先生と呼ばれた女(前篇)現代ビジネス編集部
関西一円で巨額の寄付を集める
「あの女霊能師にやられて、私は高額の壺やペンダントなどを購入し、膨大な寄付もしてきました。その総額は3500万円ほどになります。
山上容疑者の母親が旧統一教会に寄付したうち、2000万円程度はあの女がかかわっています。関西地方の旧統一教会で霊感商法に携わる人物のなかでも、最も悪質な人だと思っています」
こう話すのは、数年前まで旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)に在籍していた元信者のAさんだ。Aさんは、山上徹也容疑者の母親とも旧知の関係にある。Aさんの自宅の居間には、今も旧統一教会で買わされた壺、ペンダント、指輪などが埃をかぶったままほったらかしになっている。
安倍晋三元首相の射殺事件を引き起こした山上徹也容疑者は、いま精神鑑定留置となっている。山上容疑者は、母親が旧統一教会に1億円以上の寄付などをさせられ、家庭崩壊に追い込まれたことが動機だと説明しているという。
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山上容疑者の母親が寄付を余儀なくされた「霊能師」なる女性が、旧統一教会に存在することが「現代ビジネス」の取材でわかった。
この東山美奈子氏(仮名)は、大阪府東大阪市の旧統一教会に所属し、霊感商法関連の裁判資料の組織図では「先生」と位置付けられている。だがその実態は関西一円で「霊能師」として振る舞い、巨額の寄付を集めている中心人物なのだという。
「信者を恐怖のどん底まで突き落とさんばかりに畏怖させて、最後に登板するリリーフエースが東山さんでした。寄付をするという言質を取り、高額な契約書にサインさせる統一教会の切り札的人物でした」(Aさん)
全国霊感商法対策弁護士連絡会の加納雄二弁護士(大阪弁護士会)は、この東山氏を裁判所で尋問した経験がある。加納弁護士もこう証言する。
「私は東山氏が関係した10人以上の被害者の案件を手掛けてきました。東山氏は一見するとただのおばさんですが、旧統一教会のモンスターです。
口八丁手八丁で、悩みを抱える相手に付け込んで不安に陥らせることに長けている。30年以上にわたって『霊能師』としてカネを信者から旧統一教会の壺や多宝塔を強引に買わせ、資産を寄付させている。総額ですか? 何億なんてものじゃない。30億円は行くでしょうし、100億円くらいあってもおかしくない」
床に倒れ込んで悶絶
冒頭の元信者・Aさんは、25年ほど前、繁華街で声をかけられて旧統一教会に入信した。
「最初はアンケートだと言って呼び止められたんです。手相の話になって『近くにいい先生が見てくれるから』と連れていかれました。その後、ビデオセンターという統一教会の拠点でいろいろなビデオを見せられ、やがて入信しました」
入信したAさんがずっと気にしていたのは、かつて授かった子どもを1人、幼い頃に亡くしたことだった。Aさんを勧誘した信者は「素晴らしい先生がいるから見てもらおう」と誘った。東大阪市の旧統一教会でAさんに向き合ったのが、東山氏だった。
「霊界で子供が苦しんでいる。私にはよく見える」
「ご先祖の色情因縁が、苦しみの理由だ」
「救ってあげられるのは、あなただけ」
Aさんに向かって矢継ぎ早に語った東山氏は、気がつくと床に倒れこんだ。
「うう、苦しい」
そう言って悶絶しはじめたのだという。
東山氏はさらにこう言った。
「霊界のお子さんは崖っぷちだ。今は私がなんとか抑えている。最後はあなたが助けるしかない。今度はあなたの命が危なくなる。霊界解放が必要だ」
「Aさんの一家が絶家(やがて途絶える)になる」
床に伏せたまま東山氏は言葉を継いだ。
「ご先祖様が献金を待っているのが見える」
「現金があるなら、清めなければならない」
恐怖のどん底に突き落とされたAさんが回想する。
「いま寄付しないと、亡くなった子どもが霊界でさらに苦しむ。私の命も奪われてしまうと思って、その場で寄付を約束しました」
献金マニュアルを入手
東山氏は当初、寄付の額は2100万円だと言ったが、Aさんにすぐに用意できる額ではなかった。すると額は530万円に「減額」された。翌日、旧統一教会の別の信者に言われるまま、Aさんは銀行に電話をさせられた。その上で現金を引き出し、東山氏に手渡すことになった。
