英最高裁前で、ウーバーの運転手に従業員としての権利を認める判決が出たことを喜ぶ原告=ロンドンで19日、AP共同
インターネットなどを通じて単発の仕事を請け負う「ギグワーカー」に対する企業の責任が問われている。英最高裁は19日、米配車サービス大手ウーバー・テクノロジーズの運転手を同社の「従業員」と認定した。ウーバー側は「個人事業主」と訴えていたが、これを退けた。コロナ禍で世界的に広がった宅配サービスなど他のギグワークにも影響を与える可能性がある。
英国の元運転手2人が2016年、従業員としての地位の確認を求める訴えを雇用裁判所に提訴。下級審で勝訴したが、ウーバー側が上訴し、最高裁に持ち込まれた。
裁判で、ウーバー側は「運転手と乗客をつなぐ技術提供者に過ぎず、運転手はウーバーのために働いているのではない」と主張し、運転手との雇用関係を否定していた。
これに対し、最高裁判決は料金を決めるのは同社であり、運転手は運行ルートや運転手評価システムの利用など同社の制限の下で働いていると指摘。「運転手が収入を増やすには、ウーバーの手法に沿いながら、より長時間働くほかない。従属、依存の立場にある」と結論づけた。判決により、同社は最低賃金以上の支払いや有給休暇の付与などの待遇改善を迫られる 欧米メディアは、ウーバー側の「提訴時点より運転手の雇用条件は改善しており、裁判に参加していない運転手への影響は限られる」との声明を紹介する一方、「ギグワーカーの権利を巡り、分水嶺(ぶんすいれい)と言える判断」「ギグワークに関わる他の企業や労働者にとっても前例になる」との専門家の見方を伝えている。
ウーバーを巡っては、フランスの裁判所も「運転手は従業員」とする判断を出している。米国ではカリフォルニア州が昨年1月、「ギグワーカー保護法」を施行し、個人事業主ではなく企業の従業員として扱うよう義務づけた。ところが、11月の住民投票で配車サービス運転手を規制から除外する提案が賛成多数で承認され、従来通り個人事業主として働くことになった。ウーバーなどの支援を受けた住民団体が活動しており、企業の巻き返しも起こっている。
国内では、ウーバーの日本法人が12年に設立され、東京や名古屋でタクシー事業が順次展開されてきた。タクシー以上に普及しているのが、16年9月に始まった料理宅配(ウーバーイーツ)だ。好きな時間に働ける気軽さから、当初は都市部の若者を中心に配達員の登録が増加し、加盟店も増えている。最近は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、収入が減少した中年男性や外国人など配達員の幅も広がっている。
自由な働き方の陰で、会社側が配達員の報酬体系を一方的に変更したり、配達員がけがをした際の補償が不十分だったりするなど課題もある。国内でも配達員からの不満が相次ぎ、19年10月には配達員17人がけがの補償など改善を求め、労働組合を結成。配達中の事故の実態について自主的に調査をするなどし、会社側に対応を求めてきた。しかし、会社側は「配達員は、労働組合法上の『労働者』に該当しない」として、組合側が求める団体交渉に応じていない。【ロンドン横山三加子、待鳥航志】