10日(日・祝).わが家に来てから今日で742日目を迎え,日経の「政府の借金はなぜ1000兆円超まで膨らんでしまったのか」の記事を見て 日本の将来を憂いている 動物にしては殊勝なモコタロです
国民1人当たり800万円の借金になるまで誰が放っておいたの?
閑話休題
昨日,東京オペラシティコンサートホールで,東京交響楽団のオペラシティシリーズ第94回定期演奏会を聴きました プログラムは①武満徹「弦楽のためのレクイエム」,②ドビュッシー「交響詩”海”」,③ブラームス「交響曲第1番ハ短調」です
東京交響楽団は創立70周年を記念してヨーロッパ公演(10月20日のポーランド公演~クロアチア~ウィーン~ロッテルダム~27日のドルトムント公演)に出ますが,この日のプログラムはそれと同一内容で,いわば公演旅行のプレコンサートです
1曲目は没後20年を迎える武満徹の「弦楽のためのレクイエム」です この曲は1957年に東京交響楽団が委嘱した作品です.今年はあちこちのコンサートホールで武満徹の曲が演奏されますが,数多くある彼の曲の中で 私にとって一番好きな(分かり易い)曲です
武満徹はこの曲について「レクイエム」でなく「メディテーション」でも良かった,と語っているようですが,どちらにしても,瞑想的な曲想です
オケの弦楽器メンバーのみが配置に着きます.あれっ?と思ったのはコンマスのグレブ・二キティンが現れたと思ったら,次に拍手の中を もう一人のコンマス・水谷晃が登場したのです この日の公演はヨーロッパ公演旅行を控えたプレコンサートなので,多分ヨーロッパに行く二人のコンマスが出演することになったのでしょう
ジョナサン・ノットが登場して演奏に入ります.レント~モデレ~レントという楽想ですが,終始静かなメロディーが会場を満たします
管楽器と打楽器,ハープ奏者が入場し,ステージを埋め尽くします フル・オーケストラによって演奏するのはドビュッシーの交響詩「海~管弦楽のための3つの交響的素描」です. 「海」というタイトルから,ドビュッシーは荒くれる海を見ながらこの曲を作曲したのかと思いきや,フランスの内陸部のブルゴーニュ地方で休暇を楽しんでいた時期に書き始めたといいます
作曲家のイマジネーションは凄い とあらためて思います
曲は第1楽章「海上の夜明けから真昼(正午)まで」,第2楽章「波の戯れ」,第3楽章「風と海の対話」から成ります この曲は歴代の指揮者が取り上げて来た「東響の得意とする曲」の一つです
ノットはオーケストラから色彩感豊かな音楽を醸し出します.フルートが,オーボエが,クラリネットが,そして弦楽器が刻々と変化する海の印象を描いていきます
休憩後はブラームス「交響曲第1番ハ短調」です この曲は1855年頃に構想され,最終的には1876年に完成しているので,完成まで20年以上の年月がかかっています
難産の上に生まれた第1番でした.ブラームスにとってベートーヴェンの9つの交響曲はエベレストよりも高い山,それも山脈でした
それを乗り越えるために20年間 遠回りして山頂にたどり着いたのでした
ハ短調はベートーヴェンの第5交響曲”運命”と同じ調性です.「運命交響曲」と同じように,ブラームスの第1番は「苦悩を乗り越えて勝利に至る」といったコンセプトを持った曲です
指揮者ハンス・フォン・ビューローはこの曲をベートーヴェンの第9番に続く「交響曲第10番」と呼びましたが,ベートーヴェンの精神を受け継ぐ真の作曲家はブラームスであるということを表わしています
第1楽章はティンパ二の連打で開始されますが,人間の運命を刻んでいるかのようです 第2楽章はアンダンテの穏やかな曲想です.オーボエの荒絵理子,フルートの相澤政宏,クラリネットの吉野亜希菜,ホルンの上間善之の演奏は素晴らしく,終盤のコンマス・水谷晃のヴァイオリン・ソロは輝いていました
第3楽章を経て,間を置かずに第4楽章に入ります この楽章では,ブラームスがシューマン夫人・クララの49歳の誕生日に贈ったアダージョの旋律がホルンによって奏でられます
これこそ,ベートーヴェンの第九の最終楽章に出てくる「歓喜の歌」のテーマに匹敵する重要なテーマ音楽です
弦楽セクションによる演奏は厚みがあり重厚感に満ちています
ジョナサン・ノットの中低音重視の思考が演奏に表れています
そしてフィナーレを迎えますが,ジョナサン・ノットの気迫がオーケストラに乗り移ったかのような渾身の演奏が展開されました
会場は拍手とブラボーの嵐です この雰囲気をそのままヨーロッパ演奏旅行に持っていってほしいと思います
イギリス生まれのジョナサン・ノットは,バンベルク交響楽団首席指揮者を16年間務めるなど 主にドイツのオーケストラでの活躍が目立ちますが,その一方で現代音楽の代名詞的なオケ,アンサンブル・アンテルコンタンポランの音楽監督を務めた経歴からも分かるように,古典から現代まで幅広いレパートリーを誇る指揮者です 私は彼の演奏では 古典派,ロマン派が好きです
東響を振ったベートーヴェンの「交響曲第5番ハ短調」の演奏は,今まで聴いた運命交響曲のうち最高に感動した演奏でしたし,今回のブラームスの第1番も気迫あふれる素晴らしい演奏でした