tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

経済整合性と格差社会化阻止:労働組合の視点

2016年02月01日 10時51分25秒 | 経済
経済整合性と格差社会化阻止:労働組合の視点
 今春闘における労働側の主張は著しく冷静です。連合の新年会で、昨年は安倍総理が、今年は黒田日銀総裁が賃上げにエールを送りましたが、連合はさめています。エールを追い風に「大幅賃上げを!」などという姿勢は微塵もありません。

 連合の要求基準は、昨年は2パーセント以上でしたが、今年は2パーセント程度です。最大の単産であるUAゼンセンの要求基準は、昨年の3パーセントを下回る2パーセントと設定していますし、春闘のリーダーとみなされるトヨタ労組の要求は、昨年の6000円に対し今年は半分の3000円に決める方針と報道されています。

 なぜ労組は賃上げ要求基準を下げているのでしょうか。今の日本の労働組合には「多々ますます弁ず」といった非論理性は、どう見ても無いようです。
 経済情勢その他の環境条件を十分に考えた合理的な賃上げ要求にすべきだという極めて論理的、理性的、冷静な判断に立っているという印象です。

 なぜ昨年より低く設定するのかという理由については、
・昨年は消費増税で物価が大幅に上がって、ある程度は補てんする必要があったが、今年はその影響はない。
・昨年は円安による企業業績の思わざる向上があったが、今年からはその影響は消え、通常の経済に戻る。
・格差拡大を阻止するため、労働者全体の賃金を底上げすることが大事で、大企業の適切な行動、具体的には大企業の下請け単価の改善で、中小・下請け企業の支払い能力改善(サプライチェーン全体の底上げ)が必要になる。したがって大企業での目一杯の賃金引き上げは求めない
などが主な理由のようです。

 春闘が終わって結果がどう出るかはこれからの問題ですが、ここまで合理的な配慮をして賃金要求基準を組み立てる労働組合があるのは、世界広しといえども多分日本だけでしょう。
 こうした配慮は、明らかに、よりよい経済・社会を作るために、政府や経営者こそが考えなければならない領域に、労働組合がまず踏み込んだものと言えます。

 最近よく聞く意見に、「今の労働組合は弱すぎる」というのがあります。「失われた20年でずっと春闘もなかったから、春闘の仕方を忘れたのか」などといった揶揄もあるようです。

 しかし日本の春闘の歴史を見てくれば、今の労働組合の姿勢は、生産性三原則や経済整合性理論に則り、労使の信頼関係に基づく成熟した労使関係を、生真面目に維持・追求しようとしていることの証左と判断する方が妥当なのではないでしょうか。