受け取りの際に、東山氏はロウソクの灯った暗い部屋で、現金に塩をふって「お清めを」と語った。その姿はさながら「霊能師」のようだったという。
「今思えば、最初に2100万円というのは、入信前にアンケートなどで財産なども聞かれて、そこに書いた内容をもとにしているのです。私は3000万円近い預金や株などの資産があったので、そこから東山氏は2100万円という額を決めたのでしょう。
530万円の寄付の後も、100万円するペンダントや壺を買えば、亡くなった息子が無事天国に無事行けると言われ、けっきょく2100万円を支払うことになりました。その後も、自宅には200万円の現金が残っていましたが、それも東山氏が『清めましょう』と言うので預けると、半年以上も棚ざらしされた挙げ句、最後は献金としてとられました。東山氏にはいつも口にする決め台詞があって、それは『霊界解放』という言葉でした」(Aさん)
「現代ビジネス」は旧統一教会が使用していたアンケートやマニュアルも入手した。ただのアンケートのはずなのに、《経済力》という項目には、
《1. 多宝塔を買える(540以上、1000以上)
2. 300以上動かせる
9. 退職金あり》
と相手の懐具合を値踏みする記述がある。数字は当然「万」の単位であろう。
アンケート項目アンケート項目
また《霊界を変える》というマニュアルを見ると、
《トークで大方の経済力把握》
と、信者からカネを奪うことを優先させる記述が目立つ。
後篇では、このAさんが東山氏の「協力者」となっていった経緯、そして山上容疑者の母親が「時の人」として旧統一教会で優遇されていた実態についても克明に明かされる。さらに現代ビジネスが行った東山氏への直撃取材の驚きの結果も示そう。
【本人に直撃取材】統一教会で「先生」と呼ばれた女霊能師は、こうして山上徹也の母に近づいた!
先生と呼ばれた女(後篇)
現代ビジネス編集部
「時の人」と呼ばれていた山上徹也の母
山上徹也容疑者の母親が寄付を余儀なくされた「霊能師」なる女性が、旧統一教会に存在することが「現代ビジネス」の取材でわかった。
この東山美奈子氏(仮名)は、大阪府東大阪市の旧統一教会に所属し、組織図では「先生」と位置付けられている。だがその実態は関西一円で「霊能師」として振る舞い、巨額の寄付を集めている中心人物なのだという。前篇に引き続き、この東山氏の実態を明かそう。
前篇「統一教会の「女霊能師」の素顔と手口」もあわせてお読みください
Aさんは熱心な信者となった。白いバンに乗って3〜4人でスルメの干物の行商にも参加した。これは旧統一教会で「マイクロ」と呼ばれる活動だ。
街頭では信者の勧誘にもたずさわり、東山氏のような「霊能師」のサポート役もしたこともあった。Aさんが振りかえる。
「東山氏が信者を口説き、その最後に献金を求めるタイミングで、近くにいる私が加勢しました。『私も530万円献金をして霊界の子どもを救った』『定期預金を解約して天にささげた』……そうやって合いの手を入れ、断れないように仕向ける役割だったのです」
最後に寄付を決断させるのは旧統一教会内では「クロージング」と呼ばれており、その手法はマニュアルにも掲載されている。
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しかし、Aさんは旧統一教会が手段をいとわずにカネ集めに狂奔する姿に、だんだん疑問を持ち始めた。献金のマニュアルの存在も知った。旧統一教会に献金を続け、自己破産する実例もたくさん見てきて、やがて旧統一教会を脱会した。Aさんが知っている自己破産の実例の一人こそ、山上徹也容疑者の母親である。
「あのお母さんには、私も何度か会っています。お金を持っている信者のことを、旧統一教会は『時の人』と呼び、他の信者より優遇して献金を出させようとしていました。だから、山上容疑者のお母さんも、幹部は『時の人』と読んで丁寧な対応をしていました。早々に東山氏が登場し、多額の献金を出すように仕向けたのだと思います」(Aさん)
旧統一教会は記者会見で、「2009年からコンプライアンスを徹底させ、それ以降はトラブルはない」と断言している。
「北朝鮮がサリンをまく」
だが、全国霊感商法対策弁護士連絡会の加納雄二弁護士(大阪弁護士会)が担当した霊感商法被害は2011年から2016年にかけてのものだ。Aさんと同じように、東山氏によって1千万円近い寄付をさせられていた女性・Bさんのケースを見てみよう。
Bさんは、東山氏の「霊能師」ぶりを詳細にメモしていた。Bさんの了解のもとに、それを引用する。
