22日(土).わが家に来てから今日で754日目を迎え,息子が買ってきたオヤツが 自分にも食べられるかどうか匂いを嗅いで確かめているモコタロです
椎茸ねぇ 買ってくるのはいいけど ぼくにも食べられるのかな ?
閑話休題
昨夕,NHKホールでNHK交響楽団の第1845回定期演奏会を聴きました プログラムは①ドヴォルザーク「チェロ協奏曲ロ短調」,②チャイコフスキー「交響曲第6番ロ短調”悲愴”」です
①のチェロ独奏はロシア生まれのアレクサンドル・クニャーゼフ,指揮は2001年から09年までボリショイ劇場音楽監督・首席指揮者を,現在はデンマークのオーデンセ交響楽団首席指揮者を務めている ロシア出身のアレクサンドル・ヴェデルニコフです
アレクサンドル・クニャーゼフの演奏を初めて聴いたのは2014年5月5日に東京国際フォーラムで開催されたラ・フォル・ジュルネ音楽祭です ドミトリー・リス指揮ウラル・フィルのバックでドヴォルザーク「チェロ協奏曲ロ短調」を演奏しました
あの時は ほとんど目の前で聴いたのでハンパない迫力を感じたのを覚えています
オケのメンバーが配置に着きます.コンマスは伊藤亮太郎です 弦の配置は左から第1ヴァイオリン,第2ヴァイオリン,チェロ,ヴィオラ,その後ろにコントラバスという並びです.ヴィオラの首席には新日本フィル首席の篠崎友美がスタンバイしています
新日本フィルはこの2日間(金・土)トリフォニーホールで定期演奏会があり N響とバッティングしているので,彼女は降り番ということで,N響に客演することになったのでしょう
彼女のN響への客演は以前もありました
クニャーゼフがヴェデル二コフと共に登場し指揮台の左サイドにスタンバイします ヴェデルニコフはもっと年寄りだと思っていたら若いので意外でした.プロフィールで確かめると1964年生まれなので まだ54歳.指揮者の世界ではまだ「はなたれ小僧」です
ヴェデル二コフのタクトにより第1楽章に入ります オケに続いてクニャーゼフの独奏チェロが力強く入ってきます.全身全霊を傾けてチェロに対峙している様子が聴く側に伝わってきます
良く見ると,まだ3分も経たないのに弓の糸が切れて垂れ下がっています
それほど強く弾いている証拠です.それにしてもスケールの大きな演奏です
第2楽章のアダージョでは独奏チェロが美しいメロディーを朗々と歌い上げます とくに弱音の繊細な演奏が印象的です.クニャーゼフという人は「大胆にして繊細」という言葉がピッタリのチェリストです
第3楽章でもスケールの大きな音楽を奏でますが,彼は曲の世界に深く入り込んで入魂の演奏を展開します
オケもオーボエ,クラリネット,フルート,ホルンを中心に素晴らしい演奏を繰り広げました
会場いっぱいの拍手とブラボーに,クニャーゼフはJ.S.バッハ「無伴奏チェロ組曲第2番」から「サラバンド」をしみじみと演奏し,聴衆のクールダウンをはかりました
休憩時間には必ずロビーに出ますが,N響の場合は男子トイレが長蛇の列です 女性の方はそれ程でもありません.前日の浜離宮朝日ホールのランチタイムコンサートとは逆に,N響定期は男性比率が高いと思われます
後半はチャイコフスキー「交響曲第6番ロ短調”悲愴”」です この曲は第1楽章「アダージョ アレグロ・ノン・トロッポ」,第2楽章「アレグロ・コン・グラ―チア」,第3楽章「アレグロ・モルト・ヴィヴァーチェ」,第4楽章「終曲:アダージョ・ラメントーソ」から成ります
ヴェデルニコフが再度登場しますが,譜面台はなく,彼はタクトを持っていません つまり彼は両手により暗譜で指揮するようです
第1楽章冒頭はファゴットのうめくような低音の主題から入りますが,暗いですね
こんなに暗い曲も珍しいでしょう.第2楽章は一転,ワルツのような明るい音楽です
これを聴いて救われるような気持ちになります
第3楽章は行進曲風のスケルツォです.これで終わってしまえば,ベートーヴェンの「苦悩から歓喜へ」という運命交響曲と同じ曲想になっていたのに,再び第1楽章の暗い世界に逆戻りします
そして静かに静かに曲を閉じます.だから悲壮,いや悲愴なのです
ヴェデルニコフは,第2楽章,第3楽章,第4楽章を,間を空けずに続けて演奏しました 私は前日,ヴァイオリニスト・渡辺玲子の「レクチャーコンサート」で,「曲によるが,前の楽章の終わりは次の楽章の冒頭に結びついている.したがって楽章間を大きく空けてはならない」という話を聴いて,なるほどと思っていましたが,さっそく この日の「悲愴交響曲」の演奏でそれを体験出来たことになります
悲愴交響曲のコンサートでよく経験するのは,第3楽章のスケルツォが勇ましく終わった途端 盛大な拍手が起こることですが,”渡辺理論”から言えば,これは「やってはいけない」行為なのです 単に「緊張感を途切れさせないように」ということだけではなく,作曲者の意図を十分に汲んで,第3楽章の終わりの余韻がそのまま第4楽章につながっていることを耳で聴いて認識すべきなのです
ヴェデルニコフはまさに正しい解釈によって演奏を組み立て,聴衆は常識をもって耳を傾けたことになります
さて,全体を通して,弦楽器群が素晴らしい音を出していました 特に低弦のチェロとコントラバスが厚みのある美しい音でした
管楽器では,やはりオーボエ,クラリネット,フルート,バス―ン,ホルンが良く,また打楽器群が素晴らしいパフォーマンスを見せていました
これはヴェデルニコフの「思い切っていけ
」という指示によるものかも知れません
ヴェデルニコフの指揮を見ていて,なぜかロシアの巨匠 故・エフゲニー・スヴェトラーノフを思い出していました 彼はヴェデルニコフと同様,かつてボリショイ劇場で指揮をとっていました.N響定期演奏会でチャイコフスキーのバレエ音楽(オーチャードホール)やマーラーの交響曲第5番(NHKホール)を聴いたことを良く覚えています
タクトを持たず,巨体を揺さぶらせて 最小の動きで最大の音を出させていました
愛すべきオヤジ的指揮者でした
ヴェデルニコフは両手を大きく振って分かり易い指揮をしていましたが,時に何もせずオケの自主性に任せている時もありました
「ロシア出身」「ボリショイ劇場の指揮者」「タクトを使用しない」というスヴェトラーノフと共通の特徴を持つ若きヴェデルニコフは,彼の精神を受け継ぐ第二のスヴェトラーノフになることが出来るのか この日の指揮ぶりを見て期待が高まりました