6日(木).いつも気の毒に思う光景があります ターミナル駅やちょっとした大きな駅の街頭でコンタクトレンズのチラシを配布している若者たちです
多分アルバイトだと思いますが,見ていると誰もチラシを受け取りません
私も絶対に受け取りません.受け取ったら次の瞬間からどこに捨てるか考えなければならないからです
いったいコンタクトレンズの需要はどれだけあるのか,と非常に疑問に思います
何年前かは忘れましたが,実に頭の良いチラシ配布員がいました 彼は帽子をかぶっているのですが,人が近くに来ると目の前で帽子を脱いでチラシを渡すのです.すると不思議なもので,多くの人は受け取っていました
私も思わず受け取ってしまいました
人を動かすには他人と同じことをやっていたのではダメで,どんな小さなことでも”工夫”なり”戦略”なりが必要だ,ということを教えられました
今そういうクレバーなチラシ配布員は見かけません.お陰様で受け取ることはありません
ということで,わが家に来てから今日で738日目を迎え,横浜音楽祭のビニール袋を前に何やらブツブツ言っているモコタロです
ご主人さまは横幅に,いや,横浜に音楽を聴きにいったようだ
閑話休題
昨夕,横浜みなとみらいホール(小)でフォーレ四重奏団のコンサートを聴きました プログラムは①ブラームス「ピアノ四重奏曲第1番ト短調」,②ムソルグスキー「組曲”展覧会の絵”」(編曲:フォーレ四重奏団&グリゴリー・グルツマン)です
「フォーレ四重奏団」はドイツのカールスルーエ音楽大学を卒業した4人のメンバーが1995年に結成したピアノと弦楽による四重奏団です
第一ヴァイオリン=紅一点のエリカ.ゲルトゼッツァー,ヴィオラ=サーシャ・フレンブリング,チェロ=コンスタンティン・ハイドリッヒ,ピアノ=ディルク・モメルツという4人のメンバーは,結成から20年あまり変わっていないとのことです
フォーレ四重奏団の演奏は1日(土)にトッパンホールでモーツアルトとブラームスの「ピアノ四重奏曲第2番」を聴いたばかりですが,両曲とも素晴らしい演奏でした 横浜でのプログラムはCDにも録音しているブラームスの「ピアノ四重奏曲第1番ト短調」と,初めてピアノ四重奏版で聴くムソルグスキーの「展覧会の絵」なので期待が高まります
みなとみらいホールの大ホールは何度か聴いたことがありますが,小ホールは初めてです 大ホールと同じ建物の6階にあり,全440席のこじんまりしたホールです.自席は14列4番,左ブロック右から2つ目です.会場は文字通り満席です
会場の照明が消えて4人のメンバーが登場しますが,紅一点の第1ヴァイオリン・エリカさんが松葉杖をついて現れたのには驚きました どうやら左足を痛めたようです
演奏に悪影響が出ないか心配です
1曲目はブラームス「ピアノ四重奏曲第1番ト短調」です ブラームスはピアノ四重奏曲を3曲作っていますが,20代前半の1855年頃 同時に着手し,第1番は1861年9月に完成しました.この曲は彼らのCDで予習しておいたので,全4楽章のメロディーが一通り頭に入っています
この曲は,第1楽章「アレグロ」,第2楽章「間奏曲:アレグロ・マ・ノン・トロッポ」,第3楽章「アンダンテ・コン・モート」,第4楽章「ジプシー風ロンド:プレスト」から成ります 第1楽章は冒頭ピアノの印象的なメロディーから入りますが,様々なメロディーが出現しブラームス独自のほの暗い情熱を帯びた音楽が展開します
重厚な音楽は さながら交響曲を聴いているかのようです
第2楽章のメランコリックな音楽,第3楽章の深い感動の音楽に続き,第4楽章のジプシー風ロンドを迎えます
この楽章に至って,今まで抑えていた感情を一気に爆発させるがごとく,4人は情熱的な演奏でブラームスのロマンティシズムを表出します
圧倒的なフィナーレでした
