これもカメラ店様経由のご依頼です。PEN-FT #2058XXと初期ではないけど、10万台と同様な仕様の個体です。平成3年と6年に修理を受けたようですが、最後は「修理不能」の判定となったようです。ここまで使ってもらえばメーカーさん冥利に尽きると思いますが、他の個体を使った方が簡単なのに何で直す決断をされたのでしょう? まぁ、直せないと言われたら意地でも直しますけどね。
何度も修理を受けているのでシボ革の接着でドロドロの状態です。巻上げが固着で作動せずという状態ですが、まず、原因の特定をするために分解します。
オレンジ色の太いリード線に替えてありますね。露出計はCdsからのリード線が欠落していて作動しなかったはずです。今回は露出計は無視で・・まず、巻上げユニットのリンクバネが外れていることによる巻上げ固着がありましたが、原因はそれだけではありませんね。シャッターに根本的な問題があります。
メインバネが折れていますね。材質はスェーデン鋼なので、しなやかで強いトルクを発生するバネですが、無理なテンションを掛けたりすると折れます。まぁ、20万台ですと自然に折れる場合もありますね。
こういう状態です。
ハーフミラーも、これでは見えなかったでしょうね。
内部の汚れも激しい状態です。すべて分解をして洗浄をします。
シャッターユニットを超音波洗浄をして点検していきます。使い込まれた個体としてはスローガバナーの摩耗も少なく、意外に大丈夫なようです。ピンセット先のレバーはシャッタースピード「B」で回転するハンマーを止める役目をしますが、片方に熱処理が入っていますね。この頃だけの処理です。
シャッターバネ交換に伴うテンション調整をしてあります。変更前のバネは条数(巻数)が少ないため巻き上げによるストレスを受けやすく、よって折れやすいのです。変更後のバネは真鍮のスプリングホルダーを廃して、その分条数を増やして耐久性を上げています。結果的にシャッターのテンションも上がってバネが折れることも少なくなりました。
まぁ、使い込まれた20万台のジャンク機ですから覚悟はしていましたが、やはり不安定なところがあります。前板と組み合わせて、またリターンミラーユニットに悩まされることになります。ヤレヤレ・・
ご依頼にはありませんが、接眼枠が全然ない状態ですので、補修痕のある接眼枠を見つけて来ました。
画像ではそれほど汚れているように見えませんが、かなり使い込まれたことが分かるダイヤルです。洗浄をしてから取り付けます。
何とかここまで来ましたよ。変更前の消耗したユニットの組合せは作動の安定性が悪くて折り合いを付けることが難しいです。電源用のリード線は新製で配線していません。
レリーズボタンのメッキの剥離具合で、どのくらいシャッターを切られたか推測できます。
最近、ここまで塗装が剥離した裏蓋は見ませんね。
三脚を多用した撮影が多かったのでしょう。真鍮地が出るほど使い込まれたボトムプレートは初めて見ました。
ということで、棺箱に両足を突っ込んでいたような個体を引き戻しました。オーナーさんは何故この個体を直そうと思ったのでしょう? 現在ならもっと程度の良い中古は安価に手に入るのにね・・この後、文字の塗装剥がれを修正して終了です。