《家系図を作り(東山氏が)色情因縁の強い家系だと言いました》
《あなたを中心人物として先祖を救わなければならない。先祖代々の供養をしないと不幸が家族、子孫に及ぶ》
そう言われたBさんが恐怖におびえると、東山氏はこう畳みかけたという。
《先祖が霊界で苦しんでいる。寄付されば解放される》
《災いが広がらないようにするには、献金しなさい》
東山氏は他の信者も呼び、Aさんと同様の手口でBさんを囲むようにして、断われない状況を作って、献金を約束させたという。このときBさんは、現金250万円を差し出すことを余儀なくされた。
裁判で提出された東山氏の顔写真裁判で提出された東山氏の顔写真
Bさんの被害金一覧表を丹念に読み込んでいくと、2012年には
《北朝鮮がサリンをまく準備をしているので、止めるために献金が必要》
と荒唐無稽なウソを信じさせ、Bさんに52万円を寄付させている。
2013年になるとBさんは、旧統一教会の創始者・文鮮明氏の体液が入っているという「聖酒式」を飲む儀式に誘われた。
《聖酒を飲まないと天国に入れません》
《聖酒を飲めば、生まれながらに持っている罪を取り除いてもらえる》
こう言って献金を求められたBさんは、40万円を白い封筒に入れ「感謝献金」と書いて差し出した。
2011年から2016年まで、5年間で旧統一教会がBさんから引き出した献金総額は936万円あまりになった。
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記者は東山氏の自宅に向かった
その後、脱会したBさんとは係争になったが、東大阪市の旧統一教会は「回答書」という書面で、こう記している。
《(Bさんは)熱心な信者。「畏怖、困惑し、献金を強いられること」や「詐欺、脅迫」は確認できません》
しかし、過去の判例から加納弁護士が「訴訟をすれば満額の被害回復が可能」と指摘した途端、旧統一教会は「550万円を22回にして支払う」と支払い義務を認めたという。合意書が交わされたのは、2016年12月のことだった。
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山上容疑者の母親だけでなく、多数の信者に献金を迫った東山氏は、過去に霊感商法被害の民事裁判で何度も証言台に立っている。「現代ビジネス」は、その記録も入手した。
法廷では、自らを「霊能師」であることは否定しながら「家系図の先生という人もいます」と東山氏は語ったうえ、こう証言している。
「霊界解放の話はしました。本当にお金だけが霊界解放かといえば、一切そうではない」
「献金の効果は具体的には言っていない」
あくまで、信者自身の意思による寄付だと主張したのだ。だが、このときの判決では被害者の主張が認められている。
旧統一教会が訴訟で非を認め、元信者に返金した裁判も見てきた加納弁護士は、「霊能師」である東山氏が言葉巧みにカネ集めをしてきた実態をこう話す。
「2と1は旧統一教会にとって原理数などと呼び、好まれているものでした。だから2100万円という寄付額だった被害者を複数知っています。Aさんの場合は530万円でしたが、これも5に3をプラスすれば8だから『末広がりで霊界から救い出す』などと東山氏はいい加減なことを言って出させていた。
東山氏が『霊界』を舞台装置にして被害者を混乱させたうえ、正常な判断をできなくさせて、一気にカネを出させる話術は驚くべきものです。いま思えば、ウソばかりでとんでもないものだったのです」
「現代ビジネス」は、女霊能師と言われた東山氏の見解を問うべく、その自宅を訪ねた。事前の取材によれば現在80歳くらいだが、まだ元気だと関係者から聞いていた。自宅のインターホンを押し、旧統一教会のこと、さらに「女霊能師」のことを聞きたいと記者は問うた。すると、まくし立てるような怒声がインターホン越しに響いた。
「まだいい加減なことをやっているのですか? そんなもの(注・霊能)あると本当に思いますか。私たちも困っているんですよ!」
一方的にインターホンは切られた。
旧統一教会は、8月10日の記者会見で「いわゆる霊感商法なるものを、過去においても現在も当法人は行っていない」と説明。この種の寄付について、あくまで自由意志でのものだったと主張している。だが刑事事件では有罪判決が出て、民事訴訟でも多数が敗訴している。今回の一連の証言を見るかぎり、言い逃れは通じないのではないか。