今なにしてる         (トミーのリペイント別館)

カメラ修理などについてご紹介します。
富塚孝一
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岡谷光学 Lord ⅣB ブラックが来ました

2012年12月12日 22時31分21秒 | インポート

Dscf032704 小型ですけど、ずっしりと重いLord ⅣBが来ました。1955年製の距離計連動カメラで、レンズはHighkor 4cm f2.8と当時としては明るいレンズを搭載した高級な作りのカメラです。ブラックモデルは高いのでしょ。ファインダー、レンズなどに曇りがあり、全体のメンテナンスをします。特にシボ革ですが、この頃の材質はすでに風化しており、この個体は、上からと透明保護剤を塗られているようです。オーナーさんからは、シボ革も交換ご希望です。

Dscf032803 いろいろと特徴を持ったアイディアを盛り込まれた作りですね。底部のスプロケット軸ボタンを押すと、ピンセット先のギヤが上昇して(上のギヤに接触)バネにより手前のレバーがギヤの下に入ってロックされ、多重撮影が出来ます。右端の片に付くボタンを押し込むと、ロックは解除される仕組みです。

Dscf032902 本体のダイカストも非常にがっしりとした作りです。ファインダーはプリズム製を奢ってありますね。独特な見え方が分かりますかね。左の巻き戻しレバー(撤去中)は面白いギミックで飛び出してきます。

Dscf033002 シャッターはSEIKOSHA-MXと信頼性が高いです。巻上げは2回巻上げですので、本体側とのリンケージのタイミングを狂わせてしまうと、正常に作動しなくなります。

Dscf033101 海外に合った個体でしょうか? レンズは清掃により、非常にきれいです。

Dscf033201 巻上げ部分。2回巻上げですので少々厄介です。カムのタイミングを狂わすと正常に作動しなくなります。

Dscf033301 底部の巻上げ機構。リンケージのピボット部磨耗により、だいぶガタが出ていますね。ラッチェット留めにトラブルが出やすいようです。右のシャフトはフィルムカッター。ギロチンとか言うんですかね。

Dscf033401 ↑上のラチェット留めを解除させるリンケージのピボット部の磨耗により、作動量が少なく、ラチェットの最後で引っかかる時がありました。作動量を増やす加工をしてあります。で、レリーズボタンを注目です。今は2回巻上げの1回目を巻いたところ。

Dscf033501 2回目を巻上げると・・レリーズボタンがぴょこんと飛び出して来ましたね。すると、トップカバーの上にオレンジ線が見えるわけです。

Dscf033601 このレンズの化粧リングね。普通はプレスで作りますが、この部品は挽き物で製作されています。よって、かっちり重いです。数が出ないのでプレス型を作らなかったのか、とにかく、この頃は道具として良いものを作っていると思います。

Dscf033901 シボ革ねぇ。もう10年以上前に専門メーカーから仕入れておいたシボ革の中から、これニコン用だったかな? 当時カメラメーカーに納めていたメーカーの製品です。今では手に入りません。まだ種類は在庫していますが、これにしましょうかね。

Dscf034101 ところが、古いシボ革の剥離が大変です。すでにぐずぐずに風化しているところに、当時の接着剤は剥離が困難です。ちょうど、卒業証書が入っているワニ筒に貼ってあるような材質ですね。出来るだけオリジナルが良いのですが、触っている間に、どんどん削られていく状態なので、実用とするには交換は仕方がないと思います。

Dscf033903 オリジナルのシボ革(紙?)は厚さ0.2mmしかありませんので、カメラ側の貼り込み深さも非常に浅く設計されていますが、現在のビニールシボ革(0.4~0.5mm)をそのまま貼るとでっぱり気味となって雰囲気が良くありません。市販の型抜き両面テープ品を貼ってあるのを見ますが、ピタッと決まっているものに出会ったことがありません。当然、そのまま使用したのでは良い結果は得られませんので調整をしてあります。それでも前面のダイカスト面はまだ良いのです。シボのパターンも、このカメラに良く合っていると思います。グリップ感も格段に良くなっています。

Dscf034001 問題は裏蓋でした。剥離時の画像を撮り忘れましたが、元々、0.2mmのシボ革を貼る設計のため、貼り込みの余裕が無く、しかも、画像前面の開閉鍵との接合部分は窪んでいてシボ革が密着しない。また、背面は内側の内面反射防止のスリットがそのまま逆パターンで出ていてフラット面ではないのです。薄い紙なら貼れると言う設計です。一般的に開閉鍵部分はネジ止めで分離できる構造が多いのですが、このカメラはカシメとなっており、分離出来ないことが、シボ革の貼り込みを困難にしています。

Dscf034102 なかなか意欲的なギミックを持ったカメラですね。巻き戻しダイヤルと見える部分を引き出すと、クランクが出現します。ちょっと、苦肉の設計とも見えなくは無いですが・・

Dscf034202 ピンセット先のレバーを上げておくと、ヘリコイドの回転途中でクリック感が出て止まるところがあります。絞りを5.6右のに合わせるとスナップ撮影モードとなるようです。

Dscf034301 レンズシャッターカメラですから巻上げストロークは1回で充分可能と思いますが、2回巻上げとしていることで、機構の複雑化や作動部の磨耗が目に付いたカメラでしたね。しかし、材質や加工などは非常にコストを掛けたもので、現在でも名機と言われて評価が高いのには納得します。この時代にブラックモデルと言うのも珍しいですが、塗装の下地に黒めっきを施してあり、手抜きのない物作りが見て取れます。真鍮地が露出した方が良い方には残念ですけどね。