店内には、十人足らずのお客が居た。
カウンターに陣取りバーテンダーと話しに興ずる者、何やらボソボソと話す三人連れ、ボックスでホステスの嬌声に戯れる四人連れ、様々だった。
井上と彼は、奥まったボックスに案内された。
淡いピンク系の照明が、壁際に掛けてあるボックスだった。 . . . 本文を読む
二月も終わる或る日、井上係長の声掛かりでクラブに、お供することになった。
麗子との突然の別れから、なかなか立ち直れずにいた彼だった。
いつもの覇気がない彼だった。
井上としても、今までの彼の精勤ぶりからは想像の出来ない状態に、苦言を呈してはみた。
しかし
「すみません。ちょっと疲れが…」と言葉を濁す。
「失恋でもしたか?」と、冗談交じりの声にも、
「はい? ええ。あ、いえそんなことは」
と、力な . . . 本文を読む
「あなたは母親のことを美しいと感じていますか?」
[日本人は、母親の美しさに厳しい]
小学生たちは、はにかみながらも嬉しそうに、お母さんがキレイなときを教えてくれています。
「嬉しいときが、喜んでいるときが、キラキラとしてキレイ!」なんだそうです。「PR by conecc」
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「麗子さん、結婚するんですよ。卒業後に、すぐにでも、らしいです」
「えっ!?なんだい、それ。それって、おかしいぜ。だって、御手洗くん。どういうことなの?遊びだって、ことか!許せんな、君みたいな純な男を弄ぶなんて」 . . . 本文を読む
彼女と別れた今、彼は放心状態に陥っていた。
「結婚するわ」
その一言が彼の心に、憧れとしての麗子ではなく、生身の麗子としての存在を植え付けた。
今にして思えば、彼の目に映っていたのは麗子には間違いないのだが、麗子の瞳に映る己を見ていたような気がしてならなかった。 . . . 本文を読む
麗子は、彼からの言葉を拒んだ。言いかける言葉を遮って言う。
「何も言わないで、わかっています。聞きたくない、それは。
ごめんなさいね、今まで。
彼に抑え続けられる毎日の、憂さ晴らしに貴男を苛めていたのよ、きっと。
そういうことにしておいて」 . . . 本文を読む
彼は、一気に吐き出した。途中、口を挟もうとした麗子を制してまくし立てた。
「でも、僕には怒れない。麗子さんの気まぐれに振り回されても、僕にはどうすることもできない。
麗子さんは、ぼくの、ぼくの、その、何ていうか…」
彼は耳たぶまでも赤くしながら、最後は呟くように、小声となった。 . . . 本文を読む