今なにしてる         (トミーのリペイント別館)

カメラ修理などについてご紹介します。
富塚孝一
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きれいな三光PENの巻

2019年04月14日 20時29分58秒 | ブログ

ミノルタ・レポのオーナーさんから追っかけで、きれいな三光PEN #1147XXが来ました。カニ目ネジを見ると過去に分解を受けていますが、取りあえず問題はないようですのでこのままでも・・

 

それではお仕事にならないのでO/Hをしておきますが、ヘリコイドのスリ割りを滑らせていますね。初期のスリ割りは幅が薄く、以後の広くなったスリ割りに合わせた工具ですとセット出来ないのです。で、滑らせてしまうのですね。全体的に他の部分のスリ割り幅は薄く、製造時に工具が掛かりにくいので設計変更されたのでしょう。

販売価格からしてコストをギリギリに切り詰めているので、カムはプレスで打ち抜いたのみで表面処理もしてありません。よって錆びだらけ。磨いておきます。

 

 

この頃のファインダーの対物レンズは樹脂製です。この時代に実用化され始めたのですが、これもコストの関係で採用されたのでしょう。しかし、何故か茶色の接着剤が使われているので、表から見えてしまうのですね。現代の品質管理からするとアウトです。以後はレンズはガラス製となって、接着剤もアラルダイトに変更され、四角に墨塗りを施して接着面が見えないようにしてあります。

これね。駒数ガラスなどはアラルダイト接着なのに、速乾の接着剤を使用する必要があったのでしょうね。だからと言って茶色の接着剤しか無かったのかよぉ・・

 

 

清掃・再接着をする場合、樹脂製は難儀です。茶色の接着剤を除去するのに溶剤を使えない。レンズが溶けてしまいます。まぁ、二度と分解など考えていない設計でしょう。

 

ファインダーのハーフミラーは金コートの頃で劣化が進んでいて悩みましたが、オリジナル性を重視して交換はしていません。その他のレンズはガラス製ですが、クラックが入っていますね。

 

 

洗浄をして二軸を組んで行きます。駒数ギヤの設計が以後と異なります。また、ダイヤルカバーは初期のためネジを使わない熱カシメのため分解は出来ません。分解は想定していないカメラでしょう。

 

ダメかなぁと、確認したらやっぱりダメでした。初期のスプールのスリップ機構は内径に拡張バネを入れてあるので、長い年月の間にストレスが掛かって樹脂が割れてしまうのです。これは、この設計の個体の半分程度に発生しています。以後はスプール軸そのものの設計を変更していますので、部品単位の互換はありません。

 

別の個体から割れの発生していないスプールを調達して交換します。

 

 

シャッターは特に問題はないので洗浄・注油に留めて置きます。

 

 

カム板を取り付けます。

 

 

接眼レンズの茶色の接着剤を除去して清掃後、接着をしました。墨塗りをすれば良いのですが、するとオリジナル仕様ではなくなりますのでやりません。

 

 

レンズは奇跡的にきれいです。しかし、それが疑念にもなるのですね。後玉は曇りが多いですが、簡単に交換も出来ますからね。

 

 

組立完成で、トップカバーとドッキングさせる前の状態。過去の資料を調べていないのですが、ファインダーのダストカバーが金属性となっています。この個体より後の12、13万台付近では紙製です。その後工場製のPENになると金属製となっています。三光PENは途中で修復されてオリジナルでない部分もありますから何とも言えません。また、組立後巻上げがロックしない現象が発生しました。本体ダイカストとシャッターユニットとの位置とレリーズシャフトの長さの関係性により発生する不具合ですが、三光PENの場合、レリーズボタンの高さ調整機構(ネジ)が無いので、簡単に調整が出来ません。これらも生産の立ち上がりで生産数が伸びなかった原因でしょうね。以後は調整ネジが付いてシャッターが切れるレリーズボタンの位置(高さ)を調整出来るようになっています。駒数カニ目ネジと巻上げダイヤルのネジは初期ですから正ネジです。駒数ガラスにはクラックがありますが、目立ちませんので研磨に留めてあります。

吊環ですが、本来はトップカバー面と合うように斜めにネジが切れられているはずですが、この個体は水平です。よって、吊環を締め込んで行くと上部に隙間が空いてしまいます。

 

三光の頃は、少し製造時期がズレるだけで仕様変更がありまして、まるでHONDA S600のようです。私も細かな仕様の違いを出来るだけメモに残しているのですが、過去に修理のために部品を入れ替えられている個体も多い訳ですから完全というものはありません。11万台としては驚異的にきれいな個体には違いありません。

 

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