落ちて両手でぶら下がる格好となった。下は整地されたゲレンデである。しばらく、座席にしがみついていたが、どうなるものではない。リフトの高さが3mぐらいだから、うまく着地すればケガをしないだろう。
幼い頃に見た若大将という映画のシリーズには、シングルリフトからスキーヤーが次々に飛び降りてスキーをするシーンがあった。その当時の映像は、今で言うエクストリーム・スキーのノリだったのだろうか。もちろん、リフトから飛び降りれば、搬機が揺れて他のスキーヤーが転落しかねないので、今は厳重に禁止されている。考えてみれば、もともと、スキーは山男のスポーツであり、女性と一緒に楽しむようなスポーツではなかったのかもしれない。スキーへの単独行も、今よりは市民権を得ていたはずだ。♪娘さん良く聞けよ 山男にゃほれるなよ・・・。♪遭難まではしなくても、今のような安全なビンディングシステムのなかったその昔は、スキーヤーには骨折や捻挫と常に隣りあわせだった。さらに、整地されていないゲレンデで起こる雪崩れなど、ある意味、命をかけてスキーをしていたと言っても過言ではない。その意味で、スキーをするような山男は、いつまでも夢を追いかけている大人になりきれない男たちだったと言える。
・・・リフトからぶら下がっていたぼくは、リフトが動き出す前に意を決して、しがみついていた座席から手を離した。リフトで飛び降りれる場所はそこしかなく、さらに上に行けばネットを張ったもっと深い谷底に落ちてしまうことになる。ゲレンデへの着地はジャンプの選手のようにぴたりと決まり、何事も無かったようにぼくは滑り出した。まるで、昔見た映画のようにだ。・・・ただ、座席に片方の手袋が引っかかって、ポールといっしょに座席に取り残されてしまった・・・。前の席に座っていた会社の同僚は、地吹雪で止まったリフトの後ろで起こったぼくの転落事故が分からなかったらしい。ただ、リフトが大きく揺れたこと、リフトから降りるときに、後ろの席に乗ったはずのぼくの姿が見えずに、そのかわり片方の手袋とポールが引っかかっていたので、いったいどうしたんだろうと思ったらしい。この時、ゲレンデの正面にあるレストハウスの一角のミニFM局のスタジオの女性は、ぼくがリフトからぶら下がってそして転落するまでの間、無言になっていた。リフトの支柱に取り付けられたスピーカーから聞こえる彼女の声がしばらく途切れたのだった。きっと、スタジオの窓越しに吹雪の中で止まったリフトを見て、そしてリフトから落ちたぼくを見て、彼女はスタジオの中でオロオロしていたのかもしれない。平成元年2月24日大喪の礼の日のことだった。国民がこぞって弔意を表するなか、ぼく達はスキーをしていたのだった。
幼い頃に見た若大将という映画のシリーズには、シングルリフトからスキーヤーが次々に飛び降りてスキーをするシーンがあった。その当時の映像は、今で言うエクストリーム・スキーのノリだったのだろうか。もちろん、リフトから飛び降りれば、搬機が揺れて他のスキーヤーが転落しかねないので、今は厳重に禁止されている。考えてみれば、もともと、スキーは山男のスポーツであり、女性と一緒に楽しむようなスポーツではなかったのかもしれない。スキーへの単独行も、今よりは市民権を得ていたはずだ。♪娘さん良く聞けよ 山男にゃほれるなよ・・・。♪遭難まではしなくても、今のような安全なビンディングシステムのなかったその昔は、スキーヤーには骨折や捻挫と常に隣りあわせだった。さらに、整地されていないゲレンデで起こる雪崩れなど、ある意味、命をかけてスキーをしていたと言っても過言ではない。その意味で、スキーをするような山男は、いつまでも夢を追いかけている大人になりきれない男たちだったと言える。
・・・リフトからぶら下がっていたぼくは、リフトが動き出す前に意を決して、しがみついていた座席から手を離した。リフトで飛び降りれる場所はそこしかなく、さらに上に行けばネットを張ったもっと深い谷底に落ちてしまうことになる。ゲレンデへの着地はジャンプの選手のようにぴたりと決まり、何事も無かったようにぼくは滑り出した。まるで、昔見た映画のようにだ。・・・ただ、座席に片方の手袋が引っかかって、ポールといっしょに座席に取り残されてしまった・・・。前の席に座っていた会社の同僚は、地吹雪で止まったリフトの後ろで起こったぼくの転落事故が分からなかったらしい。ただ、リフトが大きく揺れたこと、リフトから降りるときに、後ろの席に乗ったはずのぼくの姿が見えずに、そのかわり片方の手袋とポールが引っかかっていたので、いったいどうしたんだろうと思ったらしい。この時、ゲレンデの正面にあるレストハウスの一角のミニFM局のスタジオの女性は、ぼくがリフトからぶら下がってそして転落するまでの間、無言になっていた。リフトの支柱に取り付けられたスピーカーから聞こえる彼女の声がしばらく途切れたのだった。きっと、スタジオの窓越しに吹雪の中で止まったリフトを見て、そしてリフトから落ちたぼくを見て、彼女はスタジオの中でオロオロしていたのかもしれない。平成元年2月24日大喪の礼の日のことだった。国民がこぞって弔意を表するなか、ぼく達はスキーをしていたのだった。