若き日のブラームスの情熱や悲哀が込められた素晴らしい演奏でした 会場いっぱいの拍手に4人はカーテンコールで呼び戻されますが,エリカさんの入退場には松葉杖が使われるので,何度も呼び戻すのはお気の毒です.それでも彼女は笑顔で拍手に応えていました.プロですね
休憩後の1曲目は1日のトッパンホールでも演奏した細川俊夫の「『レテ(忘却)の水』ピアノ四重奏のための」です 今回は聴くのが2度目ということもあって,彼らの演奏を通じて「音は水のメタファーである」という作曲者の考えがより良く理解できました
演奏後,会場から細川氏がステージに呼ばれ大きな拍手を受けました
最後の曲はムソルグスキーの組曲『展覧会の絵』です この日演奏するのは,ムソルグスキーが1974年1月に画家で建築家のヴィクトル・ハルトマンの遺作展を見て感銘を受け,その印象をピアノ音楽として同年6月に作曲したものを,フォーレ四重奏団とグリゴリー・グルツマンがピアノ四重奏用に編曲した版です
この曲は,展覧会の会場内の移動を表わす「プロムナード」を随時挟みながら 10枚の絵を音楽で表現していきます プロムナードは4回出てきますが,ピアノが中心となって演奏されるものもあれば,弦楽器が中心となって演奏されるものもあり,それぞれ工夫が凝らされています
「ピドロ(牛車)」「カタコンベ」「死せる言葉による死者への呼びかけ」などのゆったりとしたテンポの曲と,「卵の殻をつけた雛の踊り」のようなテンポの速い曲との対比が鮮やかで,同時にピアニッシモからフォルティッシモまでの音域の幅がとても広い(ダイナミックレンジが広い)ことに気づきます
最後の「バーバ・ヤガー(鶏の足の上に建つ小屋)」から「キエフの大門」に至るフィナーレは圧巻で,オーケストラに匹敵する迫力でした こんなに面白い「展覧会の絵」を聴いたのは初めてです
オリジナルのピアノ独奏による演奏とも,ラヴェルのよるオーケストラ編曲版とも違う,ピアノと弦楽三重奏による独特の色彩感が魅力です 弦楽器はヴァイオリン,ヴィオラ,チェロが各1挺と少ないため,オーケストラと違って個々の楽器の特性が際立って現れます
とくに第1ヴァイオリンからは金管楽器(トロンボーンなど)の音が聴こえてきて驚きました
全体的には,弦楽器が自由に演奏して,ピアノが締めるべきところを締めているという印象でした
4人はアンコールに,トッパンホールでも演奏したメンデルスゾーンの「ピアノ四重奏曲第2番ヘ短調」から第4楽章「フィナーレ」を超スピードで演奏 それでも鳴り止まない拍手にベートーヴェンの「ピアノ四重奏曲 変ホ長調作品16」から第2楽章「アンダンテ・カンタービレ」を演奏しました
私はこの曲を初めて聴きましたが,まるでモーツアルトのようで,とても良い曲だと思いました
サイン会があることを見越して,家からブラームス「ピアノ四重奏曲第1番,第3番」とモーツアルト「ピアノ四重奏曲第1番,第2番」のCDの紙ジャケットだけを引き抜いて持っていきました 2曲のアンコールを聴いた後,すぐにロビーに出てサイン会の列に並びました
今回は2番でした
サインを求めると,なぜか4人ともジャケットを横にしてサインをしています 4つのサインが揃ったろころで,あらためて見てみたら,それぞれの頭の上にサインしたのでした
脚の痛さにもめげず素晴らしい演奏をしてくれて,笑顔でサインに応じる車椅子姿のエリカさんが痛々しかったです
それにしても,横浜は遠いです 巣鴨の自宅から横浜のホールまでドア・トゥ・ドアで約1時間半,交通費は往復で約1600円もかかります
サインをもらって地下鉄・JR乗り継ぎで家にたどり着いたのは23時でした
今回のコンサートはそれに十分値する素晴らしい公演でしたが,そう頻繁に聴きに行けるところではありません
これからも厳選したいと思います