読売新聞に連載されていた「時代の証言者」、脚本家山田太一の巻は終わった
2月9日から読売新聞に連載されていた「テレビドラマ 山田太一」は、昨3月17日の27回目で終了した。山田太一も倉本聰などとともに、その名前だけで舞台やテレビを観たりする好きな脚本家の一人であり、この連載は毎回楽しみにして読んだ。
「ある男がなぜ殺人を犯したかより、なぜあの奥さんと結婚したのかの方がよりスリリングだ」とのアメリカの脚本家の文章を引用して、「自分が漠然と考えていたことを表現してくれたという思いがしました」と書いている。
そして、「自ら殺人などの犯罪は禁じ手としました。犯罪ものは時代や社会のゆがみを描きやすい。でも、多くの人は犯罪に走る手前で踏みとどまっている。ドラマチックじゃないけれど、大多数の人の現実を書こうと」と書いている。まさに、山田太一の世界を表現する言葉だと思う。
そんな山田太一の連載を読んで、彼が脚本書いた作品が観たくなった。1982年に笠智衆が主演したNHKドラマ「ながらえば」、そして85年の「冬構え」、87年の「朝の秋」の三部作をはじめ、たくさんのテレビドラマを録画したビデオが我が書棚にある。
今日、その中の一本の「ながらえば」を観た。とても素晴らしいドラマとなっている。少しだけ老いてきただけに、我が身になぞらえて、とても感慨深く観た。涙が止まらなかった。
ところで、このドラマの笠智衆について、「自分なりに工夫したつもりだが、笠さんの無手勝流にはかなわなかった」との宇野重吉の漏らした言葉を、連載の中で紹介している。こうしたたくさんのエピソードを、連載ではとても楽しく、かつ興味深く読ませてもらった。笠智衆も宇野重吉も今は、鬼籍に入っている。とても寂しい。
それにしても今回の連載では、松竹の助監督としての大船撮影所時代の話やテレビドラマ、舞台、小説と山田太一のたくさんのフィールドについて、語っていただいている。全27回を切り抜いて保存した。なお、写真には山田太一が新聞に連載した二つの小説『丘の上の向日葵』(1989年、朝日新聞社刊)、『君を見上げて』(1990年、新潮社刊)等を貼っておく。