2020年5月9日 朝刊
新型コロナウイルスの感染拡大による失業、休業で生活が苦しい人を狙い、ニセ電話詐欺グループが会員制交流サイト(SNS)での闇バイト募集を活発化させている。捜査関係者は、捕まるリスクが高い現金の受け取り役に失業者らを利用しようとしているとみて警戒。記者がSNSで闇の仕事を手配するリクルーターに接触すると、誰でも簡単に犯罪に関わりかねない危険な実態が浮かんだ。 (奥村圭吾、井上真典)
「コロナで仕事のない人必見」「闇バイト。五日間都内であります」。大型連休中、ツイッターには詐欺を信じた高齢者から現金などを受け取る「受け子」や、だまし取ったキャッシュカードで現金を引き出す「出し子」を募る投稿が相次いだ。
記者は「失業中の男性」と称してリクルーターに接触を試みた。メッセージを送ると、秘匿性が高く、やりとりの復元が困難な「テレグラム」というSNSに誘導された。
「募集している案件は受け子、出し子、たたき(警察用語で強盗の意)になります」「全国どこでも紹介可能です」「基本的な受け出しですと、平均で10万円~、たたきは50万円~になります」。丁寧な文言が、かえって不気味に映る。
事前に面談し、金の持ち逃げを防ぐため顔と身分証の撮影が条件。「仕事」の日はスーツを着てタクシーで移動し、交通費は全額返還するという。
「コロナで仕事ができない人が多いから人気か」と聞いてみると、「失業の方の相談が増えている」「競争率が高くて埋まるのが早い」と答えた。「逮捕が怖い」と尻込みすると、「見張りを数人準備している」「知り合いに話さなければ大丈夫」と説得された。
警察庁などによると、SNS上の闇バイト募集などの実数は把握できていないが、新型コロナウイルスによる生活困窮者を名指しした書き込みは感染拡大に伴い目立つようになった。募集行為だけでは違法性がないため、取り締まりや削除もできないという。
実際に生活に困って闇バイトに応募し、逮捕されるケースも出ている。
今月七日、受け子役とみられる神奈川県海老名市の無職の男(32)が、川崎市の八十代女性から四月九日にキャッシュカード十枚を盗んだとして、警視庁中野署に窃盗容疑で逮捕された。女性の口座からは百十万円が引き出されていた。男は「金に困り、ツイッターの闇バイトに応募した」と供述しているという。
警視庁の捜査関係者は、自治体の休業要請で五月以降の給与や賞与が大きく減少する業種もあり、闇バイトへの応募者は増えるとみる。「お金を受け取りに行くだけでも詐欺や窃盗罪に当たる。安易に手を出さないで」と呼び掛けている。
◆不審電話#9110に相談を
武田良太国家公安委員長は8日の閣議後記者会見で、新型コロナウイルス感染症に便乗したキャッシュカード詐取事件や、休業店舗への窃盗事件などが発生しているとして「不安や窮状につけ込むような犯罪を断じて許すことはできない。都道府県警に取り締まりの徹底を指示している」と述べた。不審な電話やメールを受けた場合は、最寄りの警察署や警察相談専用電話「#9110」に連絡するよう呼び掛けた。